第49話 産地直送

 某港町。

 鮮魚センターが立ち並ぶ港町。

 魚を食わない『つう』がここに来た理由。


 ここは夜になると『走り屋』『暴走族』が集まる場所だからだ。

 彼らは、自慢の車やバイクを見せつけるように走り、他者を煽り、事故を起こす。

 ケンカもある。

 そういうやからに憧れる人間がいる。

つう』である。


 自身も中古の古いセダンを借金してドレスアップしていた。

 センスのほどは私には解らない。

 私は、車なんぞアクセル踏んだら走り、ブレーキ踏んだら止まり、ハンドル切ったら曲がれば充分である。

 彼曰く

「だから、そんなノーマルのまま乗ってられんだよ、恥ずかしい」

 大きなお世話である。

 日本企業のトップメーカーがデザインして販売しているのだ。

 恥ずかしいとは何事か!!

 私から見れば、不恰好に低い車体。

 駐車場の出入りに斜めに入る車の方が、かっこ悪いのである。

 迷惑だし、それにうるさい。

 塗装といい、装飾といい、趣味ではない。

 馬鹿がバカを強烈にアピールしているようにしか見えないのだ。


 繰り返すが、集まるのである。

 現在13時。

 お昼真っ只中である。


「このウイングどう?」

「どうって?」

「リアのウイングだよ」

「ウイングっていうの?」

「そうだよ」

「飛びたいの?」

「なにが?」

「羽付けて飛びたいの?」

「はぁ~解んないかな~」

「車体下げたろ?サスが効かないから揺れて気持ち悪い」

「はぁ~ダメだな、まぁ今日は勉強しろよ、色んな車来るからさ」

「色んな?その中に白と黒のツートンが来ないこと祈れバカ」

「ツートンなにそれ?早いの?ダレの車?」

「警視庁!!」


「気分悪い、外を歩きたい」

「解ったよ、俺としては、この車をまだまだアピールしたりないけどな」

(アピール?それで同じ所グルグル走ってたの?)

「まぁ、だいぶ知れたかな」

「観光客しかいねぇよバカ!!」

「今頃、うわさになってんだ、峠を攻める俺のことが」

「そうだな、観光バスの無線で、バカが乱暴運転してるって噂になってるかもな」


 海岸公園で、たこ焼き食べて砂浜をブラブラ歩く。

 海風が心地いい午後だ。

 なんだろう、適当に買い物して帰りたい。


つう』の愛車を砂浜から眺める。

 私には、いかにも時代遅れの古いセダンにしか見えない、彼はボンネットにもたれ掛ってタバコを吹かしている、ご満悦である。


 問題はソコじゃない。


 夜まで何をしてればいいのだろう?難問である。

 彼の車の講釈なんてウンザリだ。


 何度か行ったトリックアート美術館が近くにある。

(行きたがらないだろうな~)

「トリックアート?いや興味ないな~、それよりもう少し走っておきたいな、ラインを覚えておきたいんだよね、身体で」

(うん、身体でラインより頭で仕事覚えなよ。そしたら始末書減ると思うよ)

「とりあえず、美術館で俺を降ろしてから勝手に走っててくれ」

「そうか、お前が乗ってると、ついセーブしちゃうんだよな、このアクセルをよ」

「なんでもいいから頼むわ」

「おう、飛ばすぜ!!」

「いや安全運転で頼むわ」


 駐車場にて

「じゃあな、6時閉館だから迎え頼むわ」

「おう、晩飯考えておけよ、じゃあな」

 ギャリギャリギャリ!! と砂利を跳ね飛ばしながら彼は走り去って行きました。

(事故らなきゃいいな、帰りタクシーになっちゃうから)

 駐車場の出口で、ちゃんと一時停止してウインカーをカチカチだして右折していきました。

(大丈夫だな、あの感じだと)


 トリックアート……何度見ても面白い……のだが……変わり映えがしない。

「すいませ~ん写真いいですか?」

「あぁいいですよ」

「はい、もっと寄って取りますよ~チーズ」

 パシャ。

 当時、デジタルカメラなんて無かった。

 インスタントカメラである。

 現像するまで、ちゃんと撮れてるかどうか解らないのだ。

 もちろん私は顔をフレームから外して撮っている。

 一人でヒマそうな男に声を掛けてくるカップルは敵である。

 私は金が絡めば依頼はキチッとこなすが、

 金が絡まなければ気分でシレッとこなすタイプだ。

 一番嫌いな言葉は『ただ働き』である。


 そんなこんなで、日が暮れて美術館を後にする。

 しばらく外で待っていると、ギャリギャリギャリ!!

「待たせたな」

「痛ぇんだよ!!」

 私の顔に跳ねた小石がクリティカルヒットしたのだ。

「悪い、悪い、パワーを持て余してんだ、コイツが」

「うるさい! 降りろ! とりあえず蹴り飛ばす!!」

「悪かったよ、メシ奢るよ、だから許せ」


 結局ラーメン屋である。

「好きなもの食っていいから」

「いいよ、味噌ラーメンでいい」

「そうか、じゃあ俺、海鮮ラーメン」


 味噌ラーメンは普通であった。

 海鮮ラーメン、カニの甲羅が入っている塩ラーメンである。

 カニは産地直送とある。

 美味そうと思うのは早計である。

 が乗っているだけの塩ラーメンである。

 カニの身ではない。

 が乗っているだけの塩ラーメンなのだ。

(甲羅食えないじゃん)

「おぉ、いい匂いするわ~カニ効いてるわ~さすが直送」

「そうか、お前がいいなら俺は大丈夫だ」

「美味かったな~海鮮ラーメン、カニの甲羅でスープ飲むとはね、出汁だしがさ、全然違うよね、さすが産地直送」

「産地ってどこなんだろうな?」

「北海道じゃね?」

「ここ港町なのに、現地産じゃないんだろうって思わなかった?」

「…………」

「塩ラーメン850円で海鮮ラーメン1200円って詐欺だよ」

「食えばわかるって、あのラーメンは美味かったって」

「塩ラーメンにワカメと甲羅で350円増しって変でしょ」

「だからそこが、産地直送でしょ」

「甲羅だけ産地直送ってなんだよ!!バカ?」

「いいの、あの甲羅でスープ飲むのがいいの」

(バーカ、お前みたいのがいるから儲かるんだろうな~)


「いくぜ!!そろそろ行くぜ!!」

「どこへ?」

「峠だよ」

「あぁ~忘れてた」

「おほほほほほほほ」

 乱暴運転で公道のゴミ、堂々の出撃である。

(帰りたいよ、恥ずかしいよ)


 色とりどりというか、毒々しいというか…

 食虫植物のような車やバイクが集まっている。

 警察来ないのか?

 パクろうと思えば、入れ食い状態だろうに。

 オンオン!! パラリラ!! ウルサイのである。

 小雨のパラつく静かな夜だろうに、

 バカのお祭りファイヤーは消せないのである。

 この程度の雨では。


「おおおおおおぉー」

 ばかが興奮して雄叫びをあげ、ハンドル握りしめてヘドバンしている。

「そうだ桜雪!! 写真撮ってくれ」

「えっ?カメラ無いよ」

「買ったんだよ撮ってくれ」

 駐車場でアピールする車(彼)をパシャ。

 車にもたれ掛った彼をパシャ。

 24枚パシャッと収めました。

 えぇ、ちゃんと収めましたよ。


 帰り道

「写真楽しみだわ~、楽しかったわ~」

「事故らなくて良かったな」

「おう」


 1週間後

「お前!写真ちゃんと撮ったのかよ」

つう』が鬼の形相で詰め寄ってくる。

「撮ったよ」

「なんで真っ黒なんだよ」

「夜だからに決まってるだろバカ」

「はっ?どうゆうことだよ」

「フラッシュ付き買わないからだろバカ」

「えっ?」

「暗かったろ、雨だし、月明かり無かっただろ」


 私は金が絡めば依頼はキチッとこなすが、

 金が絡まなければ気分でシレッとこなすタイプだ。

 一番嫌いな言葉は『ただ働き』である。



 次回 最終話 お湯なしラーメン

 さよならは言わないよ。

 きっとまた逢えるから。

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