第3話サイゼリヤと私の駄菓子屋。

 ネタが切れた。前回の二話で全て言いたいことは言ったのである。

 だが、三話。某イタリアンレストランチェーン店「サイゼリヤ」のお話をしよう。

 私の町から一番近いサイゼリヤは電車で三駅、乗り換え一回。そこから徒歩二〇分。行ってられるか!!

 なのでサイゼリヤは久しく食べていない。そう考えると、久しぶりに食べたいと思い始めてきた。

 あれを食べたい。

 あれってミラノ風ドリア?

 違う。好きだけど。

 じゃあパスタ?

 違う。パスタも好きだけど。

 じゃあ小エビのサラダ?

 違う。毎回頼んでいるけど。

 ピザ?

 友達と行く際にお世話になっています。違う!!違う!!プチフォッカだ!!

 サイゼリヤメニュー「プチフォッカ。」

 はまぐりのような形をした小さいパンは、手元に届いた時は少し温かく口の中に入れるとモチモチとしてとても美味しい。

 ミラノ風ドリアも辛味チキンも好きだけど、プチフォッカは他の料理とは違う中毒性がある。なんとも言えない安心感を客に与えてくれるのだ。しかもスマホよりも小さいから手に持ちやすい!!美味しい!!

 さらにデザートのプリンとティラミスの盛り合わせなんて注文すると気分は豪遊ブルジョア気分である。

 値段が安いから全然豪遊じゃない?細かいことは気にしちゃいけない。そういうのは自分の気持ちが大事なんだ。

 そう、プチフォッカをおすすめしているのだからスープも紹介しよう。プチフォッカ単体でも十分美味しいのだが、コーンクリームスープ、野菜好きのポタージュ、期間限定でクラムチャウダーと種類が三つもあるのである。

 クラムチャウダーは微妙に溶けきれていないじゃがいもがとても美味しいからオススメだ。

 でもサイゼリヤ近くに無いんだよなぁ…。

 少しでもイタリアンな気分を味わうために、ラーメンにもパスタにもなるとか言うキャッフレーズで七〇円ほどで買える駄菓子ペペロンチーノをパスタにして啜っている。

 

 七〇円の駄菓子。少年時代の時は高くて買えなかったが、今は七十円なんてポンと出すことが出来る。

 正直社会人の利点なんてそんな所しか無い。金を消費出来る。これ以外は以外社会人にとって地獄である。

 まぁそんな悲しい話は置いといて…。私の町はチェーン店やラーメン店は無いけれど駄菓子屋はある。

 なんとも時代に取り残されたような気がするけれど私はそこが好きだ。

 古ぼけた店内の中で最初に視界に入るのは駄菓子ではなく複数の十円ゲーム。国盗り合戦が時々音を鳴らして歓迎してくれる。

 その後ろにはゲームセンターのとは少し違うゲーム筐体。テーブル状になっており、テーブルの物を置く部分に液晶が付いている。テーブルの横には効きにくいボタン達が設置されていて二十円ほどでプレイが可能である。

 奥の方には店の主であるお祖母様お二人が子供達を微笑ましい顔で見つめており、手作りおでんも売っている。

 下校時間を過ぎると子供達は一度家に帰った後にこの駄菓子屋に集まって小遣いである百円を握りしめて、どの駄菓子を食べようかと普段あまり使わない頭をフル回転させるのである。

 ただ、この百円を増やす方法がある。それが国盗り合戦等の十円ゲームである。ゲームをクリアすると白い板が手に入り三十円分の駄菓子と交換出来るのだ。ただし失敗したら十円は吸い込まれる。

 その十円が吸い込まれるか、三十円を手に入れられるかというスリルを味わいながら彼等は戦うのである。

 「…この十円。この十円でイケる…。」そう言いながらゆっくりと十円を入れる小学生高学年程の少年は某ギャンブル漫画の様に鼻と顎が尖っているような気がするが気のせいであろう。

 私は注文したおでんの乗っかった皿をゲーム筐体の上に置き、おでんを食べながらその風景を見守っていた。

 四十円ほどで食べられるはんぺんは非常に安く、コンビニのおでんなんかよりもずっと美味しい。

 パクリパクリとほうばっていると先ほどの少年が落胆している。おそらく十円が吸い取られたのであろう。

 「…次はイケる。次はイケる。」その年でギャンブルに目覚めるなんて将来が不安である。呟きながら十円を入れる少年を見ながらそんな事を思った。

 なんだか私も十円ゲームをやりたくなったが今は少年のターン。おとなしく筐体ゲームでもやろう。

 お祖母様に許可をもらってから、床に置いてあるコンセントを電源に入れると、ブラウン管テレビのように映像がにじみ出てきた。映像が鮮明になるのを待ってから二十円を入れゲームを始める。

 映像の隣にはおでんの乗っかていた皿。効きにくいボタンを押しながら黙々とゲームをするとすぐにゲームオーバーになってしまった。

 悔しさを少し感じつつゲーム筐体に心のなかでお礼を言ってからコンセントを抜く。プツンという音とともに中心に光が向かっていき消えた。


 十円ゲームの方を見てみると少年達は諦めたように駄菓子を物色している。これはチャンスだ。

 十円ゲームをやるためにまず投入口に十円を入れるとプラスチックで出来たレールの上をコロコロと進みレバーの横で止まる。

 十円ゲームのルールはレバーの力をうまく調整して、途中にある落とし穴に入らないように十円をゴールまで導くという単純なゲームである。 

 だが、単純だからこそ奥が深い。

 レバーの力調整を間違えると十円玉の転がるスピードが早すぎて奥に設置されている落とし穴に十円が飲み込まれてしまうのだ。

 三列目までは、穴の位置が奥にあるのに下り坂なのでレバー調整は弱く打てばゴールまで行くのだが、四列目が問題だ。力を入れ過ぎると奥にある落とし穴に飲み込まれ逆に弱すぎるとレールが上り坂になっているため、坂の途中の穴に飲み込まれる。ここは長年の勘でレバーの力調整をして打つしか無いのだ。

 仮に四列目をクリアしてもまだ二つある。五列目は思い切り打てば途中の二つの落とし穴に引っかからずに次のレバーまで行けるのだが、時々レバーを打つ場所の近くにある四列目の坂道の端っこに引っ掛かり落とし穴に飲み込まれるという場合がある。

 そして最後のレール。ここは奥に下まで続く奈落の落とし穴が続いており、その落とし穴の真ん中「当り」と書いてある場所に十円を入れるとクリアになる。この当りの両隣はハズレ。思いっ切り打ってもハズレの落とし穴に行き、弱すぎても同様に十円が悲鳴をあげて落ちていく。ここはもう実力と勘でしかゴールに辿りつけない。

 攻略方法を頭の中で練った所でレバーを引き、一列目、二列目とらくらくクリアをしていたが問題の四列目で力が弱すぎたせいで十円さんがやられた。

 悔しさを顔には出さず再び十円を入れる。私は昔の様に真剣に十円ゲームを始めた。

 

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