第3話

 突発的に生じたヴィラン退治を済ませた俺たちが学園に辿り着くと、とっくに始業式は終わっていた。そんなヒーロー学園後継者クラス。たった五人のためだけの教室に、今はその五人の他にライセンスを持った一人のプロヒーローがいる。

「ハッハー! 素晴らしい。君たちは実に素晴らしい。まさか後継者クラス開設の日にBランクヴィランを倒してから登校してくるなんて」

 筋骨隆々、齢80を超えて現役最強のヒーローがマサトよりも大柄な身体を大きく動かしながら笑っている。

「あの~、Mr.報告させて貰っても?」

 Mr.ジャスティス。その男が白い歯を輝かせた。

「何だい白藤君! 逃げ遅れた市民の救助ご苦労だったね、流石№2は伊達じゃないな!」

「はあ、どうも。で報告なんですけど、変なヴィランに出会いました」

「ふむ、変とな。どんな奴だ」

「ヴィランのスーツって何か生物チックじゃないですか、それがそのヴィランのスーツは無機物っぽかったんですよ。それに、私の細白雪が弾かれたんです」

「な、細白雪がだって? それは白藤の家に伝わる三神刀の一本なのだろう?」

 細白雪、白雪、桃道院白雪。その三本の刀は至高の宝具とも言われている。だけど、過去にそれを防いだ存在がいたことも俺は知っている。

「あたしみたいな力の持ち主だったんじゃねえの?」

「ううん、異能の気配は全くなかったから」

「マジかよ、俺以上の筋肉してたとかか?」

「筋肉で細白雪がどうにかなるかバカ」

 水鏡のマサトに対するいつものバカ呼ばわりが飛びだし、一呼吸の間が置かれた。

「ふうむ、細白雪が。どうだい、大地君。君の意見は」

「実際に目にして見ないことには何とも言えないです」

「なるほど。実に君らしい。君の観察眼は先入観という物を持たないがゆえに優れているのかもしれんな! 結構、その力大事にしたまえ! ハッハー!」

「あ、Mr.~」

 呵呵大笑しながら去っていくMr.ジャスティスの背中に白藤が手を伸ばすが、彼はそのまま消えていった。


「あの爺、なんも指示しないで行っちまったけどもうあたしら帰っていいのか?」

「元々今日は始業式だけの予定だっただろう。いいんじゃないか?」

 水鏡の言葉に各々が帰り支度を始める。ヒーローの最高峰であるジャスティス名を継ぐクラスに相応しく突発的に初日からハードな訓練や合宿が行われるかとも思ったがそんなことはなく、拍子抜けしたような空気が生まれた。


「大地、また明日ね~」

「うん。部活頑張って」

 ひらひらと手を振りながら、初めに白藤が教室を出た。

「んじゃどっかで買い食いして帰るか」

「バカ野郎。おばさんが今日は早く帰れと言っていただろう」

 マサトと水鏡が次いで帰路につく。

「じゃああたしも帰るから」

「うん、また明日」

 最後に華が出て行った。


 自分の行動に不自然さはなかっただろうかと思案をしていた。

 一息ついたその瞬間、かすかに気配を感じる。

「やあ大地君」

「どうかしましたか、Mr.」

「ふむ、驚かせようと思ったのだが私の気配に気づいたか、流石だな№1!」

「たまたまですよ」

「謙虚だな! ハッハー! まあ言いたいことは多々あるのだが割愛しておこう。最重要事項だけ伝えておく。大地君、先ほどの白藤君の話に出てきたヴィランだがね」

 いつ尋ねられてもいいように平静を装う訓練を怠ったことはない。

「若かりし頃、私たちが戦った相手に細白雪の通らぬ相手がいた。ちなみにヴィランではない。彼は怪人と自称していた。そして彼以外にも怪人を名乗る存在とそれ以降も何度か戦ったよ。皆とても強かった。今の老いた私では勝てないかもしれない」

 もちろん冗談だ。

 確かにうちの怪人たちは強かったみたいだ。だが、当時ジャスティス・ワンと名乗っていたMr.ジャスティスには遠く及ばなかったと残されたデータが物語っている。

「もしも復活したというのなら、おそらく君の同期で彼らに対抗できるのは君だけだろう。万一の時は君が時間を稼いでくれ。約束しよう、必ず駆けつける。私を信じて誰も死なせないよう指揮を取ってくれ」

「出来るかどうかはわかりませんけど、やってみます」

「うむ、ありがとう。頼んだぞ№1!」

 この約束が嘘だとわかった時がきっと事実上の最終決戦だ。

 Mr.ジャスティスさえ倒せば他の異世界人共に脅威はない。

 強すぎる男の存在に、ヴィランは牙を折られ、ヒーローたちは剣を錆びさせた。

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