第4話 魚介類っていえば間違いではない

 深夜のファミレス。

 人もまばらで大学生と思しきアルバイトもやる気のなさが立ち姿からにじみ出ている。

 現在なら~~ナウなどと、すぐに拡散してしまうのだろうが、

 私が20才の頃には携帯電話すら珍しかった。

 連絡を取ると言えば、家に居るか否かということになる。

 そんな石器時代の話だ。


「ビリヤード行かない?」

つう』から誘われて、ビリヤード場で3時間たっぷり玉突きを堪能した。

 私も下手だが、彼は酷い腕前だ。

 どうやら、大物の『つう』には、ビリヤード台が狭すぎるらしく、

 彼の手玉は、よく跳ねて床を転がっていた。

 木製の床にゴトン、ゴロゴロゴロと店内に響く落下音、

 その度に店内の視線が注がれる。

 ときに隣の台でプレーしている人に拾ってもらう恥ずかしさ。


 ――ビリヤード場を出てドライブすること2時間、

 会話もなくなりファミレスに入ることにした。

 有名全国チェーン店だ、店名は伏せたい。

 ファミレスとは便利なもので、和・洋・中とラインナップは揃っている。

 今ほどではないが、当時も、まあ一通りの食事はできる。

 冒頭でも書いたが、当時は接客態度などバイト店員に期待してはいけない。

 態度の悪い接客業といえば、ファミレス・コンビニが2大巨頭だったのだ。


 若い男のバイトが、「来てくれてありがとう」などとはミジンコほどにも思ってない口調で

「いらっしゃいませ、メニューをどうぞ、お決まりになりましたらテーブルのボタンでお呼びください」

 と棒読みでメニューとお冷を置いていく。

 特別食べたいものもなかった私は、和風御前かなんかを頼んだように記憶している。

『通』は、注文が決まらず、あーでもない…こーでもないと講釈をたれている。

「ファミレスで米食う?不味くて俺なら食べれない、古古米だぜ、臭いんだよ米が云々…」

「早く決めろよ!!」

 イライラして急かした。

 そもそも私は、ビリヤードが終わったら帰りたかったのだ。

 それを2時間も車内で、くだらない話を聞かされて、相当機嫌が悪くなっていた。

「わかってるよ」

 と彼が再びメニューを眺める……………決まらない。


 先に頼もうと、ボタンを押して、店員を呼んだ。

「お決まりですか?」

「和風御前ひとつ」

「そちらの方は」

 と店員が『つう』の方を見る。

「あ~、ねぇピザってどのくらいの大きさ?」

「えっ?」

 と、ピザの大きさを訪ねる彼に、驚いた顔の店員。

「いや、これくらいですかね」

 と、両の手で丸を作る。

 顔はだいぶ困っていた、嫌がっていた。

 そうだろう、コイツは付き合いの長い私ですら想定できないことをする男なのだ。

 とはいえ、『つう』が食べ物の大きさを聞くのはよくあることなのだ。

 以前もラーメン屋で、どんぶりの大きさを真剣に聞いていた。

 恥ずかしいのだが…彼は、なんなら深さまで尋ねるのだ。

 私は、態度の悪い店員が対応に浮き足だって、しどろもどろする姿を、内心愉しんでいた。

(ざまぁみろ~)

「ピザにしようかな」

つう』が注文を決めるようだ。

「ピザにしよ!!」

 ようやく決まったようだ。

「ところでさ、シーフードって何?」

 と真顔で私に聞いてきた。

 えぇっ!!

「シーフードってどういう意味?」

つう』の一言、一瞬で店員と私の立場逆転である。

 店員は思わずブフッと吹き出した。

 私は凍りついた。

 彼を見る前に、周囲を見回してしまった。

 静かな店内に、そこそこのボリュームで

「シーフードって何?」

 である。

 周りに聞こえてしまったか確認したかったのだ。

 結果、店が空いててよかった。

「バカ、海の幸だよ」

 小声で彼に伝えた。

 店員はニヤニヤしている。

「海の?たとえば?」

「だから、イカとか貝とか魚だよ!!」

 あまりの恥ずかしさに、早口になっていた。

「あ~そういうことか、じゃあソレで」

 店員は、和風御前とシーフードピザを承り去って行った。

「ご注文を繰り返します」

 で、くだりが若干強めに聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。

「あのさぁ、あんまり恥ずかしいこと言うなよ」

 私が彼にぼやくと、

「いや、わかんないじゃん普通」

 普通解るよ。

「SEAで海でしょ、FOODは食べ物だろ、ピザの大きさとかもなんなの?恥ずかしいと思わない?」

「何が!!恥ずかしくなんかねぇよ!!」

 若干、喧嘩ごしに言い返してくる。

 なんかもう、どうでもよくなってきた。

 本当に今すぐ帰りたい。


 ――「お待たせしました、和風御前とピザでございます」

 テーブルに食事を置いて、店員が足早に去っていく。

 ムスッとしていたので、彼のほうも見ずに箸をすすめていた。

「ねぇ」

「あ~」

「コレ聞いてたのと違う」

「何が!!」

 イラッとしてピザを見ると、10㎝ほどの丸い生地に薄く塗ったトマトソース。

 そのうえには、2匹……メザシかな?……焼き魚。

 黒い焦げたメザシが2匹。

 一瞬目を疑った。

 いや~僕が知ってるシーフードピザとだいぶかけ離れた斬新なピザだった。

「まぁいいや」

 と、言ってメザシピザを食べ始める彼を、私はポカーンと眺めていた。

「うん、美味い!!」

「えっ?そう?美味いの?へぇ…よかったね」

「うん、お前の説明とだいぶ違うけど、美味いよコレ」

『通』は気に入ったようだった。

 この系列のシーフードピザってコレなんだと思ってしまった。

 でも私は思った。

 この店嫌いだわ~。

 事実その後、数年間利用することは無かった。


 何年かして転職し会社の後輩に、

「本当だって、あそこのシーフードピザはメザシが乗ってるんだって」

桜雪にいさんそれはない!!」

 と、ピシャリ。

「じゃあ今日食いに行こうぜ」――


 ――ほらね、普通にシーフードピザでした。

 今思えば、バイトの悪ふざけで遊ばれたんだと思います。

 現在でコレやったら、僕も、バイトも、お互いにバカッターやってそう。


 洒落が通じた時代も悪くなかったと最近は思います。

 窮屈な規律社会より、洒落の通じる社会がいいな。


 次回 注文間違えられたの俺だよ

 読んでいただければ幸いです。

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