第26話 こだわり

「割りばしって、森林を破壊してるんだって、知ってた?」

 また、なんかのTVに影響されたのである。


 以前も『X-FILE』というアメリカのドラマを見て、UFOにハマっていた。

 本屋で、真剣に立ち読みしていた本は、金星人は隣にいる的な本であった。

 その本によると、金星人は、ヨーロッパ系の白人と区別がつかないらしい。

 金星人の写真は、コスプレすらしていない白人女性であった。

つう』が、その後、外人を警戒しだしたのも無理はない。


「ねぇ、コレやばいんじゃないかな?NASAこんな情報だして大丈夫なのかな?俺、心配だよ」

『X-FILE』を見終わった感想である。

(NASAじゃなくて、FBIの話だし…NASAも、お前が心配しなくても大丈夫だ、本家アメリカで高視聴率なのだから、なんの心配もない)


 ネス湖に恐竜がいるのなら、地元の沼に河童がいても不思議ではない、

 と真剣に考えるのが『つう』と言う人間である。


 森林伐採を危惧した『つう』は、割りばしを使う店を敵視しだした。


 マイ箸を持ち歩くブームがあったと思うが、それより、はるか前の話である。


 当時の和食店や食堂では、割りばしが、ほとんどであった。

 店のランクによって、使われる割りばしも、高価なものになるという時代だ。

 もちろん高価な店なんぞに行くわけもなく、

 安い定食屋やラーメン屋が主流の食生活を送っていた。

 当然、毎日のように箸に文句をつけるのである。

「こういうところから、世界中で見直さないといけない」

「割りばしって、世界中あるのかね~?」

「…それは、解らん、もし日本だけなら、俺たちが、考えていかなければならないな」

 偉そうにラーメンを食う『つう』だが、

 この日は、割りばしを割りそこなって

「なんだよ、安い箸を使ってんじゃねえよ!!」

 と文句を言い、2本ダメにした挙句、

 食後に楊枝ようじまで使用する矛盾ぶりである。


つう』に聞いてみた

「お前さぁ、1日に何膳、割りばし使うか解ってるか?」

「あぁ、昼飯だろ、晩飯だろ、大体2膳だろ?」

「そう、通常2膳な、残業中食うカップラーメンでプラス1膳」

「う~ん、そうだな」

「1日に、お前だけで2・3膳使うんだよ、日本中だと、1日に何膳使われてるんだろうな?」

「あぁ、とんでもない量だ。今も、俺が1億人いるってことか」

(お前が1億人いたら人類は、ここまで進化しなかっただろうな~)

 少し考えて『つう』が

「お前だって、箸使ってんじゃねぇか!! お前も1億人いるってことだぞ…じゃあ2億人になるの?」

(比喩で、なぜ足した)


 食後にタバコを吸っていると、『つう』が珍しそうに、私のシガレットケースを見ている。

 当時、私は、喫煙者であり、タバコは外国産のタバコを5種類ほどケースに入れ、

 気分で吸い分けていたのである。

 ライターも、オイル・マッチ・ガスと使い分け、ブランド品で固めていた。

 唯一の趣味こだわりだったので、それなりに無理をして購入していたのである。

「それにタバコ入れてるの?」

「あぁ、何種類か吸い分けるから、太さも、長さも違うじゃん、コレが便利なんだよ」

「なんか、かっこいいな~俺もそういうのやろうかな」

 こんな調子で、『つう』は翌日から、

 マイ箸を検討し始めたのである。

 今思えば、先駆者なのである。


つう』は、よく私のマネをしたがる。

 この話より、だいぶあとの話になるのだが、

 私は絵本を集めている。

 大人向けの表紙が凝っている絵本や、外国の本、猫系の絵本だ。

 仕事で外国に行くと、本屋を回るのが、食事よりも楽しみである。

 紙媒体というものが好きで、紙の質や匂いは触らないとわからない。

 古書も好きで、インテリア的な意味合いでの購入も多い。

 そんな、話をしたところ

「俺も、絵本なら集められるな、よし集めてみよう」

 そう言って購入したのが、『ももたろう』であった。

 伝わらなかったようである。


 食通気取りの彼は、箸にこだわりだした。

「これは、すぐダメになりそう…」

 近所のスーパーでプラスチックの箸を吟味している。

 夕食の買い出しなので、早く戻りたい私は、

つう』に、今度デパートの物産展とか見に行けば、と薦めた。

「あぁ、そういうとこで買うか、そうだな…いつにする?」

(俺も行くんだ…言わなけばよかった)


 物産展なんてものは、毎週どこかで行われているわけで、

 とりあえず週末出かけることになった。


 私は、せっかく来たのだからと、職人さんに箸の作り方やら、

 塗り方など教えてもらいながら、産まれて初めて箸を、自分で購入したのだ。

 5,000円ほどだったと記憶しているが、当時の私には高価な代物で、

 なかなか使うことに抵抗があり、しばらく使えないな~と思った。

 そのときは…。


つう』は、例によって

「高い、価値が解らない、地味だ、漆ダメかぶれる」

 文句のオンパレードであった。

 森林伐採とか危惧するわりに、箸の作り方や歴史などには、一切興味がないのだ。

 だから、何を言っても薄っぺらいのである。

 だから、誰も耳を傾けないのである。


つう』は、ついに箸を買わなかった。

 帰り道、私に責められながら困った彼が、

 一発逆転満塁ホームランを放つために連れて行った店。

 潰れそうなラーメン屋。

 床から、椅子から、机から、拭いていないことが、容易に想像できるヌメリ感。

 やる気のない小汚い店主、暗い照明、店の至るモノが変色して黒ずんでいる。

(絶対マズイよ、この店)


「この店は、俺が学生の頃から通ってる店、お前にも、割り箸の無駄のない、使い方を理解してもらいたい」

 と差し出した、箸立てには、割りばしがささっている。

 使用済みの割りばしがだ。

「えっ?」

「いや、箸!! とれよ」

「えっ?」

「ここは、使用済みの割りばしを洗ってるの、だから大丈夫、折れるまで使うの!!大丈夫」

「えっ?やだよ、汚いもん」

 箸は数回の使用により、黒いのである。

 水を吸って、カビた感じがする。

 だいたい、ラーメン屋なのに、ラーメンの香りがしない、古い油の香りしかしない。


 不味そうな、ぬるいラーメン。

 私は、先ほどの5,000円の箸を浸けるハメになったのである。



 次回 とある女性の夕食事情3

 偏食クィーンとの夕食エピソードです。

 変色が偏食で変換されたので、ふと挟んでみたくなりました。

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