第19話 つけ麺の美味しいお店

 誘われて、目的のないドライブ。

 なぜ、『つう』がドライブ好きなのか?

 簡単である。

「車は俺がだすから、メシ奢ってくれ」

 ガソリン代は、彼の父親でツケで入れるので一切お金が掛からないからである。

 ニュースで聞きかじった単語を並べ、中身のない政治論を得意気に、私に語る『つう


 パチンコなど、賭け事を嫌う私といるときは、パチンコを我慢するらしい。

 彼曰く、だから私といると無駄遣いが減るそうだ。

 パチンコは我慢するが、

 その日はゲームセンターでパチスロにハマり散財していた。

 正直、ゲームセンターも好きではない。

 醸し出している空気が、バカとヒマしか感じないのである。

 2時間弱の奮闘の末、手にしたのはアダルトDVD1本であった。

「趣味じゃない」といらないDVDはこちらへ、のカゴに放り込んだDVDは

 スカトロであった。

 何だったのであろうか?

 彼のお金と時間の使い方は、理解できない。


 余談だが、彼はアダルトDVDが大好きである。

 だらしのない彼は、車も家も服も汚い。

 しかし、本人は、アダルトDVDだけは、TVの下にキチンを並べているのだと豪語していた。

 嫁も子供もいるでしょ、と聞くと、気にしないそうだ。

 気にしないのは彼だけで、家族は気にしてると思う。

 事実、嫁に子供の目の届かないところへ隠せと言われたそうだが、

 隠すようにしまうと、そのことすら忘れると逆切れしたらしい。

 百舌鳥もずのようである。

 子供の友人も知っているので、エロハゲと呼ばれているらしい。

 そんな最近の彼、唯一の自慢は

「みんながさぁ、俺しかできないっていうのよ、しょうがなく、やってるんだわ、子供会の副会長」

「副会長って何するの?」

「他の家にプリント配ったり、行事の出欠取ったりだ」

「パシリか」

「馬鹿! 忙しんだぞ」

「だから、16:00には家に居るお前しかできないんだろ、適任じゃないか」

「……人望とか……じゃないのかな?」

「違うよ、面倒くさいから、みんなやりたくないんだよ、それで、気の弱い人とかバカを役職につけて、雑用やらせるんだよ、持ち上げてな」


つう』は、立ち寄った店にアダルトコーナーがあると、数時間は帰ってこない。

 以前、あまりに遅いので、そのコーナーに入ったところ、1人で30本以上のDVDを抱えた男がいた、彼である。

「お前、そんなに買うの?」

「いやっ、こんなに買えないよ」

「だって、お前どうするんだよソレ」

「これから、ココで選ぶんだ」

「選ぶって」

「この中から1本、コレってのを選ぶの」

「へぇ~」

 彼は、店の通路やら、棚やらをフルに利用して、DVDを並べ始めた。

 私は、時間が掛かりそうなので、メールで

『正面のマクドナルドで待ってます』

 と送信して待っていた。

 小一時間して、戻った彼の吟味した厳選の1本は何であったのだろうか。

 とりあえず、店員さんに怒られたことだけは聞いた。

 片付けが大変だったらしい。


 ゲームセンターから、すでに1時間は走りっぱなしである。

 しかも、軽トラックでだ。

 私の車で移動すればいいのでは?と思う方もいるであろうが、

 私は、彼を助手席に乗せたくないのである。

 乗せた翌日は、車内洗浄にだすことにしている。


「あっ,ここまで来たら、あそこの店行こう。前、つけ麺が美味しいって言われて行ったことがあるんだ。連れてってやるよ」

「俺、つけ麺好きじゃないんだけど」


 私は、つけ麺という食べ物の意味が解ってない。

 なぜ、わざわざ、ラーメンから解体して食わなければならないのかと考えてしまう。

 結局、スープにつけて食うのだ。

 最初から、スープに浸かっている状態のほうが、いいに決まっている。

 旨い、マズイではなく、存在が謎なのである。

 完成直前で放り投げた感があるのだ。


「旨いんだって、ソコのつけ麺は!」

「旨かったんだ?」

「いや、俺ねぇ、味噌ラーメンか、なんか食った気がする」

(あ~食べてはいないんだ)


 昼も少し回ったころ、その店に到着した。


「つけ麺ふたつ」

 私に選ぶ権利を与えず、彼は注文した。

「俺、つけ麺食べたくないんだけど」

「食ってみろよ。食わず嫌いなんだよ!」

「お前も、味噌ラーメン食ったんだろ」

「いや、だから今日は、つけ麺食うの!」

「お前はソレでいいよ、せめて、薦めてくるなら食ってからにしろ」

「旨いって、絶対、だって俺、後悔してるもん、つけ麺にすれば良かったって!」

「まずかったのか、味噌ラーメン。まずかったんだよな」

「だから、ラーメンにしちゃダメなんだって!」

「ラーメン屋が、ある日、流行に便乗してつけ麺始めたんだろ、考えてみろよ、ラーメン完成できないのに、作りかけの状態で出てくるんだぞ、つけ麺って」

「どーゆうこと?」

「もういい、面倒くさい」


 もはや、つけ麺がどーのではないのだ。

 コイツが勝手に注文したことに腹が立つのだ。

 ついでに言えば、私は絶対、つけ麺を頼まなかったであろうという自負もある。


「お待たせしました」

 つけ麺が運ばれる。


「お~旨そうだ」

 大袈裟に声を上げる『つう

 麺を濃いめの、スープに付けて食べる。

「お~旨い!」

 いちいち腹が立つ。

つう』は、猫舌だから、ぬるい食い物が好きなのかもしれない。

 まぁ、ラーメンに水を足して食うやからにラーメンは旨いと感じられるはずがない。

 しぶしぶ、食べ始める。

 各々の具を濃いだけのスープにくぐらせて食べる。

 やはり、濃い味でべったりするだけだ。

 好きになれない。

 飽きるんだよね、すぐに。

 ほら、もう冷めてきた、冷やし中華でいいんじゃないかな~。

 素材を単品でくぐらせて食べたいなら、しゃぶしゃぶのほうが理にかなっているんじゃないかな~。


 やっぱり好きになれなかった。

 頭っから否定しているからだとは思うが、どうやっても旨いに辿り着かない。

 なぜ金払う私が、好きなものを食えないのか?


「あ~旨かった」

 と嫌味な感想を繰り返す『つう』に殺意すら湧いてくる。

「つけ麺いいよね~、大好きだわ~、俺だいたい、つけ麺があれば、頼むよね」

「味噌ラーメン頼んだんだろ」

「最初はね、つけ麺、、なんか避けちゃった、今日旨いね、アレ」

「初めて食った?」

「うん、初めて食べた、食べやすいよ」

 初めて食べる、つけ麺を、どれだけ信頼してたんだ。

 旨いって、絶対!!……絶対!!……絶……対……。

 お前って何を根拠に『絶対』という言葉を発しているの?


「お前って、ガソリンでもラーメンでもツケが好きなんだね」

 私の一言で、無言のまま帰宅となりました。



 次回 内部分裂

 変わった店に、バカが来る。

 馬鹿が無職になると、もはや失うものがなにもない。

 彼の職安でのルールと共に送ります。

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