第45話 映画館にて

 普段はDVD発売まで待てる派の私である。

 しかし時としてこの1本は劇場へ!!という作品がある。

 ジュラ紀の恐竜公園の1作目。

 これは観たかった。


 そこで久しぶりに映画館へ足を運ぶことにした。

 同僚を誘ったのだ。

 そしたら付いてきたのだ。

「おう!!映画、俺も行く」

(俺も行くって言うか、来てるじゃん)

「映画とか観るんだ?」

 映画館どころか、DVDすら観ない気がする。

つう』がレンタル屋の会員になっているのはAVだけだと思ってた。

「うん?観るよ」

「へぇそうなんだ」

「おう、ドラえもんとか」

(うん、そうか)

「で?なに観るんだ今日?」

「いや、恐竜公園だけど」

「知ってる、TVで見たよCM、すごいよねー」

「あぁ、ぜひ劇場で観たくてね、誘ったの……同僚を」

「おうおう!! それでね、俺、パチンコ誘いに行ったら、映画行くって言うから付いてきた」

「そういうわけなんだ、すまん」

「いや、いいんだ」

(映画館である、『つう』もおとなしくしているはずだ……たぶん)


 映画館、上映まで時間はある。

「チケット任せろ!3枚買ってくる」

つう』がチケットを買いに行った。

 チケットを買って、カフェで時間を潰す。

 パンフを見たり、新作案内をチェックしたり、したかった……。


「なんか腹減った、下でハンバーガー食べようぜ」

 私は上映中にポップコーンを食べたいのである。

 ポップコーンなんて映画館以外で食べることはない。

 特に好きではないのだ。

 発砲スチロールのような食感に馴染めないのである。

 そして絶対飽きる。

 100%飽きる。

 時折、硬いのを噛む。

 嫌いだとは言わない、好きではないだけだ。


 だが、映画館ではポップコーンが食べたい。

 コーラ飲みたい。


「バニラシェークひとつ」

「えっ?ハンバーガー食わないの?」

「今はいらない」

「何しに来たの?」

(こっちが聞きたい、お前、映画館に何しに来たの?)

つう』は、ナントカバーガーセットを食った。

「そろそろ行こうぜ」

「あ~なんか、まだ食い足りないんだよな~」

「中で、なんか買えば?」

「嫌だよ!!高いし、大したモン無いし」

「でも、そろそろ入場だぜ」

「う~ん、じゃあ、お前ら先に行け、俺、ラーメンでも食ってから行くわ」

「あっそう、じゃあチケットくれ」

 私と同僚はチケットを貰い、映画館へ戻った。

 ポップコーンとコーラを買って、いざ入場。

 劇場で席を探す……。

 一番前のしかも端っこ……。

 最悪だ。

 早めに行ったのに、ナニこの席?

 しかも、端から3席の中心が空いている、彼は真ん中に座る気らしい。


 座ると解るのだが、スクリーンすべてが見えない。

 無理な角度でクビがキツイ。


 上映が始まった、席移りたいけど……暗くて動けない。

 適度に混んでいるようだし、諦めよう。


 上映が始まると、全体的に暗いシーンが多い。

 CGの恐竜が暗い画面で動き回るのだが、

 スクリーン全部が視界に入らないため、何が何やら解らない。


 頑張ったのだ。

 それでも愉しもうと。

 無理だった。


 映画も序盤が終わる頃、気が付いた。

 彼が来てない。

(どうでもいいが)

 しばらくすると、入場口から声がする。

「えっ、席どこ?すいませーん、席が解らないんですけど」

(『つう』だ~、迷子だ~)

「こちらです」

 小声で、係員に連れ添われて私と同僚の真ん中へ案内される。


 隣の私をじっと見て

「おう、お前もここか~!!」

(お前が席選んだんでしょ)

「観にくいな~ここは」

(だから、お前が選んだんでしょ)


 その後も小声で文句ばかり言っていた。

 うるさいから、ポップコーンを無言で差し出した。

「おう、悪いな」

 クシャクシャと苛立つ音を立てて食っている。

 食っている間は静かであろうと思ったが間違えだった。


 夜のシーンとなり観にくいながらも映画に魅入っていた。

 ふと気づくと隣が静かになっていた。

 んっ、隣を見ると『つう』が下を向いている。

 寝てるのか?

 同僚を見ると、私を見て首を横に振っている。

 なんだ?

 ちょんちょんと『つう』を、つついてみる。

 右手で力なく、私の手を払う。

(どうした?)


 そのうち

 オエッと嘔吐えずく。

(え~まさか吐かないよな)

 オーーエッ。

(勘弁してよ)

「おい、吐くならトイレ行け」

「大丈夫だ……エッ」

「行け、トイレ」

「嫌だ!!金払ったんだ、最後まで観る」

(最初も観てないんだから大丈夫だ、床見てるだけなんだから)

「行け、頼むから行け、こっちまで気分悪くなる」



 結局、終始オエッ、オエッ言いながら最後まで劇場から出ませんでした。

 吐きませんでしたが、本編終了後、私はすぐ席を立ちました。

 明るくなれば、必ず他のお客さんの、冷ややかな注目を浴びると思ったからです。


 確かにクビは痛く、酔っぱらったような気持ち悪さはありました。

つう』は、ハンバーガーにポテト、ラーメンを食べた直後です。

 気分が悪くなるのは、しょうがないと思います。


 でも、あんな席を予約したのも『つう』です。


 しばらく遅れて出てきた『つう』と逃げ遅れた同僚。

つう』の顔色は相当悪かったことを覚えてます。


 帰り道、同僚と映画の話をしていると、

「そんなシーンあったか?そのナントカトプスって何?」

「えっ、あの人食われたの?どこで?」


つう』は、まったく映画を覚えてませんでした。

 いえ、正確には観てないのです。

 下ばかり向いてましたから。

 無理もないのです、責めません。

 でもね。

 トイレに行っても行かなくても一緒じゃねぇか!!


「いや~たまにはいいね、映画館も」

 回復した彼の一言。

 2度とコイツと映画観ない。

 そう思いました。


 そして、この日以来、私はこの誓いをかたくなに守っています。



 次回 廻るお寿司2

 注文の仕方で慣れが解る。

 しかし、その注文が通なのかどうか素人には判断できない。

 にわか仕込みは危険である。

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