第37話 とある女性の夕食事情4

「このお店に行ってみたいの?」

 隣の市にあるイタリアンであった。

(お値段お高めのイタリアンだな~)

「前から行ってみたかったの、ピザ食べたいの」


 人生常時低空飛行の私にとって、1人前5,000円は年に数回の一大イベントである。

 花見の約束もしていたことだし、まぁ春の一大イベントで行くことにした。


 ――当日

「コレ飲んで」

 いつもの豆乳メロン味、分量も一口分の飲み残し。

(いつも通りだ)


 高速道路

「海見える?」

「トンネル抜けると見えるよ」

「うん 海好きなの」

「そうみたいだね」

 トンネル抜けて、助手席の彼女を見ると、海見てないね、うん、いや、べつにいいんだ。


 某コーヒー店

「あっ、コレ美味しいんだよ、コレも好き」

「そうなの?」

「うん、明日チンして食べる。買ってく」

 私は、コーヒーが飲めない、コーヒー牛乳は飲める、カフェオレはダメだ、ついでにいうと、牛乳も飲めない、は飲める、バナナオレも飲める。

 彼女は私が飲めるコーヒーレベルを図っているのだ。

 最近カフェオレは諦めたらしい。


 ケーキ屋

「予約しといたの」

「そうなの?」

「予約しておいた桜雪です」

 彼女は基本、予約は私の名前を使う。

 もちろん、連絡先も私の携帯だ。

 ケーキ5個。

「明日一緒に食べるの」

(明日はケーキ祭りだな……)


 イタリアン

「ピザ、ハーフアンドハーフに出来ますか?」

「はい出来ますよ」

「じゃあ……コレとコレで……ピザだけ先にください」

「あとは、パスタと肉」

「デザート4つ」

「サラダとジュース2つ」

(うん、基本デザートはやたらと頼むんだな)


 ピザが運ばれると

「ねぇエビ好き?」

「うん、好きだよ」

「じゃあエビ食べて」

「エビ嫌いなんだっけ?」

「うん」

(なぜ、エビ頼んだんだろう?)


(ワタリガニのクリームパスタ?)

「カニは食べれるの?」

「うん、カニは食べたら美味しかったの」

(甲殻類が嫌いではないらしい)


 牛ホホ肉の赤ワイン煮込み

(これは食べたかった)

 実は、過去彼女との食事の際、3回食べ損ねていたのだ。

「お肉、美味しいよ、取り分けようか?」

「うん、ちょっと待ってね」

 私はピザで苦戦していた。

(ピザが……冷めたピザが胃に入ってこない)

 ピザって冷めると、なぜこんなに不味いんだろう。

 とりあえず、流し込む。

 レモンが香るミネラルウォーターでゴクッと飲み込む。

「パスタ、後食べて」

(かなりの量残ってるな?)

 彼女は、一通り口を付けて、すでにデザートを回し食いしている。

(冷めたクリームパスタ……ピザ以上に難物だ)


 普通は、

 前菜

 メイン1

 メイン2

 デザート

 と進むのだが

 彼女は順序はどうでもいいのである。

 デザートを中心に口直しにメインをちょっと食べて、

 またデザートを食べるのである。

「デザートはすぐ持ってきてください」

 が口癖である。

 しかも大体、その店のデザートでは満足せずに、他店のデザートを持ち込むのだ。

 主食デザート メインが口直しであるから、私の食べる量といったら半端ないのだ。

 最近思ったのだが、彼女との食事の感想が『甘い』しか出てこない。


 冷めたパスタに苦戦しながら、強制的にシェアされるデザート数種類。

 そんな難関にチャレンジ中なのに、バックからゴソッとショートケーキを取り出したぁ~。

「うん、美味しい♪美味しいよコレ、ハイ」

 さきほど買った、ショートケーキのひとつだ。

 彼女は、ご親切に私の分を律儀に残す。

 彼女と食事にいくと、通常の1.7倍ほどの量を摂取している気がする。

 カロリー量は3倍くらいだろか。

 いやそれ以上かもしれない。


 イタリアン、美味しかった。

 食事の感想を話しながら花見へ。

「美味しかったね」

「ねぇ~お腹いっぱい」

「そうだね~」

 カココココココココ

「寒い」

「うん、冷えるね」

(デザート食い過ぎだな)

 冷たい手を私の手に重ねる。

「なぜ、寒いって言ってるのに冷たい手を乗せるんだ?」

「ウフフフフ……カコココココ」


 〇〇公園

「屋台で何買う?明日食べるんだよ」

(明日の夕食は、今日買う屋台メシか?)

 真っ暗である。

「屋台閉まってる……」

 悲しそうに彼女が呟く。

「そうだね」

「誰もいないね」

「雨降ってるしね」

「桜って言うか、緑だね」

「散ったね」

「ライトアップないの?」

「いや、城だけライトアップされてるね」

「お城?行ってみる」

「屋台、余りものでいいから貰えないかな?」

(うん、物乞い?)

「なんでもいいの、貰えないかな?」

(どうしても、屋台メシ食べたいんだな)


 階段を登りながら

「この階段も昔のままなのかな?」

「いや、コンクリートだからね」

「違うの?」

(ビックリしてるのは僕のほうだよ)

 手すり付きだよ、登りやすくしたら攻められ放題だよ。


「あのね、桜通りを歩きたいの」

「桜通り?行こうか?」

「どこだか解らないの」

(うん、いつものことだか情報がアバウトだ)

「しだれ桜があるの」


 しだれ桜は見つからなかった。

「屋台、明かりが付いてる、余りものでいいから……」

(あきらめが悪いな)


「歩き疲れた……」

「ホントだね、足の裏痛いよ僕は」

「うん、帰る。手つなぐ」

「うん」

(冷たい手だ)

 ライトアップされた橋を渡る。

「こんな感じの古い橋、僕は好きだよ」

「うん私も、なんかこれから死ぬみたいだね、うふふ」

「うん?そうだね」


 帰り道

「遠いね」

「ここから近道できそうだ」

 ある会社の駐車場、ショートカットしようと入ってみたが、

 出口に柵が

「戻ろうか?」

 彼女はスカート短いし、なにより怪我したり服を汚したくなかったのだが、

「跨げるかも?」

 彼女の足は長い。私は短いが。

 低めの柵を跨ごうとする、なんか辛そうだ。

「先に向こう行って」

 私が隙間に足を掛けて向こう側へ行くと

「そうすればいいのか」

 ボソリと彼女が呟いた。

(まさか、一跨ぎにするつもりだったのか?)

 防犯ライトが明るく照らす正面玄関、2人の怪しい人影。

(いつか、彼女と警察で事情聴取を受ける日が来るかもしれない)


「コンビニ行きたい」

「なんか買うの?」

「欲しい漫画があるの」

 コンビニ4件目回りました。

(本当にあきらめが悪いというか、初志貫徹というか)


 ――彼女をアパートへ送る。

「じゃあね」

「うん、また明日」

(そうだった、明日もだった、ケーキ祭りだ)

 彼女が車のドアを開けると、桜の花びらがハラリと落ちた。

「楽しかったね」

「うん」



 翌日

「ラーメン、チンしてきたよ」

 車中では、いつもの一口豆乳メロン味 串団子1本 ケーキ1個


 コンビニのイートコーナーにて、ケーキを広げる彼女。

 昨日のケーキ4個 別のコンビニのラーメン1個 

 ここのコンビニスイーツ1個。

 彼女はプラス、アイス3本食っていた。


「僕は、甘党だがキミと付き合ったら、ケーキ嫌いになるかもしれない」

 私は生涯で最もふやけた麺をこの日…口にした。

 塩気のあるものがソレしかなかったからだ。


 次回 神経衰弱と肉マンと時々カレー

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