第31話 バーベキュー登山編

 秋である。

 山である。

 かぶれやすい、私の異常に白い肌。

 そんな私でも、山へ駆り立てるような衝動に駆られる時がある。


「ねぇ店長、今度のお休みいつかしら?」

 お得意様のバーのママから声を掛けれた。

 ママとはいえ、私と年はそう変わりない。

「特売明けですから、水曜日ですね」

「ねぇ、山に行きませんか?」

「山ですか、何年も行ってませんね~、いいですよ、でも突然なんです?」

「いや、越してきて、自然に触れることなかったから、ハイキングでもと思って、ダイエットも兼ねて」

「あぁ、そういうことなら行きましょうか」

「夏に会った、あの方もどうかしら?」

「あの方ですか…まぁ来るんじゃないですか、呼べば」

「じゃあ、お呼びしましょうよ」

「お嫌でなければ」


 かくして、まさかのバーベキュー2回目となったのである。


 登山といっても、ハイキングである。

 昼食は、用意されてるバーベキュー、安心である。

 食通が余計な知識を振り回さなければ、ある一定のレベルは保障されている。


 登山道の入口で待ち合わせ『つう』と友人を待つ、

 今回は『つう』の嫁、不参加である。

 山で暮らしているのに、なぜ他の山に行くのか?そんなふうに思ったのかもしれない。

 少なくとも、私ならそう考える。

 そもそも、私は登山という行為の意味が解らないのである。

 降りるために登るのか?常に考えてしまう。

 男だけなら、絶対断るのである。


 アウトドアの知識も装備も持たない私である。

 ママと女の子は、ハイキングスタイルである。

 私は、ラフな服にスニーカー、ハイキングというか散歩服である。

 しかし、私をあなどってはいけない。

 ナイフの種類と量だけは豊富に揃っている。

 ベルトには、2本のなたそのうち1本は日本刀の刃を使用したオリジナルである。

 足首には左右に1本づつアーミーナイフ。

 左肩にも1本。

 その他、ポケットには、バタフライナイフが数本入っている。

 スローイングナイフも数本そこらに携帯している。


 それらは、目に付かぬようにジャケットやジーンズのすそなどに隠れているのだ。


 そして、エアガン(ハンドガン、グロッグとベレッタ)も装備済みだ。

 小さいショルダーバッグの中身は、カロリーメイトとBB弾やガスである。


 やはり、お前もバカなのか?

 そう思ってかもしれない、しかし、私にとって山とは、嫌いな生き物の巣窟なのである。

 ミミズ・ムカデ・ヒル・ハチ etc

 私にしてみれば、エアガンでは、まだまだ不足しているのだ。

 出来れば、離れたところから確実に仕留めたいのでる。

 ナイフでは近すぎるのである。


 そんな思いを無視して、『つう』はハイキング道から、脇道へ外れていくのである。

 海のリベンジに『つう』は燃えていたのである。


 どこで売ってるの?そのジーンズ?といった服を泥だらけにしながら、

 使い古した軍手と網?を手に、キノコやら草を採集している『つう

 その度に、私のきらいな生き物を掘り起こしてくるのだ。

 ママと女の子も、ワー!!キャー!!絶叫である。

 それが、楽しいのか、途中からキノコではなく、ゲテモノ探しに夢中になってた。


 そんなことをしているから、予定より1時間遅れのバーベキューである。

 焼くだけになっているので楽だ。

 なんか変な臭いがする。

 これキノコ?なに?この草。


つう』が途中採取していた、キノコなどを焼き始めていた。

「それ食えるのか」

「食えるよ、このあいだ食ったの同じキノコだ」

「俺、いらないから」

「なんで?食えよ!!みんなも食えよ」

 皆、無言である。

「俺はな~山菜採りの名人なんだよ!!」


 誰も口を付けない、それに腹を立てたのか、強制的に串に刺しだしたのである。

 本来用意されていた野菜や肉の間に、正体不明な山の幸が混ざっている。

 それらが、なんか臭いのである。

 きのこはヌメリが気持ち悪く、山菜は黒く焦げだし、変な汁をだす。

 串焼きだから、本来の食材まで汚染していくのだ。


 海鮮焼きそば、二の舞というか超えたな。


 私は、『つう』以外にカロリーメイトや乾パン、缶詰を振る舞った。

つう』にやらなかったわけではない、彼が拒否したのだ。


つう』は、自分で作った串焼きを食べていた。

 スーパーでは見ないキノコ、料亭でも見たことない草。

 彼は言った手前、ある程度は食べた。

 バーベキュー設備に、調味料があったのが


 ロープウエィに乗り、皆で景色を楽しむ。

 乗ったときは、子供よりはしゃいでいた『つう』であったが、

 中腹部に差し掛かる頃には、おとなしく座ったままである。

 なんとなく想像がついてはいたが、顔色が悪い。

「おい、大丈夫か?」

 もちろん、『つう』を心配しているわけではない。

 ここで、口から尻からリバースされては、たまらないから声を掛けたのだ。

「あっ、あぁ大丈夫だよ。俺、高いところ苦手なんだ…」

(馬鹿のくせに、高いところ苦手なの)

「そうか、ならいいんだ、もしもなんだが、さっきのキノコやら草やらが原因の体調不良であれば、頂上で引き返せよ、まぁ山菜の採りの名人に限ってありえないとは思うが」

「お前らは、損してるよ、所詮スーパーの食材で満足できるレベルだろうから」

 顔色からだけではない、腹に手を当て擦っている仕草、

 たまに大きくオエッとなっている。

 限界だ。

(早く頂上へ!!hurry up !!)

 もはや、ロープウェイ内は緊張感が半端ない。

 なんか、皆、気分悪くなってきたようだ。

 迷惑な空気感染である。


つう』は頂上の景観を楽しむことなく、トイレから帰ってこなかった。

 とくに、目的もなく『つう』のトイレ待ちで、最終便まで頂上で足止めされたのである。


 帰り道、遊歩道を下る途中で、『つう』は懲りずに、キノコと草の収集に勤しんでいた。

 山肌にへばり付く姿に、苛立ちを覚え、私は周りの静止も聞かず、

 エアガンを乱射したのであった。


 別れ際の駐車場、

「コレお土産です。天ぷらがお勧めです」

 とママに先ほどの小汚い網を丸ごと差し出した。

(すげぇ、被害者増やす気か?店で客に出したら、事件だよ)

「えぇ、ありがとうございます」

 受け取ってもらえて、上機嫌の『つう』は、友人と帰って行った。

 もちろん小汚い網は、すぐにゴミ箱へ捨てられたのである。



 次回 パフェが食いたい

 どこの地域でもあるであろう、ビッグパフェに挑戦した彼。

 その結末はいかに。

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