第28話 脳年齢

 脳年齢って怖くないですか?

 私は過去2度、測定したことがあります。

 最初は、いとこと遊びに行った先で測定。

 2度目は…。



 世の中は夏休みである。

 私の会社も夏季休暇、友人の半数は結婚をして、

 なかなか、会う機会も無くなってきた三十路の夏である。


 既婚者である『つう』と『人体の不思議展』へ行くことになった。

「あのさぁ、ガキの宿題なんだけど、自由研究の課題が決められないわけ、お前、得意そうじゃん。なんかない?」

 大雑把な依頼おねがいである。

「あ~、お前のガキなんざ興味もないが、俺、人体の不思議展行こうと思ってるから、ガキ連れて一緒に行く?」

「お~なんだソレ?まぁいいや、どこも連れてってないから行くわ」

「中では別行動な」

「解った、車だすから、メシよろしく」

「あ~解った、じゃあ」


 そんなわけで、移動中なのである。

 小汚く、狭い車内で、ガキが騒いで不愉快である。

「ねぇ、お父さん、この仮面ライダー知ってる?」

「いや、知らねぇ」

「コレだよ、お父さん、ゲームで使ってたじゃん、剣で戦うライダー」

「お~、知ってるわ!! お前、俺に勝てねえからな、俺は、その仮面ライダー使うと無敵だから」

「うん、1度も勝てない」

 子供相手に、ガチでプレイしているようだ。

 大人げない三十路である。

「この仮面ライダーね、なんかボスを倒した後、ゴミ回収する人になってた」

「えっ、マジで?ゴミ収集に就職したの?マジで、なんかリアルで引くわ」

「うん、お父さんも運転手でしょ」

「おお、そうだ、俺も廃棄物を運搬してるんだ…なんか、仮面ライダーの人生って、俺みたい」

(仮面ライダーに自分の人生を重ねる三十路って)


「世界を守った、正義の人が敵がいなくなったら、フリーターとはね、ほんとに俺みたいだよ」

(お前と一致してるのは、フリーターってとこだけだぞ)


「ところで、桜雪、何とか展ってなに?」

「えっ、知らないできたの?」

「知らないよ、お前言わないじゃん」

「本物の死体を剥製にしてあるの」

「はっ、死体?作り物だろ?」

「いや、本物の死体」

「はっ?見たくねぇし、なに気持ち悪い」

「じゃあ、どっか別のトコに行けば、時間決めて迎えに来てくれればいいから」

「う~ん、どうするかな~お前見たい?」

つう』が子供に聞く

「うん」

「はぁ~じゃあ、一緒に行くわ」

(来なくていいのにな~)


 当日券で、

「高い!!」

 相変わらずの第一声である。


 中に入ると、あるわ、あるわ、剥き出しの死体。

 血管がフリーズドライされてる、パラパラ下に落ちてる、なんかたまらん。


 女も、男も裸の内側までさらけだしている。

(この人達は、お金で契約して死後、身体を提供したのであろう、考えると色んなドラマがありそうだ)

 面白い、興味が尽きない、泊まっていきたいくらいだ。

 いや~死んでから、これだけ人前でさらすとは、

 どんな気持ちであろうか、考えると不思議な気持ちになる。


つう』は、少し離れたところで

「気持ち悪い…うぇ」

 と小声ながらウルサイ。

 ガキのほうは、携帯ゲーム機で、写真撮影中である。

「おっ、撮ってやろうか、心霊写真とか撮れたりして、アハハハハ」

 静かな館内で、バカ親子の笑い声が響き渡る。

つう』が、展示物をバックに子供を映していると、

 係員がスッと寄ってきて注意を受けていた。

「いや書いてねえじゃん」

 また始まった…。

 書いてはいないが、撮影禁止マークは、そこそこの量が張ってある。

「なんだよ、書いておけば撮らねぇよ」

 マークの意味を知らないようである。

 彼は道路標識も、ほとんど知らない。

 美術館などには、まったく興味のない。

 そんなマーク見たこともないである。

 しかし、よく運転免許を取れたものである。

 身近にあった奇跡ホラーである。


「つまんねぇよ」

つう』が私に近づいてきた、

「あっちに、体験展示あるから、ガキ連れて遊んでろ」

「おぅ、そうか、行くぞ」

 ガキを連れて去っていく。


 しばらくして、私も、体験スペースへ行ってみた、

 血圧測定やら、筋力測定やら、人体絡みで色々あったが、まぁ特別測定するまでもない。

 運動不足の三十路である、結果は知れたものである。


「おう」

 ジュースを飲みながら『つう』親子が近づいてくる。

「こんな気持ち悪いトコ出ようぜ、俺、食欲ねぇよ、吐き気する。メシ行こうぜ」

(吐き気するって今…メシって…)

「あ~、その前に、お前コレやれ!!」

「なんだよ」

「脳みそ測定」

「脳年齢な」

「そう、計れ」

「いいよ、前に計ったし」

「そうなの、2度目なの、お前、こんな展示、2回も見に来てんの?」

「いや、別のトコでだよ、ゲームみたいなもんだろ」

「いくつだった?」

「2、3才若かったかな、もう何年か前だけど」

「マジ…嘘だ!! 信じられねえ、もう一回計れ!! なっ」

 なんで必死なんだよ。

 面倒くさいので、測定してもらった。

 画面に散らばった数字を順にタッチしたりするやつだ。


「いくつだった?」

「22だとよ、安心したよ、満足か?」

「あぁ、そんなもんだろうな」


 お昼はラーメンでした。

「ちょっとトイレ」

つう』が食事中に席を外した。

「あのね、お父さんもやったんだよ」

「やったって、脳年齢?」

「うん」

「へぇ、お父さん、いくつだった?」

 ガキがポケットからクシャクシャの紙を差し出した。

「お父さん、すぐ捨てちゃったんだけど、拾ってきたの」

『測定結果 70才』

 なるほど…。


「お父さんの頭、お爺ちゃんなの?」

「あぁ、頭の年齢だけな、毛も、中身もだ。家に帰ったら、お母さんに、その紙を渡すんだよ、そして、こう言うんだ、逆に凄い結果だよ。と」

「うん」

 ガキはラーメンを食べ始めた。

 親父はクチャクチャ食い。

 ガキは、テーブルに、こぼすほうが食ってる量より多い。


「おぅ食ってるか?」

つう』が戻った。

 帰り道、終始、教育について語る『つう

「勉強より、自然に触れさせる、それが俺流の教育だ」

(掛け算で手こずるお前では、勉強を教えるのは無理だ。あっターザン育てたいのかな?)


 なんだか、ずっと教育について語っていたが、

 私の頭に浮かぶのは、『測定結果 70才』だけであった。



 次回 馬肉

 なぜ、こうも食事の好みが違うのか?

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