Bonus route
おまけの章 懐かしい季節
おまけの第1話 ポッキーゲーム
「ねえ、お姉ちゃん」
「どうしたの?」
気だるい月曜日を迎えて、今はお昼休みである。七海に誘われて、今日は俺と七海と武弥の三人でお昼ご飯を食べることになった。武弥と一緒にお昼休みを過ごすのは、久しぶりだったかもしれない。特に何事もなくお昼ご飯を食べ終わると、七海は突然微笑み始めたのである。何かいいことでもあったのかと思ったが、どうやらそういうことではないようだ。
「今日って何の日か知ってる?」
何の日だろうかと考えると同時に、あることに気づいた。そもそも今日が何日かが分からなかったのである。
「まず、今日は何日だっけ?」
「11月11日だよ」
七海に言われて、同じ数字の日だということはすぐに分かった。だが、そういう意味ではないのだろう。だとすると、他には何があるだろうか。当たり前のことだが、国民の祝日にあたる日ではない。
「まだわからないの? 本当にお姉ちゃんって流行に疎いよねえ」
さらりとひどいことを言われた気がするのだけれど、否定できないことは確かだった。流行についていこうとする気はさらさらないのである。
七海はあきれ顔であるものを机の上に置いた。それはポッキーだった。ここで俺はようやく七海の言いたいことが分かった。今日は11月11日、つまりポッキーの日である。
「そういう意味ね」
これを流行というのかはさておき、あまり関心のないイベントであることには違いがなかった。つまり、七海は俺とポッキーゲームをしたいらしい。ちょうどおやつが欲しかったので、どうせならと楽しむことにした。
ここで、ポッキーゲームのルールを確認しておくことにした。内容は至って単純である。2人が向かい合い、1本のポッキーの端を互いに食べ進んでいく。その際に、先に口を離すかポッキーを折ったほうが負けとなる。言わなくても分かると思うが、最後までいくとキスすることになる。端的に言えば、恥ずかしさを存分に生かしたゲームである。恥ずかしがった方が負けるのだ。
「じゃあ始めよっか」
「いいよ」
七海と俺は立ち上がり、向き合う姿勢となった。包装袋からさっとポッキーを一本取り出し、七海は自らの口にそれをくわえた。俺がそれを同じように口にくわえればゲーム開始である。ポッキーが折れないように、そっと口にくわえた。
ここからは作業である。気にしたら負けなのだ。お互いの鼻息がかかっていようが、七海の甘い香りを感じようが無視しなければいけない。順調に食べ進めていき、七海の顔が近くにあることは目を閉じていても分かるほどになっていた。このままだとキスしてしまいそうなのだけれど、七海はそれに気付いているのだろうか。そのとき、ポッキーの折れる音がした。目を開けると七海の顔が真っ赤になっていた。耳まで赤くなっていて、少し可愛いと思った。
「お姉ちゃん、強いね……」
そんな状態の七海を横目に、俺は残ったポッキーを食べ切った。
「久しぶりにしたけど、案外緊張するものね」
「本当に緊張してたの? 全然そんな風には見えないんだけど」
全く緊張しなかったわけではないが、無視できる程度だった。ふと武弥のほうに顔を向けると、少し赤みを帯びているように見えた。
「どうしたの、武弥」
「あ、いやそのだな…これ見てるほうが一番恥ずかしいぞ…」
ずっと武弥に見られていたと考えると、それはなんだかまずいような気がした。特に理由はない。
「じゃあ、次は武弥くんと勝負する?」
それはよくない気がした。ただなんとなく、武弥とこれをするのは違う気がするのだ。
「中津姉妹は、お昼からなんでいちゃいちゃしてるのよ」
声をかけてきたのは、紗那だった。例外なく、由果も一緒にいた。この二人なら、すでにポッキーゲームと称していちゃいちゃしていてもおかしくはない。
「ポッキーゲームでお姉ちゃんと遊んでたの」
それを聞いた紗那は、不気味な笑いを浮かべていた。もしかして、興味が出てしまったのだろうか。いや、それとも今日がその日だということを忘れていたのだろうか。そうだとするならば、まだポッキーゲームをしていないということになる。
「それで、どっちが勝ったの?」
「お姉ちゃん」
七海からそう聞いた後、紗那はすぐにポッキーを一本準備した。もしかして、ポッキーゲームを始めるつもりなのだろうか。
「沙希姉ちゃん、手加減はしないよ…?」
「その呼び方、恥ずかしいからやめて」
その後も、ポッキーゲームはお昼休みが終わるまで続いた。
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