第47話 とある女性の夕食事情5

 彼女とは週に1・2回食事に行く。

 いつからか、豆乳メロン味を7本買っていくことが習慣になっていた。

 それを、逢う度に1口づつ返してくるのである。

 ハイリスクローリターンである。


 黒田バズーカ逆噴射……円が暴騰した日、

 私は悲しみに暮れていた、今月は大赤字である。

 こちらもハイリスクローリターンである。

 日銀を信じていた、どこかでテコ入れするはずだと、

 今回こそ先送りは無いと……そんな日。


 この日も、一口飲み残した豆乳を飲み、食事へ行く。

 どうも、彼女はヒマがあれば、各地の喫茶店やら食事どころを散策している。

 そして、私を誘うのだ。

 すでに数か月先まで埋まってそうで怖いのである。


「ラーメンが一番好き……食べないけど……でも一番好きな食べ物はと聞かれたら、ラーメンって言うの!!」

(情緒不安定か?)

 軽く聞き流しながら、車を走らせる。


「今日は、蕎麦予約したの、持ち帰りで」

「いいね、さっぱりして好きだよ」

「うん! 蕎麦さっぱりしてツルッと食べれるよね」

「ケーキもあるし」

「あ~でも、蕎麦の前に、コレ食べて」

 差し出されたのは食べかけのパンケーキとピザ一切れ。

 蕎麦にたどり着く前に予想外のハードルである。

 とりあえずって量じゃないんだよな~、1食分に相当する量だよ。

「で、その後、ケーキあるから」

(蕎麦まで遠すぎるよ~)

「最後にツルッと蕎麦食べよ」

(ツルッと入るかな~)


 私が知る限り彼女の一番はケーキかアイスだと思う。

 ケーキ5~6個買ってきて一緒に食べようと誘われる。

 だいたいケーキのパターンは決まっている。

 イチゴショート モンブラン レアチーズ シュークリーム ショコラ プリン 

 このパターンが多い。

 これを各々半分食べ、コンビニのアイスを2個食って、主食を少々いただくのだ。

 主食の7割は私の負担だ。

 糖分と塩分の比率がオカシイ。

 確実に糖分過多である。

 最近これがキツイ、そのことを彼女に伝えると、油を避け蕎麦を薦めてきた。

 そういうことではないのだが、質より量というか……生クリームの量というか。

 まぁ伝わらないのである。

 県内の菓子店制覇するまで止めない勢いで検索の手を緩めないであろう。

 親のかたきのように検索である。

「限界だね!!」

「ん?」

「これ以上もう胃に入ってこない」

「ネギ入れて!七味入れて!味変えていこ!」

「無理!! 味の問題じゃなくて、量のね! キャパのね! 問題なの」

「私も頑張るから!!」

「努力?」


 そんな彼女も多少は気を使っているようで、

「すごいこと考えたの!!」

「なにが?」

「あのね、すごいこと閃いたんだよ」

「うん、なに?」

「あのね、胃薬飲めばいいんだよ!!」

「えっ?」

「あのね、胃薬! 消化薬! すごい効くの」

「あ~、胃薬に頼らない食事量というか食事内容は考えないの?」

「ん?」

「いや、だから食べ合わせとかさ、1食の量とかさ、そういう問題をクリアすれば胃薬いらないじゃない」

「ふ~ん……う~ん……ふ~ん」

 と運転中の私の顔を覗き込む。

 私の顔を見て、すべてを察しろっ!! とでも言いたげな顔である。

(そんな発想は却下なんだな)

「ドラッグストア行く」

「えっ?今日行くの」

「うん、明後日ケーキ買うから、また胃がつらくなるでしょ?」

「ケーキ明後日予約してあるよ」

(すでに)

「食べ合わせって何がいいの?ケーキに合うモノってなに?」

「いや~、ケーキ主食じゃないからね、デザートだから!合うとかじゃないんだよ」

「ラーメンにする?」

「いや、ラーメンとケーキは食い合わせがね~」

「何がいい?」

(ケーキメインだと、主食が入ってこないんだよね~)

「ケーキを減らしたらどうだろう?」

「ケーキは減らない」


「偏食の人って、ポテトチップスのうすしおメインでコンソメがおかずって言うからね」

「なにソレ?」

(それは否定なんだ)

「ん?でも同じことなの?」

(伝わったか!!)

「う~ん、そういうことなのかも……」

(そうだよ、そういうことだよ、デザート主食から脱却しようよ)

「でもダメだね~、ケーキは止めない」

(がく~ってなるよ僕は……)

やまいだよ! やまい! 医者行こう」


 ドラッグストアにて

「すいませ~ん、胃薬ってどれがいいですか?」

「そうですね~このあたりが……」

「ヒトから貰ったのが効いたんでしょ、覚えてないの?」

「うん?あっ持ってる」

「同じヤツにすれば?」

「うん」

 と60袋入りの一番大きい箱を手に取る。

「それ60袋入ってるんだよ」

「うん、でもお得だよ」

「60袋って毎日飲んでも2ヶ月分だよ」

「えっ、1日3回飲むんだよ、朝・昼・晩」

「いやいやいや、3食胃もたれってないよ、1袋飲んだら失敗なんだよ」

「えっ?」

「食い過ぎた~で飲むんだから、食い過ぎなきゃ飲まないんだよ」

「うん、でもいつも胃が辛いんでしょ?」

「うん、だからケーキをさ、減らせば、胃薬いらないんじゃ……」

 顔で解る、ダメだ。


「明後日これで大丈夫だね」

(いや、飲まないようにしようよ)

「食事するときは、コレ持ってくるからね」

(だから飲まないような食事にしようよ)

「今日は、蕎麦だったからいつもより苦しくないね」

「そうだね、でも胃薬ちょうだい」

「今?今日飲むの?」

「今、飲むの」



 次回 バレンタインデー

 毎年思う、無くなればいい。

 そうすれば、皆幸せだと思う。

 本命以外のチョコ配布禁止令を強く求めます。

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