第38話 神経衰弱と肉マンと時々カレー


 私は当時、学生のころから好きだったビリヤード熱が再燃していた。

 仕事が終われば、ビリヤード場に足を運んでいた。

 ある日、『つう』が来てしまったのだ。


「おう!!ココだって聞いてな、来てやったぜ」

(呼んでねぇー!!)

「コレなんて言うんだっけ?ボーリングじゃなくて~えーと……」

「ビリヤードな」

「そう、ビリヤード」

 と、キューを持ってブラブラしている。

(やるのか?まさか)

「ちょっと打たしてみな」

 見よう見まねで球を突く……いや正確にはカスンという音がして球は微妙にコロッと一転がりしただけだったが。

「なんだ?つまらん!!」

 台にキューを放り投げゲーム台無し。

「メシ行かね?」

「1時間くらい待ってろよ」

「え~なんだよ、こんなつまらん球転がし見てんのかよ~」

(球を転がすのはお前が下手だからだ)

「よし、じゃあ、この先のゲームセンターで待ってるよ、来いよ」

(行かないけどな)

つう』はビリヤード場を出て行った。


 1時間後、

「桜雪さん、いいんですか行かなくて?」

「いいんだよ、ほっておけ」

「でも俺たちは……後でなんか言われるんじゃないすかね?」

「俺がいいって言ったと言え」

「あの人、面倒くさいんですよ」

「あぁ~わかったよ」

 しぶしぶ、後輩を連れてゲームセンターへ向かうことになった。


つう』はパチスロのゲームに夢中であった。

「おう、今掛かったとこだ、待っててくれ」

「いや、待つくらいなら帰るわ、じゃあ、頑張れ」

「待っててくれよ~」


 しょうがないから、食堂で待つことにした。

 後輩2人と、時間潰しにポーカーを愉しんでいた。

「桜雪さん、知ってますか?ココのカレーすげぇ辛いんですよ」

「へぇ~、そんなに辛いの?」

「はい、かなりの辛さです」

「じゃあ、バカが来るまでに、一番負けてたヤツが、水なしでカレー食うってのどうだ?」

「面白いですね、やりましょうか」


 バカがテーブルにやってきた。

「トランプやってんの?」

 私は無視していたが、後輩は

「はい、ポーカーです」

「ポーカー?あぁ~なんか数字揃える系?のヤツ?」

(なに言ってんだこのバカ)


「へぇ~、お前5が3枚あんじゃん!!あがりじゃね」

「ちょっと、言わないで下さいよ!!」

(そうかアイツ5のスリーカードか)

「あと1枚であがりじゃね?」

(なんのルール持ち出してんだろう?)

「誰がババ持ってんの?」

(ババ抜きか?微妙に違う気もするが……)


つう』に話しかけれた後輩が負けましたとさ。

「カレー食えよ」

「マジで辛いんですよ~」

「食ってみてくださいよ」

「負けたらね」


 辛そうでした。

 色からして辛そうでした。

 湯気が目に痛い感じのカレーでした。


 くちびる真っ赤な後輩を見て、一笑ひとわらいして帰りました。

 会社の寮へ。


 それから、その後輩たちとビリヤードをした後は、負けたヤツが激辛カレーを食うというのが定番の罰ゲームになっていた。


 ある日、『つう』と同じ時間に会社をあがった日、

「よう、メシ行かねえか?」

 しばらく、『つう』とは退社時間が合わなかったので、

 たまにはと思い付き合うことに。

「最近、ビリヤード場ばっか行ってるんだってな」

「あぁ、昔から好きでな」

「この前、トランプやってたじゃん?」

「あぁ、ポーカーな」

「アレ教えてくれよ、面白そうだった」

「いいよ、実際にやればすぐ覚えるよ」

「そうか、今日、寮でみんな集めてやろうぜ」


 メシ食って、寮に帰って後輩2人を呼びつけてポーカー大会である。

 テキサスホールデムで覚えさせた。

 覚えさせようとした。

 無理だった。

「全然、解らん」

 単純に、5枚を配って、1回チェンジという解りやすい方式に変えた。

「えっ、何枚変えればいいの?」

 無理だった。

 ゲーム以前に、役を覚えられないのだ。


「もっと単純なゲームにして」

「何ならできんだよ」

「ババ抜きとか神経衰弱とか」

(子供か…)

「桜雪さん、神経衰弱しましょうよ」

 後輩が『つう』に気を使う。

「いいけどさ、別に」

「掛けましょうよ、負けたヤツが夜食買い出し!!自腹で」

「いいぜ!!」

 なぜか『つう』はノリノリだった。

(弱そうなんだけどな~、自信あんのかな~)

 神経衰弱って、考えてみたらスゴイ名前だよな。

 そんなにメンタル持ってくかね、このゲーム。


 もちろん『つう』の大負けである。

「しょうがねぇな~行ってくるよ」

 あきらかに不機嫌そうである。

「俺、肉マン」

 後輩達も、なんか頼んでた。


つう』が出て行ってから

「いやスゴイ負け方ですね」

「なぁ~、まさかの2組しか揃えてないもんな」

「奇跡ですね」


つう』はコンビニから帰ると

「もう一回だ!!」


 何度か繰り返した、『つう』は1勝も出来なかった。

 トップになれないという意味ではない。

 ビリを誰にも譲らなかったのだ。

(ナイス!! ガンジースピリット)


「もういいよ、食べれねえよ!!今日は終わり」

 私が言うまで、ソレは繰り返されたのである。


 週に1回くらいの割合でそんな日々が続いていた。

 食事に限らず、カラオケの支払いなども含み、何かにつけて

つう』は勝負を挑んできた。

 VS『つう』戦では、安定の勝率100%。


 いいかげん後輩が呆れてきたある日

つう』抜きで、あの辛いカレーを食べに行った。

 私も何度か食べたがアレは辛い。

 だが時折食べたくなるのである、不思議なものだ。


 店に行くと、『つう』がパチスロを打っていた。

「おうメシか~打ち終わったら行くわ」

(別に呼んでないが……)

「待ってたほうがいいんですかね?」

「あぁ、アイツのことを?」

「ちょっと待ってましょうよ」

「久しぶりに掛けますか?」

「俺たちだけでな」


 ポーカーをはじめて数分後、『つう』がやってきた。

「またやってんのか?好きだな?よし!!勝ったヤツには俺からも商品だす」

「なんかあるのかよ?」

「おう、パチスロの景品だ!」

「エロDVDか?いらん!」

「俺は欲しいです」

 後輩が喰いついた。

「そうだろ~、じゃあやろうぜ!」

(お前もやるんだ?)

「ババ抜きだ!!」

(運・勝負か……)


 その日、『つう』は勝ちました。

 嬉しそうでした。

「勝った!!勝った!!」

 と、はしゃぐ『つう』に腹が立ちました。


「じゃあ負けた桜雪さんカレーですね」

「そうだね」

「いやダメだ、勝った俺がカレー食うぞ、おごりだろ桜雪の」

(カレー大盛りにすると一番高くなるからか?)

 僕の奢らせたかったんだな…一番高いものを。


「このDVDは俺のだな」

つう』がカレーを食いながら、誇らしげに見せてきたDVD

『食糞ナントカ』

(スカトロかよ……)


 たぶん後輩も同じことを考えていたと思う。

『カレー味のうんこ と うんこ味のカレー』

 あの究極の2択を。


 その夜、DVDを見たであろう『つう』の部屋から

「うわっ!! えっ?」

 と大きな奇声が聞こえてきた。

 翌日、

「アレは無いわ~クソ食ってたもん。アレは無理」

(良かった、そこまでじゃなくて)



 次回  洋食屋なのに

 和食処ナニガシなのに、おすすめがピラフ?

 以前、書いたかも知れないが、そんな感じの話である。


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