第17話 とある女性の夕食事情2

「ブラックチョコ食べれる?」

 彼女からの電話であった。

「あぁ好きだよ」

「良かった~あのね、貰ったんだけど食べれないの、明日食べてね」

 夕食の約束をしていたので、ついでに食べろということだ。

 時間になると、大きな袋を持ってやってくる。

 細長い身体には不釣り合いな大きな紙袋だ。

(今日は、あの中に何が入っているんだろう)

 毎回、あの紙袋からは、色々なお菓子やら飲み物が出てくるのだ。

「おはよ~」

 午後17:30である。

 助手席に乗り込むや否や

「これ、飲んで」

 豆乳メロン味、あと一口だ。


 車を走らせて、すぐにパキッという音がして、

 私に、板チョコを渡す。

 上手に折れないのか、ガタガタで食べにくい。

 食べると次、食べると次、とガタガタの板チョコが差し出される。

 とりあえず1枚食べたのか

「助かったよ~アタシ食べれないから」

 貰った経緯は不明だが、食べれないものを貰わなきゃいいのにと思う、

 性格的に受け取るのであろう。

 まぁチョコは嫌いではないのでいいのだが、できれば、自分のタイミングで食べたい。

 なぜに彼女は、自分の目の前で食べさせるのか?

 そのままくれたら一番よいのだ。


 豆乳を飲み終えると、アセロラドリンクを渡された。

 甘いモノの後のアセロラである。

 酸味倍増である。


 その日は私が悪かった。

 以前から、食べたいと言っていた店で、饅頭まんじゅうと大福を買っていった。

「あ~食べたかった」

 と大福を一口食べて

「はいっ美味しいよ」

 ニコリとシェアしてくる。

 そうか、ここで食べるか、そうだよな、いつもそうだもんな。

「お饅頭まんじゅうは、明日、ひとりで食べよ~」

 ある意味では助かったのだが、釈然としない思いもあった。

 私には、持ち帰りは許さないのだが、自分はOKである。

 持ち込んだのは私なのだから、大福は自業自得である。

 お饅頭を食えたか?と言われれば食べれたであろう、

 しかし、夕食に行くのだ、前哨戦にしては重すぎる。

 ゆえに、助かったのだと思いたい。


 その日は、普段から考えると、多少余裕があった。

 普段なら、店の駐車場に着いた時点で、腹いっぱいなのだから。


「ここ、前から来てみたかったの」

 上機嫌である。

「友達に自慢する~」

 そんなに高い店ではない。

 おしゃれなカフェではある。


 店内に入ると、雰囲気もいい、シンプルな色使いで統一されて、

 余計なものが置かれていない、席も間隔を開け、

 椅子もテーブルも充分なスペースが確保されている。


 お互い、示し合わせていたわけではないが、食べようと思っていたものは同じであった。

『牛ホホ肉の赤ワイン煮込み』である。

 しかし、限定10食。

 残念なことに、ランチ限定メニューであった。

(食べてみたかった)

 彼女も残念そうであった。

「お昼にこれたらな~、夜しか来れないからな~」

 吸血鬼のようなセリフである。

 地元ではないから、なかなか難しいのである。

 だが、彼女は時折、ギリギリの来店に果敢に挑むのである。

 普段から、間延びしたような、

 ふにゃっとした話し方をするのだが、押しは強いのだ。


 ディナーメニューは限定されており、

 スープは クラムチャウダー イングランド/マンハッタンの2種

 トマト嫌いだから、イングランドを頼むと思いきや。

 マンハッタンである。

 内心、トマト嫌いなのに大丈夫だろうか?と思ったが、

 その場では言わなかった。

 頼んだメニューは、

 クラムチャウダーマンハッタンにホットサンドのピザソース

(トマトにトマトを重ねた)

 プレーンワッフルプレート 

(まあ好きそうだ)

 ローズヒップのアイス×2

(2個食べるんだ)

 カフェラテ

 である。


 結論から言うと旨かった。

 彼女が食べたもの、

 クラムチャウダー1/3

(トマトは大丈夫だったが、アサリがNGだった)

 ホットサンド1/4

(美味しかったそうだ)

 ワッフル1/2

(お気に召したようだ)

 アイス×2

(これがいけなかった)


 2個目のアイスを食べ始めて、彼女をみると震えていた。

 手がプルプルしている。

「寒い」

 そうであろう、天気は冬型の気圧配置真っ只中である。

「スープまだ、あたたかいから飲む?」

「うん」

 スープを飲みながらも、アイスを食べることを止めない彼女。

(アサリは先に私が食べてある)

 震えながらもアイスを完食した彼女。

「スープ全部飲まないの?」

 私は残ったスープを飲み、店を後にした。


 車を走らせると、コココココココと助手席から音がする。

 彼女の歯の根が合わずに震える音であった。


 彼女を降ろして、帰る途中。

 腹の調子がおかしい、

 これはダメなやつだ。

 私は中腰で運転していた。

 しばらくコンビニすらない田舎道である。

 これは、だめかもしれない……。


 普段なら絶対、使わない公衆トイレに駆け込んだ。

 すでにだいぶ前から上着のポケットに、

 ポケットティッシュを入れていた。

 そう、紙が無いことも想定済みである。

 あとは、間に合うか否か、天のみぞ知ることである。

 ギリギリで間に合った。

 本当に危なかった。

 半ば諦めていた。

 なんなら、付いたかも知れないと思った。

 奇跡が降りた瞬間である。

 腹の中の暴れん坊将軍が白い馬、いや紙と一緒に流れていった。


 その夜、彼女からメールが

 お腹が痛いとのことである。


 私と彼女が食べた共通の食べ物

 大福 クラムチャウダーのスープ部分 ホットサンド

 だけである。

 あたったのであろうか。

 いや、私はともかく、彼女のは解る。

 冷たいものを取り過ぎなのである。


 そんな彼女の目下の目標は、

 コーヒーの飲めない私が、美味しいと飲めるコーヒー探しである。

 私は別に飲めなくても良いのだが。


 次回 秋葉原にて

 彼と初めて電車で移動した話です。


 追伸

 これを書くにあたり、先行で書いた3話がある。

『スリーピース』と題した小説、興味があればぜひ一読いただきたい。

 それは、間に合わなかったときの話である。

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