第7話 トッピングってレベルじゃねえ

 某有名カレーチェーン店。

 夕食時間ということもあり、店内はそれなりに混雑してる。

 例によって、連れてこられたわけだが、

 今回は、ここ知っている?という感じで来たわけではない。

 少し話を戻そう。


 ――「ウチの嫁さん、お前のこと嫌いなんだよ。なぜかというと、俺が外出するときに、いちいち誰と会うんだとか、どこ行くんだとか、何時に帰るんだとか、うるさいの!!パチンコ行く、なんて言ったら怒り出すし、だから面倒くさいんで、お前に誘われたって言って、出かけるの、そうすると……」

 迷惑な話である。

 事実を述べると、私は『つう』を食事に誘わない。

 会うといっても、年に数回程度だ。

 私は基本、出不精であり、買い物や外食も、決断が速い。

 パッと見て決める方なのだ。

 何件も店を回ったり、メニューを何度も見返すことはない。

 ゆえに、専門店が好きだ。

つう』は、どこに行っても迷う、何件も回る、疲れるのである。

 安物買いの銭失い、そんな言葉がよく似合う。

 思考が真逆なのだと思っている。

つう』が彼の嫁のことでダラダラと愚痴るのを聞き流しながら、

 助手席でぼんやり空を眺めていたら、彼の携帯が鳴りだした。

 不必要にデカい音だ。

 が……なかなか出ない。

「うるさいから出るなり、切るなりしろよ」

 と私が苛立って言うと、彼は渋々、電話に出る。

「あ~もしもし……今……アイツと一緒……晩飯?……うん……戻る」

 と言って電話を切った。

(今日は、晩飯前に帰れそうだ)と思った。

 また携帯が鳴る。

「なに!?……うん……いいよなんでも……じゃあ」

 と電話を切る。

(奥さんだな)

 また携帯が鳴る。

「はい……カレー?それでいいよ!!」

 と電話を切る。

(しつこいな)

 私のイライラが募る。

 また携帯が鳴る。

「なに?……買い物……知らないよ……母ちゃんに聞いて!!……運転中だから!!」

 と電話を切る。

 で、冒頭の「ウチの嫁さん……」に繋がるのだ――。


 彼曰く、嫁は私が嫌いで、その理由は、毎日のように遊びに誘うから、ということらしい。

 好かれたくはないが、云われのないことで嫌われるのは心外である。

 私は人に嫌われると、その3倍くらい嫌いかえさないと、

 心の中でイーブンになれない面倒くさい性格なのである。

 彼の嫁のランクを『どうでもいい』から『貧乏神に好かれろ』に変えたい気分だ。


 彼の嫁の顔を思い出していた。

 出っ歯で、歯並びが悪く喋るとカキコキ鳴りそうな顔だった。

 結婚式、花束贈呈はクロスで行う予定であったが、彼はストレートに勝手に変え、自分の父親に花束を渡してしまった。

 それならそれで、嫁は自分の両親に花束を渡せばいいのだが、

 嫁も彼の父親に花束を渡してしまい、

 司会者、カメラマン、来賓一同まで絶句してシーンとなった会場が、私のツボにハマり、

 一人で拍手しながら笑ってしまったことを思い出した。

 花束2つ貰って感無量な表情の父親と、満足気なその息子。

 間違ったといった顔の嫁、肩透かしをくらった嫁の両親の顔。

 空気感すべてが面白かった。

 記憶の反芻はんすうを愉しんでいると、夕食時間になっていた。

 その間、なにがあったか覚えていない。

 きっと何も無かったのだと思う。


「そろそろ――」

 帰るか?と、私が言おうとしたとき、

「飯だな」

 と、彼は真顔で言った。

「えっ?」

「まぁ…俺はいいけど」

 多少含みを持たせて答えた。

「あぁ、嫁の顔見るの嫌なんだ」

 と意味深な発言であった。

「あぁ…あの顔じゃなぁ…」

 政治家なら辞職ものの失言であった。


 で、冒頭の某カレーチェーン店にいるのである。

 家でカレー作ってるのに、あえてのカレーチョイス、

 嫁への小さな反逆なのであろうか?

 家庭内テロリズムである。


「カツカレーにするわ」

 私が言うと、彼は呆れたように返した。

「お前さ、はさ~、カレーに具が無いじゃん。どうしてだか解る?トッピングで、自分のアレンジで、完全な自分のカレーを作るとこなんだよ」

 と私を見下す『つう

「じゃあ、お前の言う完全なカレーを俺に見せてくれよ。それと同じもの頼むよ」

 私は小馬鹿にして返した。

「俺に託したのは正解!!」

 と得意気である。

(腹立つ顔してるな~、この禿げ)

 彼がボタンを押して、注文開始。

 お手並み拝見である。

「まず……………で、トッピング→→→→……それと飲み物、チャイでお願いします」

 随分長い注文だった。

 店員も困っていた。本当にいいのか?といった感じだ。


 私はボックス席から彼を残し、私は隣のボックス席へ移動した。

「なにしてるの?」

 と聞く彼に

「すぐわかるよ」

 とだけ答えた。


 ――「お待たせしました」

 店員は3人いた。

 当然である。

『通』はトッピングの大半を注文したのだから。

 カレー皿の上になんか乗り切るわけがない。

 注文の大半は小さい小皿に別で運ばれる。

 2人前だ。

つう』のテーブルの上は、あっというまに小皿で埋まり、隣のテーブルも埋め尽くす。

(ほらね、こうなった)


 私は食べたいものだけ食べて、残ったトッピングを空いた先から彼のテーブルに乗せていった。


 出会いが多けりゃ別れも多いのさ、過ぎたるは及ばざるが如し。


 しかし、こんな食べ物を粗末にする彼だが、日本の農業は心配らしい。

 きっと、高級懐石に箸もつけないで、食糧問題を語る政治家ってこんなヤツなのかもしれない。


 カレー臭い彼が、家に帰って、さらにカレーとは笑うしかない。


 次回 不思議と変わり映えがしない 

 閑話休題 食べ物以外のエピソード。

 外伝感覚でお読みください。

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