第14話「予期せぬ本番?」

モニターが突然乱れはじめた。なにが起きているんだ。


「総員第一種戦闘配備!」「急いで!早く!」綾菱の声だ。


えーと、これって・・・。


「牧村さん、トレーニングモードは急遽終了です。不幸中の幸いというべきか、早速敵のお出ましです」


え、ほんとに?


わけがわからない・・・と固まっていると、モニターの乱れがおさまって、荒野が表示される。しかし、先ほどと何かが違う・・・そうだ、解像度だ。3DCGに変わりはないが、これは昔のゲーム機のものじゃない。もっと綺麗でリアルな、最新のモデリングだ。どういうことだ。


「牧村さん、落ち着いていきましょう。これが実戦の画面です。いや、私も生で見るのは初めてですが」


「頼りないこと言ってくれますね」


「いえ、大丈夫です。私がついてます。私の指示に従ってください」


ポーンという音とともに、大きなモニターの右上に深緑の何かが表示される。


見たところ・・・マップか。


「牧村さん、右上にレーダーマップが表示されているはずです。見えますね?」


「ええ、見えます」


「中心の緑色の三角形が牧村さんの乗っているシュタディオン。周りに見えるオレンジ色の点がエネミーの現在位置です」


なんと、見事に三匹の真ん中に僕のシュタディオンがいる。


「囲まれていますね」


「牧村さん、もう少し慌ててくれたほうが良いかもしれません」


冷静さが売り・・・ではなかったか?


「まあ、この状況では悠長なことは言ってられないですね」


「いえ、そういうことではなく。このエネミーの1体はどうやら、レーザーを持っているようです。司令室のセンサーでそのように生体反応が出ています」


レーザーっていうと、つまり飛び道具?それはまずい。


「あの・・・もうちょっと早く言ってくださいよ!」


「牧村さんがあまりに落ち着いているから。大丈夫ですよ。私の指示に従って動いてください。良いですか?いま牧村さんはF17のエリアにいます。エネミーはその正面のE17に一体、斜め後ろのG16とG18に二体です」


縦軸にアルファベット、横軸に数字がならんだマップだ。


「まず、レーザー光線を持つ正面のエネミーを破壊しましょう。この1体を先に倒しておかないと、他の2体を倒す時にレーザーで攻撃されてしまうからです。ただ、そのまま前進でつっこむと盾で防いでも持ちません。加速とジャンプを合わせて、とにかく高く上空に飛んでください。そうすれば相手も照準を合わせづらいですから」


なるほど。指揮官として訓練を積んできたというのは伊達ではないらしい。


「空中で捕捉されるのでは?」


「その時はバックパックのロケット噴射加速やブレーキで調整してください」


二段ジャンプみたいなものか。OK。


「準備は良いですか?じゃあ行きましょう牧村さん。記念すべき私たちの初陣です」


いったいなにが"記念"なのかわからないが、でもまあ、初陣に違いはないか。


スピーカーから、息を大きく吸う音が聞こえる。


そうか、そうだった。


「グッッドッ!!!!!!!!!!!」


ううーん。


「ラッック!!!!!!!!!!」


やっぱり、叫ぶ前はまだちょっと恥ずかしい。


ってそんなことを言ってる場合じゃないな。さあ、翔ぶぞシュタディオン。操縦桿を左右に開き、アクセルペダルを一気に踏み込んだ。ビル何階ぶんだろうか。周りにビルのようなものが無いからわからないが、このシュタディオンを人間のサイズと同等に捉えれば10階建てのビルはゆうに超えているだろう。こんな世界はTVのスカイダイビングか、フライトシュミレーターのゲームぐらいでしかみたことがない。いや、あとは配管工のヒゲオヤジのゲームもあるか。なんてほんの少し、優雅な気持ちに浸っていたら閃光のようなものが一面に広がった。大きな爆発音が鳴り、モニターがフラッシュのように点滅する。


「牧村さん、よけて!」


おいおい、ジャンプしていきなりロックオンされるとは聞いてないぞ。アイツ、怪獣みたいなナリして立派なスナイパーじゃないか。これだけ遠くの豆粒みたいなサイズでしか見えていないのに当ててくるとは。だんだん腹が立ってきた。


「敵の怪獣が遠い!望遠のような装置は?!」


敬語を使ってる余裕はない。


「左操縦桿の前!パネルがあるでしょう?!」


あった。これか。Zoomと書いてある。タッチパネルか。手で前方へなぞれば拡大か?


よし、正解。見えた。ロックオンでき・・・。


いけない、口を大きく開いている。怪獣ってことはつまり、あれがそういうことだろ?!


「逃げて!来る!」


わぁーってるよ、なんて言ってる暇もない!


落ち着け。これは望遠の状態だ。今打ったとしてもタイムラグがある。ブレーキと左サイドステップにバックパックでの加速だ。


レーザーが来る。


―ギリギリ右ををかすめた。


よし、よけた!


このまま着地してたまるか。もう一回ジャンプしてまた狙われるんだろ。


サイドステップをしたおかげでロックオンから外れた。向きを変えろ、望遠はまだそのままだ。少し向きを右に変えるだけで視界に捉えられるはずだ。


ほら、大きな身体が見えましたよと。


「オラァァ!」


ライフルを2連発。


爆発音がする。命中したようだ。


「牧村さん、良い反応ですよ!」


「ええ、どうも。で、次は?!」


「今の攻撃とジャンプで、位置関係が変わりました。大きな岩の向こうにいます。斜め前、2時の方向です。岩がある以上相手も攻撃できません。この隙に裏側へまわりましょう」


レーダーマップを見ると斜め前、というよりは横という感じか。オーケー。あの岩の裏だな。アクセルペダルを半踏みで加速しながら、回り込んだ。・・・と、怪獣もこっち向いてますよと。


パカっと口を開けてる


こいつ、割りと賢い!


「跳んで!」


綾菱の声に反応して、僕は反射的にジャンプしていた。


足の下をレーザー光線が突き抜けていく。


こんのやろう。あぶねぇな。でも、誠に恐縮ながらこちらも完全に視界に捉えているのですよ。右のレバーを引く。ライフルが2連発。


"ド、ド、ドドーン!"


大爆発だ。


「エネミー一体撃破!」


綾菱の声が響き渡る


「その調子、牧村さん!残りの二体は、近い方からで良いのでくれぐれも2対1の状況をつくらないように!」


前方両斜め前に1体ずつ。さっきからそれほど位置は変わってない。スピードは無いようだ。このレーダーマップが正確だとするなら、この距離ならじゅうぶん射程距離だ。問題はどっちからやるか、挟まれないようにするか。


「岩を使いましょう」


なるほど、岩に隠れながら、ジャンプして打てば良いってことか。


「了解」


レーザーがないなら、おそれるものはない。最大ジャンプで視界に捉えた。これなら2発ずつ両方に打てる。左の怪獣に二発打ち込んだすぐ後に右に向きを変えてロックオン。右の怪獣にも二発打ち込んで着地した。岩の陰に隠れている。


「牧村さん、両方に攻撃できたことは良いです。でも、息の根を止めなければ結局2体から攻撃されるリスクは残っています。定石通り確実に1体ずつ減らしましょう」


「ああ、なるほど。すみません」


「謝らなくて良いですから!次に備えて!」


へいへい。


と言いつつ、計算通りに行けばおそらくどちらもあと2発で葬れるはずだ。一発のジャンプで仕留められる。いや、しかしここは言うことを聞いておこう。信頼関係が崩れてしまっては後々影響が出る。操縦桿を左右に開いて最大ジャンプ。今度は右の怪獣から狙った。計算通り、2発で破壊。もう一体はだいぶ近づいてきていた。


「牧村さん、一度距離をとって。岩のすぐ裏に来ています」


「了解」


レーダーマップをみると、岩を左から回りこんできているようだ。


「このままここで待ち構えて、岩かげから出てきたところを打ちます」


こちらから提案してみたが、こういうのもありなんだろうか。


「OK、それで行きましょう」


よし、良いらしい。


動きを止め、じっと待った。岩の向こうから少し顔が見えた。


まだだ。まだ。怪獣の身体が全て見えてからで良い。


さあ来い。ライフル2発を一気に打ち込んで終わりにしてやるよ。


"ガピ!ガピピピピーッ"


なんだ?


画面が突然乱れだした。


どういうことだ?


ちょっと待て、これじゃ敵が見えない。

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