第3話 ほにゃらら風ってそういうことじゃなくてさ

「この間ね、から揚げ食べたの、すごく上手くて、お前を連れてこうと思ったわけ、ほか弁と全然違うから、いや~なに味っていうか、表現難しいわ、この俺でも」

『通』が食材や味覚の表現について、どれほどのボキャブラリーを持っているのか?

 考えるまでもない。

 彼は、基本的に本を読まない。

 以前、カラオケに行ったときに、歌詞にまったく口が追い付いていかなかった。

 英語は読めない。

「シーフードってなに?」

 ファミレスで大きな声で、私に聞いてきたときは恥ずかしかった。

 カラオケでは、歌詞は即興・創作になる。

 英語どころかカタカナでさえ、ハミングになる。

 フフンフ~♪って感じだ。

 言語のボキャブラリーが著しく欠如しているのだ。


 店に向かう車内でニュースで覚えたての単語を使い、

 政治経済を語ってくる『つう』同じ単語を連呼しているだけだったが、

 本人は悦に浸っていた。


 店に着くと、いつもの感じではなく、落ち着いた店構え。

 ほぅ~と思った。

「こんな店、良く見つけたね」

「人に教えてもらったんだ」

つう』は得意気である。

 お店の看板に大きく『とり〇〇』(〇〇は伏せます)


 入店すると、すべてお座敷、適度に隣席とのスペースも取ってあり、落ち着ける。

つう』のおすすめ店で初めて期待してしまった。

 メニューは

『から揚げ定食』

『から揚げ単品盛り合わせ』

『とり〇〇風カツレツ定食』

 くらいしかない。

 なるほど、から揚げ勝負が伝わってくる。

「からあげ定食ひとつ」

 私がアルバイトと思われる若い店員に注文すると彼も続いて、

「カツレツ定食」

 と頼んだ。

 内心、から揚げ定食じゃないんだな、と思ったが彼は2度目の来店だ、

 カツレツを試したくなるのも解る。


 ほどなくして、から揚げ定食が先に運ばれてきた。

「お先」

 と彼に声をかけ食べ始める。

 美味い!!骨付きで食べにくさはあるが、カレー粉がまぶしてあって、

 ごはんがすすむ。

「カレー味なんだな、聞いたとき言ってくれればいいのに」

 彼に言うと、

「カレー味だったか?そうだったかも知れない」

 忘れているようだった。

 忘れるか普通?表現難しいか?カレー味だぞ。

 私が紹介するなら、

『骨付きから揚げカレー味』という。

 これでおおよそ伝わらないだろうか。


つう』のカツレツが運ばれる頃には、私は半分くらい食べ終えていた。

「美味そうだ」

 彼は、カツレツを1枚食べて、ちょっと変な顔をした。

「一枚食べてみて」

 と、私にカツレツを食べるよう促す『つう

「美味いじゃん?なんかあったのか?」

「気づけよ……チキンじゃねぇじゃん!!」

 えぇ!?

 チキンカツが食べたかったの?

 メニューに無いよチキンカツ…。


『通』は、先ほど注文をとりに来た、若い店員に文句を言い始めた。

 理不尽極まりないクレームだ。

「お前いいかげんにしろよ!!」

 思わず怒鳴ってしまった。

 店員には誤って。

つう』に何が不満なのか聞くと、

『とり〇〇風カツレツ』


 とり〇〇=お店の名前

 ほにゃらら風=~のイメージで仕上げました~的な…。

 カツレツ≒薄切りとんかつ?


 であるのだが、彼の脳内ではこれを、


 とり〇〇=チキン!!

 ほにゃらら風=無視!!

 カツレツ=カツ!!


 で…チキンカツと解釈したようだ。


 先に聞けば良かったのに。

 まぁ解らなくもないのだ、鶏肉専門店みたいな名前だしね。


「から揚げ単品で頼めば」

「おぅ!!そうだな!!すいませ~ん」

 で満足そうにから揚げ食べてました。


 先に食べ終わって改めてメニューを見ると、

『とり〇〇風カツレツ定食()』

 書いてあるじゃん!!

 字を読まないからだよバカ!!


 次回 魚介類っていえば間違えではない 

 ファミレスでの体験です。

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