第35話 縁日

 私が中学生のころは今ほど、世の中は規制が厳しくなかった。

 縁日のテキ屋も博打ばくち性が高い店も多くあった。

 子供の頃、少ない小遣いをいかに増やすか?という発想しかなかった私は

 1万円を獲得すべく、あるお店にへばりついたのだ。

『カメすくい』

 とだけ聞くと、金魚が亀に変わっただけなのだが、この店は違う。

 亀は貰えない。

 亀の背中にマジックペンでマークが書いてあり、マークに応じて景品、

 あるいは現金が貰えるのである。

 言うまでもなく、亀の大きさと金額は比例している。

 縁日は3日間、私は初日から勝負を掛けたのである。

 狙うは1万円の大きい銭亀ぜにがめだ。

 ヤツは1日数回呼吸のため浮上する、それ以外は水槽の底でノソノソしているだけ、

 私は、浮上の瞬間をひたすら待つ、いつしか人だかりができるほど、

 私は真剣であったらしい。

 そのときは来た。

(ソコッ!!)

 ニュータイプ張りの直感、私は銭亀をすくったのである。

 オーッと湧き上がる歓声とどよめき、少し遅れて拍手である。

「いや~どうも、どうも、すくっちゃいました」

 頭を掻きながら、ギャラリーの皆様に挨拶しながら、

 テキ屋には金を出せと右手を差し出す。

「インチキしたやろ」

 テキ屋が支払を拒否したのだ。

「ふざけるなよ、インチキだと、詐欺師かお前!!」

 私も言い返した。

「手ですくったやろ!!」

 冗談ではない、私は最中もなかですくったのだ。

 祭りと言う状況も手伝い、ギャラリーも騒ぎ出す。

 テキ屋に払え!! 払え!! コールで大騒ぎになった。

 私はテキ屋と水槽を挟んで、絶賛言い争い中である。

 しばらくすると騒ぎを聞きつけた警察官が走ってきた。


 警察署に連れて行かれた……。

 いや、もちろんギャラリーは私の味方であり、状況説明もしてくれていたのだ。

 しかし、警察はテキ屋とは、そういうものだという説得を警察署でしたのだ。

(納得できん)

 1万円である。

 納得できないのである。

 警察で、お茶とお茶菓子食いながら担任の先生まで呼ばれているのだ。

 担任が私を引き取りに来て、警察署を出るとき、一人の警察官が私に差し出したもの、

 警視庁と金色の文字で装飾された鉛筆セット。

(納得できん)

 学校で担任と教育指導の先生にラーメン奢ってもらいながら、

 キーキー職員室で不満爆発である。

「テキ屋なんて、そんなもんだよ、チャーシューやるから怒るな」

(納得できん)

「お前、休日まで学校に来るなんて、学校好きだね」

 担任の言葉である。

「好きで来たわけではない」

 色んな先生から、お菓子など貰い学校を後にしたのである。


 私の某小説にも書いたが、中学校の恩師には恵まれたと思っている。


 という話を『つう』にしながら、縁日を愉しんでいる最中である。

 縁日、行くまでが面倒くさいのだが、いざ来れば楽しい。

 お好み焼き買ったり、たこやき買ったり、チョコバナナ食って、金魚すくって、

 とうもろこし食って……楽しいのである。

つう』が居なければ……。

 買いもしないで、私の買った食べ物をちょっと食っては文句、

 もしくは食ってる横で文句、

「そんなモノよく食えるね、考えらえれない」

「ほこりだらけだよ」

(壁に穴の開いた家に住んでるお前が気にすることか?)


「ポリバケツに公園の水汲んで作ってるんだよ」

(近所の神社の水が最高って言うお前と何が違うんだ?)


「バナナにチョコかけただけじゃん、高くね?」

(チョコフォンデュってなに?って聞いて、ソレ最高に旨そうって言ってたよね)


「焼きそば?俺が作ったほうが旨い、絶対!!」

(お前、海で……えっ?忘れてんの?)


 こんな調子で歩くだけで、何も買わない。

 文句しか言わない。

 なんで縁日に行きたいとか言ってきたんだろ?

 むしろ私のほうが嫌がったのに。


「で、結局1万円貰えなかったの?」

「そういうことだ」

「珍しいね、お前がソコで引くなんて」

「いや、引いてない」


 そう、ソコで終わらないのだ。

 私は、その夜テキ屋の屋台に忍び込んだ。

 水槽から亀を全部バケツに入れ、川にリリースしてやった。


「で、どうなったの?」

「うん、翌日そのテキ屋閉まってた」

「ギャハハハハ」

「その翌日も閉まってた」

「おう、おう、復讐か?」

「仕返しのつもりだったんだが……今思えば、なんだかな~」


「たぶん、警察も俺だと解っていながら、事情聴取すらこなかったし、そんな時代だったんだろうな」


「そうだぞ、お前、犯罪なんだぞ」

「そうなんだよな」

「お前、そういうトコあるんだよ、なんていうか、ホント駄目」

「うん、そうなんだけどね、あのときはね~1万円がね~」

「まぁ、反省してるならよし!」

(なんでコイツに許されてんだ俺?)


 帰り道、地元のアマチュアバンドが路上で歌ってた。

「俺、こういうのダメ、なにが不満なのか解らんが、反社会的なことが、かっこいい的な連中も歌もダメ」

「そういう時期もあるんだよ」

「お前はな、あったでしょうよー、亀泥棒ですからな!!」

(泥棒扱いとは……いや否定できないが……)

「いいんだよ、そういうバカやりながら自分で、善悪の区別を探すヤツもいるの」

「絶対バカ!! やらなきゃ解らないバカ!!」


つう』の車で帰る途中、流れるCD……。

 十代のカリスマ。

 盗んだバイクで走りだす~♪


(大好きじゃん、反抗期)

 それにしても、『つう』も、テキ屋も、

(納得できん)



 次回 病院食

 入院したことありますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る