第6話 グレーな色した味噌ラーメン

 今回は私と『つう』ともう一人加わる。

 紛らわしいので

 私=筆者

つう』・彼=いつものアレ

 同僚=同期入社の友人


つう』とのファーストエピソード。

つう』と同僚は高校時代の同級生らしい。

 私は彼らと同期入社として出会った。

 研修時の昼食での話だ。


 たまたま同席することになった食堂で味噌ラーメンを頼んだ。

 3人共だ。

 味噌ラーメンが運ばれる少し前に、同僚が用を足しに席を離れた。

 行き違いくらいのタイミングで味噌ラーメンが運ばれてくる。

つう』は、私に目配せをして、

 同僚の味噌ラーメンにコショウをたっぷりと振りかけた。

 ご存じと思うが、銀色の大きな缶入りコショウだ。

 その量は、振りかけた彼がくしゃみをするほどの量をだ。

「それじゃバレるよ」

 私は、同僚の味噌ラーメンを引き寄せ、コーンに山盛りになった、コショウを

 麺の下へと沈め、ふたたび外観を整えたみせた。

「なるほど」

 と、感心したようすの彼。

 自分も、とばかりに、ふたたびコショウを激しくふりかける。

 さすがに度を越していると思い

「おい、そのへんで――」

 言いかけた時、ポコッと缶のフタが外れた。

「あっ」

 と、いう間もなく、味噌ラーメンの中に大量のコショウがフタごとダイブした……。

 ムワッとした香りと共に、コショウの煙が辺りを包む。

 幾度かくしゃみをして、食堂のおばちゃんに謝りながらテーブルを拭いた。


 問題は、味噌ラーメンである。

 もはや、味噌ラーメンというより、どんぶりにそびえる灰色の山と化している。


 鼻のムズムズを堪え、『つう』は必死にコショウをスープに馴染ませようとしている。

 許容量というものは、精神的にも、物質的にも限界値というものがある。

 物理的な問題は気力や努力では、どうしようもないものだ。

 彼がラーメンを捏ねくりまわしても、コショウはその全てを灰色に染めていくだけ。


「お前が食えよ」

 私は冷たく『通』に言い放った。

「バレねえだろ」

 根拠のない発言や自信。

 この頃、すでに『つう』の人格形成は完了していたようだ。

 私が見る限り、それは、どんぶりに、たんまり盛られたコショウ以外の何物でもなく、

 およそ、味噌ラーメンには見えなかった。

 さて、なんでしょうか?

 クイズの問題になりそうな灰色の塊である。

 徐々に灰色を取り除いていくと…。

 ピンポーン!!

「コショウ?」

 誰もがそう答えるに違いない。

 もし、味噌ラーメンと答える回答者がいるとすれば、それはヤラセである。

 でなけば、超能力だ。


 同僚が戻ってきた。

つう』は、なぜか笑いを堪えるのに必死である。

 隣の同僚から顔を背けている。

 チラチラと対角線上の私に視線を送ってくる。

 じつに楽しそうだ。

 バレないと思っているのだろうか?

「ちょっとトイレ」

 耐えきれなくなった彼は、席を立った。

 口を押えてトイレへ向かう。

 同僚は、何事もなかったように、どんぶりを『つう』のとスッと入れ替えて

 味噌ラーメンを食べ始めた。

「昔から、ああいうヤツなんだよ」

 と私に笑いかける。

「ああ、止めたんだが…間に合わなかったんだ、スマン」


 ほどなくして、戻った『つう』は、同僚の背中から、

 私に無言でジャスチャーを送ってくる。

 ひとさし指は同僚の頭へ向け、

 その指をなか指をくっ付けて水平に、口の前でちょいちょいする。

 こ・い・つ・た・べ・て・る~!!バカだ!!

 と言いたげだ。

 私は、コクリと無言で頷いた。


つう』は、澄ました顔で席に着き、私の顔だけを見て、

 味噌ラーメンに箸を入れ、麺をとり、そのまま口に運んだ……。

 自業自得というものを、目の当りにした瞬間である。


 ――私と視線を合わせたまま…。

 灰色の粉が、これでもかというくらいに付着した灰色の塊を思い切りすする。


つう』が麺をすすった瞬間のブホッ!!というリアクションは、

「聞いてないよー」の人より、

「ヤバイヨ、ヤバイヨ」の人より

 ズキューンと突き抜けたレベルであったと思う。


 カリギュレーション計算された笑いナチュラルボーン神に愛された馬鹿。

 ミラクルである。

 Tomトムが自分で仕掛けた罠を、Jerryジェリーに利用されて自滅して、

 Aa~OhooHo!! されたようである。


 私は今でも、味噌ラーメンを食す際、この彼らとのファーストコンタクトを懐かしく思い出す。

 あの、グレーな色した味噌ラーメンを……。


 追記

 先述の『お湯ラーメン』でも、『つう』は味噌ラーメンを食しているが、

 彼は味噌ラーメンをどんな気持ちで食べているのであろうか?


 次回 トッピングってレベルじゃねえ

 出会いが多ければ、それだけ辛い別れも多いということさ。

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