第46話 廻るお寿司2
寿司屋というのは、いくつになっても緊張する。
未だに敷居が高いのである。
だからといって、廻るお寿司屋に行くかといえば、そうでもない。
廻るお寿司屋はファミリー受けを狙っている店が多く嫌いである。
ハンバーグ寿司ってなに?洋食?和食?となるのである。
つまり、誘われない限り寿司屋には入らないのである。
断わっておくが、寿司は大好きである。
そんな私を無神経にも寿司屋に誘う
『
自分でも大して好きではないであろう寿司を食いに誘うのである。
なぜか?
簡単である。
寿司を食う=食通であり、米を語れるからである。
寿司の旨さなど『
というか生魚好きではないと思われる彼が食うネタなぞ知れている。
小学生と同じようなネタを好むのだから。
ハンバーグ食いたきゃハンバーグ屋に行け!!
同席するとイライラするのである。
その日はカウンターで食べていた。
『
混雑していたので、しぶしぶ了承したのだ。
その中年は、ビールを飲みながら寿司を食っている。
ネタに醤油をバシバシャに浸し、皿には米粒が醤油に浮いている。
私の大嫌いな食べ方だ。
(醤油味しかしなくない?何を食っても同じじゃない?)
私は寿司のネタの先にチョンと醤油をつけて食べる。
正しいとかではない。
ネタの味が解らなくなるからだ。
しかもビール?
(嫌いだわ~)
日本酒、
純米とかはあり得ない。
ワイン、白ワイン限定。
これも解る。
炭酸ならシャンパンオンリーでしょ。
酒の飲めない私が講習で試した結果の私見だが。
左隣に魚食わない『
イライラする。
中年のゲップと同時に、私は中年を睨みつけた。
中年は少し酔っているようであった。
「大将!!アカシロ!!」
(なんだ?アカシロ?)
中年は常連のようで、注文が変わっていた。
私は食通でもなければ、寿司通でもない。
アカシロって?
むかつきより、その一言が
「へいっ」
と差し出された寿司は、
マグロの赤身とエンガワである。
(なるほど、色は赤と白だ……が……そんな頼みかたある?)
寿司を色で頼むのか?
オレンジって言ったら、サーモン来るのか?
白いのエンガワだけじゃないぞ!
(やっぱ、嫌いだ)
その後も、やたらとアカシロ連発する中年、それしか食わなかったわけではない。
途中、タコだかイカだかも頼んでいた、しかし大半はアカとシロの組み合わせだった。
その頼みかたが、私の
風貌が嫌いだ、食い方が嫌いだ、頼みかたが嫌いだ。
「出ようぜ」
『
「なんで?俺まだ食える」
「いいから!!」
見ればコチラも皿に米粒浮かして、醤油がテーブルに飛び散っている。
(タマゴに醤油つけて食ってやがる!! 目玉焼きか)
良く見れば似ているのだ。
汚い身なり、バシャバシャ食い、通ぶった頼みかた。
(あ~なるほど、イライラするわけだ)
普段の倍なのだから。
挟まれてなくて良かった。
「まだ食いたいの!寿司」
「お前、寿司嫌いだろ!」
「好きだよ!!寿司!」
「お前、魚食わねぇじゃん」
「魚だけが寿司なの?」
「寿司から魚貝類とったら、9割は酢飯オンリーになるだろ」
私も魚以外の寿司を食う、シメは芽ねぎが好きである。
だが、ハンバーグやエビフライなど寿司だと認めない。
それを中心に食い、寿司が好きだというヤツを認めない。
寿司の合間にラーメン食うヤツも認めない。
今日の『
洋食屋行こうよ、ラーメン屋じゃダメなのか。
なぜに寿司!!
「帰ろう」
「なんで?」
「不愉快だからだ!!」
「なにが?」
「雰囲気が!!」
「お前ねぇ~、そういうところあるよ。食い物屋でキレやすいよな~」
(お前ほどじゃない)
「メニューにあるものを頼んでるんだから、いいでしょ」
(その通りだが、TPOはある)
「いいじゃん、寿司屋でハンバーグを出してるんだから、コレが好きってヤツがいるから出してんだよ」
「そのことじゃねぇ」
「なに?なにが気に入らないの?」
「お前の隣のヤツが気に入らないんだ」
私は小声で彼に伝えた。
「あ~寿司通の人ね」
「寿司通?」
「あぁ、俺には解る、アレは通だ」
「あれが通か?」
「ピーンと来たね」
「俺はカチーンと来たんだが」
「あ~、お前はさぁ知らないんだよな~職人と通の、
「駆け引き?寿司屋でなんの駆け引きがあるの?」
「だから~、解ってないっていうの!! 恥ずかしいんだよな、お前と食うの」
テーブルに醤油飛び散らかして、
ビールのコップをターンと置いて、
「おあいそ!!」
と中年が立ち上がる。
ポケットから裸のグシャグシャの千円札を出して支払いを済まして出ていく。
(嫌いだわ~、財布持ち歩かないヤツ嫌いだわ~)
「かっこいいな~」
(はっ?)
「なんか憧れねぇ?ああいうの」
「いや全然!! 絶対ああはならないぞって思うよ」
「ならないんじゃない!お前じゃなれないんだ」
「うん、大丈夫!! 良かったよ安心した」
「ダメだな~お前は…」
「お前はなれるよ、きっと」
「そうか~、オホホホホホ」
馬鹿の高笑いが店内に響く。
「まぁいい、出るか?」
「うん」
「おあいそ!!」
彼はポケットからしわくちゃの1,000円札を差し出した。
断わっておくが、『
マジックテープでバリバリとする安い財布を、
わざわざポケットでグシャグシャにしたのである。
『
完全にさっきの中年にかぶれていた。
翌日
「また寿司食うの?」
「あぁ、昨日と違う店だからいいだろ?」
「いいけどさ~」
半ば押し切られるかたちで、廻るお寿司屋へ
「大将!!アカシロ!!」
「はっ?」
「アカシロだよ!!」
「いや、メニューからお願いします」
「なんだよダメな店だな!!マグロと白いのだよ!!」
(白いの?ってナニ?)
「すいません、タブレットからオーダーお願いします」
「あっ?……どうすんのコレ?」
(かっこ
「桜雪、適当に頼んで……」
「ハンバーグ無いけどいい?」
「アカシロでいいよ」
「白いのってナニ?」
「なんか、昨日の白いヤツ」
「エンガワね」
「そうソレ!!」
「エンガワってなんだか知ってる?」
「えっ?…美味いよな」
「俺は嫌いだけどね」
彼の寿司通への道は、未だ遥か高みにあるようだ。
まずは、魚食えるようになれ。
次回 とある女性の夕食事情5
相変わらずの食事事情である。
私の胃腸へのダメージは深刻である。
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