第34話 食べ放題
例の面々で、食べ放題の焼肉屋、正殿時間40分。
女無用の真剣勝負である。
いざ入店。
「いらっしゃいませ」
「3名で……40分食べ放題お願いします」
ゴングは鳴った、カーン!!ってね。
テーブルに案内される
(せまい)
これで、3人って……無理ないか?
これじゃ、皿何枚乗るの?ってくらいにテーブルは狭い。
肉を焼く網も小さい、これじゃ肉を何枚も焼けない。
(考えてるな……)
食わせないように、焼かせないように、溜められないように、
店側も考えているのである。
こんな網にトウモロコシを2つも乗せれば、肉なんて焼くことは不可能だ。
(考えなければならない)
これは、頭脳戦だ!!
まずは、肉だ、高い順からか?
否!!断じて否である。
薄く、焼く時間に手間がかからない肉を中心に攻めるのだ。
野菜、ピーマン、レタス、トウモロコシ、ニンジン、カボチャ……etc。
硬い野菜ばかりだ、騙されるな!!タイムロスになる。
野菜は捨てよう、苦渋の決断だ。
私は、『
テーブルは狭い、乗る量は限られている、いいな早く焼けるモノを頼め、
皿を回転させるんだ。
これは、回転率の勝負だ。
テーブルの面積と、網の面積を考えろ、決して空にしてはいけない。
時間内に何回転させるか、それだけを考えろ、いいな。
「あぁ解った……なに?好きなの頼んじゃダメなの?」
『
「時間は限られているんだ、網もテーブルも想像以上の小さい、今回は俺の指示に従え、いいな」
「解ったよ~、注文任せればいいの?それで満足?」
「ああ、満足だ」
「すいませ~ん、注文お願いします」
『
そう、呼び鈴がないのだ。
店員は、フロアに3・4人いる、しかし来ない。
忙しいこともある。
だが、どう見ても、完全シカト状態なのである。
思うに、彼らは教育されたエキスパートなのだ。
食べ放題の客より、一般の客を優先させるように、
行き届いた教育が施されているプロ相手なのだ。
油断は“死”である。
こちらも非情に徹しなければならない。
「すいませ~ん」
手を挙げて店員を呼ぶ『
店員は来ない……。
ガタッ、『
ツカツカと立っている店員を捕まえる。
「注文!!」
と一言。
(ある意味、頼もしい)
私は安心した。
大丈夫だ、今回はコイツが切り札なのかも知れない。
ジョーカーは我の手の内で微笑んだ。
「ちょっとトイレ行ってくる」
私は、彼らに注文を任せた。
トイレから戻り、『
「注文だしたか?」
「おぅ、バッチリだ、最初から沢山頼めねぇんだと、テーブルに乗る分しか頼めないらしい」
「やっぱりな、頼ませないつもりなんだよ」
「そうだな」
「ペース上げて食うぞ!!」
少しすると店員が注文分を運んできた。
「お待たせしました」
テーブルに置かれた彼の注文は……。
ライス大盛り3つ
ウーロン茶3つ
コーラ1つ
石焼ビビンバ1つ
「以上でございますね」
「お皿が空きしだい、次の注文を伺います」
店員は下がって行った。
「なにこれ?」
「えっ?」
「いや、コレなんだ?」
「石焼ビビンバ食いたかったんだ」
「それはいい」
「ライス3つだけってなんだ?」
「いや食うだろ、メシ?」
「うん食べるよ、おかずがないよね」
「おかずは次だ」
「メシだけ食わせるのか?」
「お茶はある、お前コーラ好きじゃん、頼んどいた」
まさかの事態である。
焼肉屋の初回オーダーが、オプションメニューオンリーとはね。
『
正確に言うと、石焼ビビンバをおかずにライスを食っている。
「お前は何してたんだ?」
もう一人に聞いてみる。
「一応、頼もうとしたんだが……テーブルの上に乗るだけという条件があり、すでに手遅れだった、すまん」
「お前ら、バカなの」
ライスは大盛り、おかずなし。
しかし、器を返さなければ、次の注文はできない。
(しかたない……)
私は、必死でライスを食った。
焼肉の匂いと、わずかな調味料だけで、大盛りライスを食った。
屈辱である。
すでに15分以上費やしている。
「すいませ~ん」
2回目の注文である。
そして、店員は来ない。
先ほどと同様に、席を立ちあがる『
しかし店員も新たなフォーメーションを組んでいる。
「お伺いします、お待ちください」
笑顔でかわされる、待っても来ない。
注文をとりに来たのは、5分以上経ってからであった。
イライラの頂点を迎えていた私は思わず、店員を睨みつけた。
私は、昔からヘアスタイルと髪の色と服装の趣味が独特な人種によく絡まれるくらい目つきが悪い。
「なに見てんだ!!コラ!!」
よくお声掛け頂くのだが、そりゃ視線が向くでしょうよ、そのナリじゃ。
「俺が見てるもの?変わった頭」
とか私が言うから、揉めるのである。
とりあえず、肉を何皿か頼むと『
「いや、腹いっぱい、野菜の盛り合わせ」
ピッと注文される。
(あっバカ)
「あと、ウーロン茶3つ」
(おいっ)
2度目の注文
野菜盛り合わせ
ウーロン茶3つ
牛タン
豚ロース
「だから、野菜頼むなって言ったよなー」
「そうだっけ、でも、俺は、肉は摘まむくらいでいいよ」
「お前は、ビビンバ食ったからな!!」
「俺たちは、ライスだけなんだよ」
「俺もライス食った、大盛りだったね、あの米安いぜーマズイよな」
「今、米の話はどうでもいいんだ」
「俺たちは、そのマズイ米しか食ってないんだという話がしたいんだ」
「お待たせしました」
まずは野菜だ。
硬い野菜を食っちまわねぇと、肉焼くヒマがない。
硬そうな野菜から、網に乗っける。
焼けねぇ~、なかなか焼けねぇ。
「もう生で食える野菜は生で食え」
「えっ?」
「いいから食え、バカ野郎」
「野菜は生が一番旨い、解ってるな!!桜雪」
(そういうことじゃねぇ!!)
野菜を食い終わり、肉を焼き始めた頃、無上のアラームが鳴る。
(後、5分……)
「すいません」
今度は、呼んでもいないのに店員がやってくる。
「お時間です」
終~了~。
おひとり様 3,500円。
私が食べたモノ。
ライス大盛り
ウーロン茶1杯
コーラ1杯
ピーマン1切れ
カボチャ1切れ
生ニンジン1切れ
レタス数枚
牛タン2切れ
豚ロース1切れ
以上。
高すぎだろ。
惨敗である。
バカと来た……それが敗因だろうか?
いや、この店の徹底した『食わせないぞ』スタンスに負けたのだ。
バカは要因のひとつに過ぎない。
「ビビンバ食えば良かったのに、旨かったよアレ」
涙もでねぇ……悔しくて……。
ジョーカーは、笑っていた。
そう、ポーカーでは無敵でも、ババ抜きでは邪魔なだけ、
それがJOKERである。
次回 縁日
私が悪いのか?いや……いいんだ。
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