第2話牛丼チェーン店

 「…まもなく………です…。」まどろみの状態から意識が回復すると目的の駅のそばまで電車が来ていたようだ。

 なぜ、こんなに電車の席は眠くなるのだろう?そんな事を考えながら目覚めたばかりの阿呆面で周囲を見渡す。

 スマホ、スマホ、スマホ、スマホと殆どの人間がスマートフォンの方を向いており不気味だ。いつかスマートフォンに人生を奪われるのではないかという冗談に聞こえない冗談を頭の中にある黒板に書いてすぐに消す。

 プスプスと音をたてながらゆっくりと止まった電車の扉が開くと私はゆっくりと立ち上がり電車から降りるとホームと電車の間から漏れている風が体温を奪い取ってくる。

 寒さに負けず丈夫な体を持ちとは言うが、勝てない。全然勝てないのである。子供は風の子とは誰のセリフだろう?正にその通りだと実感する今日此の頃。

 駅を出ると排気ガスの匂いが肺に入り込んできて気分が悪くなる。気分が悪すぎて吐きそうになる。

 多分人生そのものが向いていないのであろう。それでも生きないといけないのが人生なのである。

 そんな事を考えていると私の妙に考え過ぎな状態に呆れた体が馬鹿みたいに気の抜ける音をお腹から発してきた。

 「…ぐー。」そういえば朝から何も食べていないな。久しぶりにあれが食べたいと思い始めた。

 私の住んでいる場所にはチェーン店がない。日高屋なんて二駅先に行かないと無いし、サイゼリヤなんて三駅先だ。

 だから今日みたいに用があって地元とは違う場所に行くと外食店が多くて感動するのだ。

 そう、今日食べたいと思っているのはチェーン店の牛丼。なか卯、吉野家、松屋、すき家。有名なチェーン店でもこれだけある。コンビニ並みに牛丼チェーン店の種類は多彩である。

 個人的になか卯の和風牛丼が牛丼チェーン店牛丼の中では一番好きなのだが、今日はなか卯というお上品な牛丼、言うならば”お牛丼”ではないのだ。

 今日は松屋のプレミアム感があんまりない牛丼こと”プレミアム牛めし”か、すき家の”牛丼”が食べたい。

 公式サイトを見ると松屋は場所によってはプレミアムじゃない牛めしの方が売っているらしいが、私はあのプレミアム変更事件以来普通の牛めしは見たことがない。

 松屋といえば一時期販売していた麻婆カレーを再び再販してくれないかと思っている。

 麻婆のカレー?そんな事を思う人も居るだろう。名前を聞いて美味しくなさそうと思う人も居るだろう。だが美味しい。美味しいのだ。麻婆のピリリとした香りと味がカレーと一切喧嘩せず、むしろ仲良く手を取り合って踊ってくれる。

 …話が脱線してしまった。牛丼である。なぜ松屋とすき家の牛丼が食べたいのかと言えば理由は一つ。

 なか卯、吉野家と比べてあまり美味しくないからである。

 美味しくないのに行きたい?と疑問に思うであろうが、あの肉の臭みが一番凄いすき家のつゆだく牛丼を無性に食べたくなる時が何故か来るのだ。松屋は牛めしにカルビソースをかけて食べたくなる時が来るからだ。


 すき家、多分牛丼チェーン店で一番臭みが強い肉と甘しょっぱいタレが何故か私の記憶の中で時々蘇ってくる。あの不味さがすき家の強みだと私は思う。だが、すき家はその不味さを誤魔化すためかは分からないがトッピングが無駄に多い。三種のチーズ牛丼なんて初めて見たのはすき家だし、新たに春のえび塩キャベツ牛丼とか言うものも出すらしい。

 色々なトッピングがあるが、すき家はつゆだく牛丼で食べるのが一番好きだ。味は旨いとは言えないがそこに魅力を感じている。

  

 松屋、発売当時は味も美味しくプレミアム感があったが、何故かここ一年で味が落ちた気がする。まぁ、味が落ちようと大正義であるカルビソースと味噌汁があればそれでいい。

 松屋は他の店と違い、バーベキューソースやおろしポン酢、カルビソース等様々な液体を自由にかける権限をくれる。

 その中で一番好きなのがカルビソース。あの甘辛いソースが牛めしと合うのだ。個人的にはカルビソースの味を求めに松屋に行っている。

 それでいて注文をすると必ず味噌汁もついてくる。あの味噌汁も中々好きなのである。


 あぁ、牛丼が食べたい。だが周囲には牛丼屋が無く日高屋だけがある。

 今は牛丼なんだと心に決め歩くと、ついに牛丼店が見えてきた。

 あぁなか卯。牛丼も美味しいけれど、小うどん 唐揚げも美味しいなか卯。

 数年前までは発券機のボタンを押すと注文したメニューを明るい声で読み上げてくれたのに、なぜ無くなってしまったんだろう。

 唐揚げ五個をゴカラというメニューで書かれているのだが、注文をすると女性ボイスで「ゴカラ。」と明るく言ってくれていたのだ。

 小うどんは男性ボイスで「小うどん。」

 だが今は「ピロン。」と音を一回鳴らすのみで、発券機の喋る言葉はせいぜい「お金を入れてください。」「発券中です。」「ありがとうございました。お釣りをお取りください。」

 「プリン。」も何故か男性ボイスだったなぁ。そんな事を考えていると胃袋の悲鳴が聞こえてきた。

 「なか卯にしようかな。」この際牛丼なら何でもいいと自分に言い聞かせてお店の中に入るとなか卯のテーマソングが店内で流れている。

 「なか卯でっ、うっうううう~。」発券機にお金を入れて牛丼のボタンを押すと新しくなった「発券中です。」というボイスの後に機械の中からやかましい音が聞こえお釣りがザラリと出てきた。

 一時期すき焼き風丼みたいのによって和風牛丼がなか卯から消えた事を思い出し私は席に着く。


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る