第32話 パフェが食いたい

「お前の地元にさ、TVで有名な大盛りの店あるじゃん」

「あぁ、行ったことないけど、あるね」

「俺、行ったの、この前」

「へぇ、食えた?」

「無理、食えない…量じゃないんだよ、味的に無理だった」

「まずいの?」

「あの量を食べるには、単調なんだよな、飽きるの」

「なに食ったの?」

「カレー」

「また、カレー食ったの、好きだね、カレー」

「そうかな、好きってこともねぇんだけどな」

「いや、お前、カレー注文率高いよね、よく頼むよね」

「そんなことねえよ、あっ、でもねウチの晩飯、カレー多いわ」


 家でもカレー、外でもカレー、インド人もビックリのカレー率である。


「そんな量多いんだ、カレー」

「普通の店の2倍だって言ってたかな?」

「へぇ、どのくらい食えたの?」

「半分以上残した」


 一人前食ってねえじゃん。


 私は、大食いメニューが嫌いである。

 TV番組でも、美味しそうに見えないし、なんで頑張って食事をしなければならないのか?

 金を払ったうえに努力して食事をするってナニ?

(とある彼女の夕食事情にも通じる話なのだが)


『外食では、会話も食事も愉しみたい』のである。

 なのになぜ、私の外食事情は、かくも努力を要するのであろうか?

 謎なのである。

『頑張る』って、食事中に使いますか?


つう』は、旨ければ全部食べれたと言う。

 私は、『つう』は基本小食だと返す。


 何かに火がついたらしい。


「好きなモンなら食えんだよ!!」

「何なら食えたんだ!!」

「今ならアイス!!俺アイスなら相当食える!!」


 蝉がシャワシャワ余命振り絞って鳴きまくる夏の日、

 そんなわけで、ビックパフェ(ほとんどアイス)に挑戦することになったのである。


 狭く暗い店内、雰囲気は、なんというか嫌いかな。

 ビックパフェが運ばれた来た。

 デカイ!!


「あのさぁ、コレ、本来3人でチャレンジするパフェだから」

「えっ?だから?」

「お前、少し食えよ」

「いや、いいよ、俺、ナポリタン頼んだし」

「アイス以外のモン食えよ!!」


 しょうがないから、フルーツとかウェハースとか、飾り部分は食ってやった。


 アイスが…色とりどりのアイスが毒々しい。

 バニラ、ストロベリー、チョコ、抹茶、4種のアイスが、器にドカドカ入ってる。


「スプーン、もうひとつください」

「えっ?」

「限界…」

「えっ?お前、ほとんど食ってねぇじゃん」

「限界!!」


 ビックリである。

 まさかの限界発言である。

 ボクシングでいったら、2ラウンド前半で白タオルが放り込まれた感じである。

「いや、まだ、ナポリタン来てないし」

「今日、調子悪い」

「先に言ってくれないかな?」

「なんか、喉が痛くて入ってこない」

「溶かして飲め」

「無理なんだって!!」


 キレだしたが、無視した。


 ナポリタンを食いながら、パフェに目をやると、溶けはじめるアイス。

 一部、マーブルになっている。

つう』は、チビチビとアイスを口に運んでいる。

 溜息がウザい。


「ストロベリーとチョコは、俺が食うよ、抹茶とバニラは食えよ」

「うん」

 抹茶嫌いの私は、チョコとストロベリーを、別の器に移し、ナポリタンの合間に食い進めた。


 頭が痛い。

 喉の奥が痛い。

 身体が冷える。


 舌がバカになっているようで、もはや、チョコもストロベリーも味の区別がつかない。

 もう面倒くさいから、スプーンでかき混ぜて、ドロドロのチョコベリーを飲んだ。

(甘い…つらい)


つう』は相変わらず、スプーンでアイスを突くばかりである。

「食いたくねぇ」

「食えよ!!」

「お前はいいよ!! あったかいスパゲティ食ってるからな」

「だから、余計に苦しいんだろバカ!!」

「量は問題じゃないの!! ただ、味が抹茶とバニラだけだと、飽きるの!!」

「じゃあ、チョコとストロベリー食えば良かったろ」

「いや、お前が食ったんだろ!!」

「勝手に食ったんじゃねえだろバカ」

「もういい!!もう食わない!!」


 なんなんだろコイツ。


つう』は、スプーンを放り出して

「すいません、ホットコーヒーひとつ」


 なんとなく、私が残りの抹茶浸食してないバニラを食べる。


 しかし限界だ、もう入らない。

 量の問題もあるが、冷たさに身体が限界なのである。


つう』は、コーヒー飲みながら、私を見ている。

「もう食えねえ」

「えっ、あと少しじゃん、食えよ、頑張って」

(テメエが何抜かしてんだ)

「ここまで食ったんじゃん、頑張れよ」

(ホントにコイツ、ナニ言ってんだろ)


「あ~ぁ、ギブアップで~す」

つう』が大袈裟に両手を挙げる。


 アイス2人分と、コーヒー1杯のヤツに俺、何言われてんだ。

 普段なら、数分間、彼に罵声を浴びせるところだが、

 この時ばかりは、それが出来なかった。


 歯がカコココココココだったからである。

 上下の歯がソコソコの勢いで小競り合いしてるのである。

 珍しく、日に当たりたいと思ったのである。


 冷房効いた店内を出て、しばらく歩いた。

 真夏の太陽は冷え切った身体を温めてくれる。


(太陽さんありがとう)

 おそらく、一生涯で、このときほど日の光に感謝したことはないであろう。


「アチィ、早く車に戻ろうぜ、アチィよ」

 お前は、冷房効いた店内でホットコーヒー飲んだからな。


「いや、暑い!!ホント暑い…あっ、コンビニでアイスでも買う?」


 本当に蹴り突けたくなる男である。



 次回 1Kgステーキ

 続、大食いエピソード。

 書きながら思い出したのである。

 ステーキにまつわる嫌な思い出を・・・・・・。

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