第36話 病院食

 入院したことありますか?

 私は、小学校の頃に入院しました。

 1週間。

 扁桃腺腫らしただけなのだが、まぁ点滴が不自由であった。

 パンが食いたかった、それだけを覚えている。

 毎日、おかゆだったから。

 パン屋が好きで、行くと不必要に買ってしまうのは、そのためなのかもしれない。

 貧乏育ちなもので、食えるときに食う主義なのだ。


 良く言われるのだ、

 字がキレイそう、ピアノ弾けそう、いいところで食事してそう……etc。

 字は汚い、コンプレックスである。

 ピアノ?まともに触ったこともない。

 いいところで食事?フランス料理のなにが旨いか解らない。


 ギャップが凄いらしい。


 今回は、『つう』が入院したときの話だ。


「なんで見舞い来てくれねぇの?」

「はっ?」

「見舞い、来ないの!! 誰も!!」

よ」

「来て!!見舞い来て」

「ていうか、入院してるの?」

「してるから、見舞いでしょうが」

「なんで?」

「来てから話す」

(なんだ?病気か?怪我か?)


 とりあえず、入院先を聞いて病院へ。


「おう!!来たか!! やっぱり心配か?俺が弱ってると思ったか?」

(呼ばれたから…心配はしてない、弱ってることどころか考えてもいない)


「ホント誰も見舞い来ねぇよ」

「あぁ、知らなかったしな」

「なんで?」

「はっ、連絡くるまで知るわけねェじゃん」

「新聞とか読まねえの?」

「なんで、新聞に載るの?」

「いや、あるじゃん。死んだ人とか、産まれた子供とか」

「死んでねえし、産まれてないでしょ」

「載らねぇの?俺の入院?」

(何様なんだ?コイツ?)

「どうりで、誰も来ねえはずだよ見舞い」

「会社の人は来ただろ?」

「いや、誰も来ない」

「そっちを心配しろよ」

「なんで?」

「いや……嫌われてるのかな?とか思わない?」

「バカ、嫌われてるわけねェだろ!! 俺が居ないと何にもできねえ連中だよ」

(あ~そういうヤツ嫌われるわぁ)

「忙しんだよ、エース不在でな!!……たぶん……」

(薄々、気づいてるな自分でも、うん、良かった)

「でなければ、副店長の指示だ、見舞いに行くなって指示だしてるんだ、絶対そう!」

(被害妄想だよ多分……、お前がいない平和な日々を堪能してるんだよ)


「で、何か持ってきた?」

「いや、手ぶらだ」

「なんで?常識ないの?」

「いや、お前が病気とも怪我とも言わないし、状態の大小すら解らんのに、何を買えばいいか解らん」

「いや、新聞に載ってるはずだったからな~」

「そのまま死ねば載るよ、たぶん、じゃあ、まぁ頑張れ」

 私は帰ろうとした、どうでもいいし、面倒くさいし、病院嫌いだし。


「病名くらい聞けよ」

「なんだよ!!言いたきゃ勝手に言えよ!!ガンか?死ぬのか?」

「……蓄膿症……」

「蓄膿症?鼻から膿でるアレ?」

「そう……手術するんだ……」

「手術するの?へぇ、まぁ嫌だろうけど良かったじゃん、口臭もそのせいだったのかもしれねぇし」

「えっ、俺、口臭いの?」

「あぁ、口だけじゃねぇ、体臭もキツイぜ、不潔臭がするんだよ、お前」

「マジか?」

「あぁ、じゃあな。退院したら連絡しろよ、新聞載らないからな」

 再び、帰ろうとしたのに。


「待てよ!!」

「なんだよ!!どうでもいいんだよ!!俺は、帰りたいんだよ」

「不安なんだよ!!顔の皮剥ぐんだぞ、ベロッと」

「大丈夫だよ、戻るってきっと、大袈裟なんだよ」

「怖いだろ?手術?」

「そうだろうけど、どうしようもないでしょ」


 しばらく沈黙。


「メシがマズイ……」

「病院で旨いメシって、セレブだけだからね」

「本当にマズイ……味しねぇの」

「うん、お前薄味好きだろ?俺のことよくバカにしてるじゃねぇか」

「……うん……だけどマズイの」

「そういうもんだよ、身体には良いんじゃないの?」

「なんか買ってきてくれねぇかな?」

「やだよバカ!医者の言うこと聞いてろよ」

「頼むよ、カップラーメンとか食いたい」

「お前、カップラーメン食うヤツ、味覚バカって言ってたじゃん」

「…………」

「病院でカップラーメン食うヤツ、あんまりいないぞ」

「じゃあ、なんかポテトチップスみたいの」

「お菓子ダメだろ」

「じゃあ、ナニ食えばいいんだよ!」

「3食出されたメシ食えバカ!!」

「食ぇねえマズイんだよ」

「じゃあ食うな」

「…………」

「昨日ナニ食ったの?」

「なんか魚?鮭だったかな~白身だったかな~、えっ?フライだ!!なんかの」


 もう昨日の晩飯思い出せないって、違う病棟行ったほうがいいんじゃないか?

 顔から、うっかり頭まで開いちゃえばいい。

 アレじゃない?膿だと思ったら、脳みそ出てました的なオチでもください。


「覚えてないの?」

「いや覚えてるよ、魚だった」

「焼き鮭かフライかも定かでないのにか?」

「ソコ大事かな?どうでもいいことじゃないかな?」

「大事だろ、晩飯聞かれたらソコだけが大事だろ」

「えぇ?どういうこと」

「だから、ナニ食った?と聞かれれば、ソレが最初にくるでしょ」

「いや、カレーとかだったら簡単だけどね、食ったもの全部思い出すって難しくない?」

「いや、普通大丈夫だよ。コースでも頭から皆、ちゃんと言えるよ」

「だから、カレーだったらでしょ」

「なんでカレーオンリーなんだよ」


 疲れたので帰ることにした。

「また来いよ!!絶対来いよ!!」

 無言で病室を後にした。

 来る気が無いのに、返事するのは失礼だと思ったからだ。


 数日後、『つう』は退院したらしい。

 もちろん新聞で知ったわけではない、本人から連絡があったのだ。

 退院祝いをご希望らしい。

 永久入院祝いであれば幹事をしてもいいのだが。


「会社行ったんだよ、退院してさ、そしたら後任が決まっててさ、頭きたよ!!」

「そうか、まぁ何とも言えないけど、とりあえず良かったな、膿太郎うみたろう

「なんだ、ウミタロウって」

「顔面 膿太郎がんめん うみたろう

「やめてくれよ~」

(なぜ嬉しそうなんだろう)


「まぁ好きなモノ食えば?退院したんだし」

「あぁ、そうだな、じゃあカレー食いに行こうぜ」

(カレーなんだ……別にいいけど……)


「メシがマズイよな?古い米だよ、すぐ解る」

(相変わらずだな、脳の手術は~されなかったんだな)

「辛いだけだな!! 自信が無いからさ、辛さでごまかすんだよ」

(お前よくくるじゃん)

「食えない、これは食えない」

(アホほど、辛みマシするからだよ、ふりかけみたいの掛け過ぎなんだよ)


「あ~、そこに行くと病院食は管理されてたな~、全体的に上品だったよ」

「はっ?」

「いや、病院ってさ、栄養士とかがさ、管理してるわけじゃん、やっぱジャンクとは全然違うわけ云々…」


 やっぱ、脳手術されたのかな?

「旨かったのか?病院食」

「旨いというか、やっぱメニューの1品1品がさ考えられてるな~って思ったよ、毎回、あぁ昼は魚だったから、夜は揚げ物かとかさ云々…」

「桜雪はさ、昨日アレ食ったから、今日はコレとか考えないだろ、そういうトコなんだよな、俺はさ、完全に覚えてるわけ、管理するわけ体内から」


 まさかの発言である。

 入院したくせに食事管理できてます?

 昨日の夕食も思い出せないクセに、ナニ言ってんだコイツ。


「昨日の夜、ナニ食ったの?」

「うん……アレ?カレーだったな」

(お前がいいならいいけどさ)



 次回 とある女性の夕食事情4

 相変わらずのデザート主食である。
















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