第5話 注文間違えられたの俺だよ

「ハンバーグの美味しい店見つけたんだ、行こうよ、お前に食わせたいんだよね」

 久しぶりの『通』からのメール。

 誤解のないように言っておくが、彼はめったに外食をしない。

 にも関わらず、外食エピソードが多いのは、

 20年以上付き合っている長さと彼の性格、そして私の運なさの3重奏ワルツに他ならない。

 因果律という言葉があるが、トラブルを呼び込む条件が揃いやすいのかも知れない。


 誘われて、ハンバーグの美味しい店、隠れた名店を期待していた。

 地元のこだわり手作りハンバーグとかTVで紹介されるようなお店をだ。

 誘ったのはアノ『つう』だということを久しぶりで私は忘れていたのだ。


 パチンコ屋の駐車場で待ち合わせて、今回は私の車で移動した。

つう』は、実家で採れた枝豆を枝ごと持ってきてくれた。

 結構な量である。

「うちで採れた枝豆だ、居酒屋なんかで食べるものと全然違うから、本物を知ってほしいんだよね~お前にも」

 相変わらずの、俺の家で採れるもの最高ー!!ぶしだ。

 念のため断っておくが、彼の父親は農業を営んでいるが、

 彼はサラリーマンである。

 農業やってますとは言うが、草むしりとか苗を植える程度らしい。(本人談)

 なのに、なぜ、彼はそんなに自信を持って『食』を語るのか?

 ときには、食を愁い、日本の農業の行く末を心配し、

 自分だったらと、タラレバが止まらない。

「日本人は本来農耕民族なのに云々…」

 と、今日も絶好調である。

 農耕民族に戻るべきと主張する彼だが、

 本日、おすすめしたきたのは肉食の代表格ハンバーグ。

 油断できない人間なのである。


 車で走ること10分。

「おっ、あそこだ曲がってくれ」

 私は絶句した。

「まさかの?」

「知ってる?ハンバーグすごい美味しいんだよ」

「うん、日本中の人が大抵知ってる…」

「えっ?そう?」

 着いたのは広い駐車場。

 CoCoエス…有名全国チェーン店である。

 最初からで待ち合わせでも良かったよね。

 この話は、1回ここでオチてはいるのだが…。

 ここで終わらないのが因果律の由縁なのである。


「何食べる、俺のおすすめは、チーズインハンバーグ知ってる?ハンバーグにさ、チーズが入っているの」

(だからチーズインなんだよ…)

つう』のおすすめは無視して、

 普段絶対頼まないであろうハンバーグに挑戦してみることにした。

「ご注文は、お決まりでしょうか?」

 アルバイトと思しき若い店員に思い切って

「ハンバーグのブルーチーズ乗せひとつ」

 言ってやった~!!

 私は、ブルーチーズが苦手である。

 だが、この店なら、万人に食べやすくかつ、

 ブルーチーズを損なわず提供しているのではないだろうかと期待していた。

「俺、煮込みハンバーグ」

 と、注文が終わり、しばしの歓談。

「お待たせしました」

 運ばれてきたハンバーグ…半分ほど食べたとき、ふと気が付いた。

 ……ブルーチーズ乗ってない……。

 伝票を確認する。

 デミグラスハンバーグ×1

 ライスセット×1

 煮込みハンバーグ×1

 ライスセット×1

 であった。


「僕、ブルーチーズ頼んだよね?」

「おお、なんで、あんな臭いチーズ本当に食うのか?と思ったぜ、アレ、ブルーチーズは?」

「なっ!!デミグラスなんだよ」

 少し間を置いて『つう』、

「ウェイター!!」

 と大きな声で店員を呼び付けた。

 静まり返る店内、慌てる店員。

「なにかありましたでしょうか?」

「なにかじゃねえよ」

「ブルーチーズ頼んだんだけど、乗ってねえじゃん」

 伝票を確認する、さっきの店員。

「申し訳ありません。私が打ち間違えたようです」

 と頭を下げた。

 僕も半分食べちゃったので、

「いいよ、デミグラスで」

「本当に申し訳ございませんでした」

 と再び頭を下げ、厨房へ戻って行った。


「冗談じゃねえよ、本当にいいのかよ、俺は、お前にチーズインハンバーグを食わせたかったのによー、スマン!!」

 と、よく解らない理由で、真剣な面持ちで『つう』が私に頭を下げた。

「うん、べつにいいよ、チーズインハンバーグ頼んでないしね」

「そうか、よかった、満足か?よかった」

 なんだろう、何に安心したんだろう。

 変なクスリがキマってるのかな?

 会話が支離滅裂だが、若年性のアレかな?

つう』の話など上の空でハンバーグを食べ終わる頃、

「さきほどは申し訳ありませんでした、コレはサービスでございます」

 と店長が頭を下げに来てくれた。

 コレとは、デザートである。

「ああ、いえ、僕も半分食べてしまっていたので、気になさらないでください、せっかくなんで、デザートいただきます、逆にすいません」

「とんでもない、どうぞ、どうぞ」

 と、お互い笑顔で終わるとこだったのにー!!


「俺のは?」

 と不機嫌そうな彼の声。

 しばし、店長も私も、『つう』のキレ加減の目をWhyなぜ?と見返す。

「俺には無いの?」

 店長、絶句!!私、赤面…。

(なぜ、お前に?)

 すると、先ほどの若い店員が

「お待たせしました」

 と彼にデザートを差し出した。

「あぁ、あるじゃん、うん、いいよもう」

 と、手で店長とバイトを追い払う。

 本当に態度の悪いヤツだ。

「うん、美味い!!」

 デザートを食べる『つう』、満足そうである。

 あの店員、おそらく察したのだ、そして急ごしらえでデザート用意したのだ。


 私のデザートより、彼のデザートのほうが、お値段がお高いことはあえて考えないことにした。


 若い店員さん、グッジョブ。

 そして、ごめんなさい。


 ――パチンコ屋の駐車場で『つう』を降ろし、帰路に着いた。

 翌朝、枝豆を貰ったのを忘れていたことに気づき、

 慌てて、車のハッチバックを開けると…。

 車内が、青虫だらけでした。

 も~ぎたての果実の~♪なんて歌が頭に流れました。

 車内の清掃代金、5,000円ほど払って、車屋さんに掃除依頼しました。

 私はワームの類が大嫌いです――。


 次回 グレーな色した味噌ラーメン

 『つう』との外食ファーストエピソード。

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