第40話 かき氷

 かき氷とは水である。

 水とは生命の源である。

 ゆえに、偉大な食べ物であるらしい。

 ばか曰く……。


 私は紅茶にハマっていた。

 職場の近くで見つけた小さい喫茶店。

 白い小さなビルの2階、細い階段の先に小さな看板。


 客はほとんどいない。

 狭い店内だが、ほとんど私の貸切状態、そこがまたいいのである。

 シークレットプレイズである。

 店としてはどうかと思うが。


 そしてもうひとつ、この店を気に入った理由。

 紅茶の種類が多い。

 それも、フルーツフレーバーがヤケクソか!!ってくらい多い。

 私には昔から悪い癖がある。

 コレクション癖である。

 制覇しないと気が済まない性分なのだ。

 毎日通わずにはいられなかったのである。


 断わっておくが、美味くはない。

 メロンティー、バナナティー、美味くはない。

 だが、ティーセットから丁寧に注がれる紅茶、香りは抜群にいい。

 ソコがいい。

 香りはいいのにマズイ、ソコがいい。


「で、毎日通ってるの?」

 彼女に話したのである。

「うん」

「マズイ紅茶、1杯いくら?」

「2杯分になるんだけど、800円~1,000円」

「バカなの?」

「んっ?空間を買ってるんだよ」

「客が他にいないだけでしょ」

「うーん?、まぁソレを言うとね~」

 高校生にガチ説教をくらう社会人3年目の春である。


 て言われたんだよ……。

 と『つう』に話すと

「間違ってないね。お前は正しい」

「そうか」

「あぁ、空間を買う、そのとおりだ」

「雰囲気って大事だよな」

「そう!!雰囲気!!大事だ」

「時間に対価を払ってるんだよな」

「うん、時間に対価」

(オウム返し?)

「俺もな、そういう店あるんだよ」

「へぇ~」

「よしっ、連れてってやるよ」


 歴史を感じさせるたたずまい、昭和である。

 なんだろう、駄菓子屋かな?

「ここか?」

「ここだ」

「何の店なんだ?」

「かき氷だ」

「あっ俺いいよ」

「なんで?」

「俺、かき氷ダメ、喉とか、頭とか色々痛くなる」

「ならねえよ!!」

「なるよバカ、アチコチに痛みを伴う食い物なんか食いたくねぇよ」

「ここのは、ならないから、マジで」

「意味解らないよ、あったかいの?かき氷?冷たいから、かき氷でしょ!!冷たいから痛くなるんでしょ」


 結局押し切られて入りました。


「ナニ食べようかな?イチゴにしようかな?青いのにしようかな?」

「なんでもいいよ、一緒だよバカ」

「一緒のわけねぇだろ!! 味が違うでしょ」

「一緒なの、研修で習ったでしょバカ!!シロップは着色と香料が違うだけだって」

「えっ?そんな研修知らねえよ、赤いのイチゴ味するもん」

「だから、色と香りだけなの」

「じゃあ、いいよ、抹茶あずきにするよ、シロップじゃないからね」

「俺…あんみつでいい」

「かき氷食えよ!!」

「嫌いなの! 苦手なんだよ」

「なんか食わす!! イチゴ練乳追加」


 あんみつ普通に美味かった。

 かき氷食べません。


「あ~こんな美味いのに、バカじゃない!!」

 調子に乗って氷をバカバカ、馬鹿が口に運ぶ。

「喉が痛い…頭が痛い…」

 ほらなった。

「喉がグーッと痛くなる…」

(うん解る)

「ダメだ…お茶ください」

(かき氷にお茶?)


 かき氷の器にお茶を注ぐ、抹茶あずきに番茶を注ぐ。

(奇跡のコラボだよ)

 かき回して、グイッと飲み干す。


「いちご練乳食えよ」

 ちょっと悩んで、器を持って外へ歩き出す。

 窓から眺めてると、器を天にかざしている。

(なに?聖杯気分?)

 しばらくすると、必死にかき回す、そしてまた天にかざす。

(溶かしているのか)

 赤い砂糖水を飲み干して戻ってナニ抜かすかと思いきや

「あ~美味かった」


 店を出て

「お前、かき氷、そんなに好きじゃないだろ?」

「いや、毎日のように食うよ」

「嘘だろ!毎日かき氷食うヤツいねぇよ」

「いや、食うね」

「あの店でか?」

「そうだな~、あの店はな~、水が良くないんだと思うよ」

「ナニ?」

「いや、頭痛いんだよ、今も…喉も痛かった」

「冷えたからだろ」

「違うの!! 水がキレイな氷なら、痛くならないの」

「お前が、おすすめしたんだろ!! あの店」


 何を思ったのか、おもちゃ屋へ。

「コレ買うよ」

 手にしていたのは、子供用のかき氷製造機(おもちゃ)である。

「はっ?やめとけば…」

「いや、自分で納得のいく、かき氷を作りたい」

(おもちゃをチョイスの時点で、意識低いな)

「水は~俺の地元の湧き水を使う、天然水だ!!」


 汲みに来ました。

 神社の水。

 湧き水なのか?飲めるのか?

 ペットボトルに水を汲んで、私のアパートで氷を作る。

 すでに夜。


 バカだから…ペットボトルのまま放り込んだから…氷が取り出せませんでした。

「なんとかしろよ!!」

 食わないと帰りそうにないから、

 カッターで切り裂き、砕き、おもちゃでシャカシャカと削ります。

 まぁ削れないこと、面倒くさいこと、飛び散ること、迷惑極まりない。

 で、結局シロップは市販の色つき砂糖水である。


「これだ!! 美味い!! やっぱり水だ…水が違うんだ」

(違うよ、手間取ったから溶けかけてんだよバカ)

「いくらでも食える」

 馬鹿だから、またバカバカ食いだす。

「なっ?痛くならないんだ」

 テーブルを水浸しにしやがって、シロップでベトベトじゃねえか。

「やっぱり水だよ、すべては水に行きつくんだよ、いい水を飲んでいれば健康な生活を送れるんだよ」


 翌日

 彼は会社を休みました。

 下痢による腹痛だそうです。

「神社の水じゃないのかな~」


 毎日、かき氷を食うヤツはいない…私はこのときから20年後、

 毎日、氷を食う女と食事を共にすることになるのである。



 次回 カニを食う

 私の無職時代の話である。

 カニは甲殻類である。

 良く見ると怖い生物だと思う、食えば美味いが。

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