第8話 不思議と変わり映えがしない

つう』が、掃除機の購入に付き合ってほしいと言うので出かけることにした。

 掃除機を購入すると聞いていたので、10時頃を考えていたが、

 彼は、朝8時に迎えに来た。

(どこに行くつもりなの?)


 ノープランでした。

 コンビニくらいしか開いてないのだが、彼はコンビニが嫌いだ。

 理由は高いからだそうだ。

 他に行くところもない。

 会話もロクになく2時間走りました。

「日本人って農耕民族だから云々…」

 どうも、彼は私の生き方が間違っていると言いたいらしい。

 やっと10時を回った。

 長く、無意味な時間を過ごした。


 某ディスカウント店 スペイン最後の騎士の名を掲げる店だ。


 店内に入り、数歩歩いて、振り返ると彼がいない。

 入店、5秒で見失った。

(どうでもいいか)

 しばし店内を見て回る。

 欲しいモノがない。


 彼を探すと帽子を物色中だった。

 彼はハゲている、ハゲだしてからずっと帽子を被っているのだが、どうもセンスが悪い。

 その日も、グレーというか表現の難い色のキャップに『SHINE』の文字。

 頭部の輝きを隠したいのか…強調したいのか…。

 こういうところが嫌いでもあり、ツボでもある。


 彼の私服のセンスは悪い。

 気にしないわけではないらしい。

 今も必死で、色々と帽子の試着を繰り返している。

(どうでもいいや)


 再び彼を見かけたときは、カートを押していた。

 そんなに、ガッツリ買い物するのか、時間が掛かるな~。

 カートの中身を見てみると、赤と、くすんだ緑のキャップ2つ。

 キャップ計3個と乾電池単2の4本パックが8個、

 メーカー不明の商品多数。

「それ単2だよ」

 私が一応聞いた。

 私のなかでは、単2電池って使い道が少ないように思ったからだ。

「おお、使うんだ」

「32個も、まとめて買うの?」

「えっ32個そんなに買ってねえよ、32個も使わないだろ普通」

 私が買うわけではないので、どうでもいい。

「掃除機買った?」

「これから、前にね何件か回ったんだけど、ココが一番安いよ」

 彼の住んでいる市から2つ離れた市である。

 ガソリン代とか考えたら、どうだろうか?

「桜雪はさぁ、こういう下調べしないで買い物するでしょ、だから無駄が多いんだよ。手間を惜しまないこと、料理も買い物もね」

 カートには、私が絶対に欲しいと思わないもので満載である。

「コンビニ、ネット、お前はソレばっかり、足で探さないとな」

 と、買い物の達人気取りだ。


 目的の掃除機は売り切れてました。

 ほら、下見のしすぎで空振った。


 だいたい買い物下手なのである。

 以前、私がデジタルビデオカメラを買ったとき、触発されて購入を決めたことがあった。

 しばらくして、買ったかと聞くと、奥さんにお金を渡して買いに行かせたらしい。

 スペック比較ができなくなって、お店のおすすめを買ってこいと言ったのだそうだ。

 奥さんが買ってきたものは、テープ式のビデオカメラだったと、私に見せてきた。

 黒くて大きいカメラだな~と思った。

 返品するかと思ったら、そのまま、三脚を買いに付き合わされた。

 その後、息子の運動会を撮った彼は、ビデオデッキがないと見れないのだと知り、

 ビデオデッキを探し回るハメになるのである。

 最新のハンディが楽に買える出費である。

 逆に良く売ってたな~と感心してしまう。

 骨董品レベルだよ。


「量販店回ってみようよ。付き合うよ」

 と、声をかけ、レジに向かわせる。

 レジでかわいい店員さんが、電池8個(8×4=32)ですね、と彼に確認すると、

「そんなに買わねーよ」

 と理不尽にレジで揉めていた。

 結局、全部購入していたわけだが、ホント何に使うんだろう。


 ――車に戻り、助手席から外を眺める、なかなかエンジン掛けないな~と思っていたら、

 先ほど買った帽子をとっかえひっかえ被ってルームミラーで確認しては、不思議そうな顔をしている。

 横目でしばらく見ていたのだが……。

 どうにも見栄えに変化がない。

 すぐに理由が解った。

 3つ買った帽子のうち、2つは同じ帽子なのだ。

 それをとっかえひっかえ被っているのである。

「同じ帽子買ったの?」

「えっ、同じ帽子?」

「コレとコレ、まったく同じ帽子だよね」

「あっホントだ……まあいいや、オヤジとボウズにやろっと、喜ぶぞ~」


 ――彼は赤い帽子を被ってご満悦であった。

 ……………?印象、変わった気がしない。


 しばらくして気づいたのだが、

 赤い帽子に『SHINE』の文字。

 大好きなのかな?その帽子。

 その件には触れなかった。

 触れるのが怖かった。


 その後6時間、量販店を回り、面倒くさくなった彼は、最後の店で店員さんおすすめの掃除機を予算オーバーして、カードで分割購入しました。


 次回 食べたのとんこつだよ。

 今回の昼食時の話です。



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