第13話「予想通りの展開?」

モニターが再び荒野に戻る。


恥ずかしいかと思ったけど、やってみるとそうでもなかった。意外に良いかもしれない。システム開発の仕事ではさすがに使えないけど・・・。


画面には操作説明が次々に現れた。なるほど、チュートリアルになっているのか。まずはじめに前進。2本の操縦桿を前方に倒す。交替はその逆。両方の操縦桿を右に倒せば右へステップ。左に倒せば左へステップ。左の操縦桿を前に、右を後ろにすれば時計回りに回転、右を前、左を後ろにすれば反時計回り。なるほど。それほど難しいものじゃない。操縦桿を左右に開くとジャンプ。背中に積んでいるバックパックからロケット噴射するのか。右のフットペダルが加速、左のフットペダルがブレーキ。このへんは自動車と変わらない。攻撃は操縦桿のてっぺんにあるボタンでバルカン砲のようなものが出た。右の操縦桿のグリップ裏にあるレバーでライフルのようなものが発射される。ビームではないらしい。左のレバーで盾のようなものを前に構えた。防御か。


なんだ、これ。


まるでTVゲームじゃないか。


画面に「Enemy」という文字が出た。赤く点滅している。敵さんのお出ましか。


3Dでモデリングされた、いかにも雑魚キャラのようなモンスターが向こうからやってきた。あいつが敵ということか。正面に捉えるとロックオンカーソルが敵に当たる。照準を揃えた、ということか。右のレバーを握って引いてみる。ライフルがモンスターにヒットした。一発では死なないらしい。2~3発当ててみたら、爆発して消えた。まるでライトステーション2のゲームをやっているみたいだ。画面の解像度もちょうどそのぐらい。


その後も、左右から恐竜のようなモンスターが2匹、上空からプテラノドン?みたいな翼竜のモンスターが1匹出てきたが難なく片付けた。申し訳ないが、僕の世代の人間であればこの手のゲームはそれなりに経験がある人は多い。とくにIT業界にいるような輩は。それほど苦にしないし、この程度ならいくらでも対応できる。ただ、ゲーム的な感覚で言えば"トレーニングモード"というのはそういうものだ。油断は・・・禁物。


敵が途絶えた。これで終わりだろうか。いや、このトレーニングモードをつくった人間がゲームに精通した人間だとするなら、だいたいこのあとは・・・・。


『Enemy"Boss"』


ほらきた。雑魚を倒していくと親玉が出てくるのが相場だ。どうやらこのトレーニングモードを設計した人はよほどゲームが好きらしい。もしくは、考えるのが面倒くさくてゲームをモチーフにしたか。雑魚キャラがライフル2~3発ということは、ボスはだいたい20~30発というところだろう。それが"相場"ってもんだ。


「キュイーン!」


ん。音が違う。明らかにライフルが当たっていない。いや、あたってはいるがダメージとして蓄積されていない。これがボスの音なのだろうか。そういうゲームもある。一見効いてないように見えて、辛抱強く打ち込んでいると死ぬという。うーん、いや、きっとそうじゃないだろう。王道で行くなら、この場合は別の解決策がある。


コクピット内部を見回す。


「あった。これか」


頭上右上に『Sabre』と書かれたボタンがある。


押してみると、ライフルを構えていた右手が背中側に消えて、戻ってきた時には刀を持っていた。


「これもビーム・・・ではないのね。っていうか刀じゃんこれ。和製?どうせなら"エクスカリバー"とかそんなボタンにしてくれれば良かったのに」


ビームやライトの剣ではないとすると、エネルギーに限りがない。ゲーム的には反則に近いものがあるが、だいたいこういうものはリーチが短くて威力が大きいと決まってる。もちろん"相場"で。とすると、この二倍ぐらい大きな怪獣に近づかなければいけない。かといって近づいたままではあの鋭い爪の餌食になる。まあ、簡単だ。ペダルを使って加速と減速で撹乱して、ヒット・アンド・アウェイで戦えばいいのだろう。幸いスピードはそこまでないみたいだし。所詮トレーニングはトレーニングということか。念のためギリギリまでは盾を構えて行こう。


ボスは5回切りつけただけで倒せた。


なんてことはない。簡単なものだ。モニターに「Training Mode End」と表示されている。


「お疲れ様です」


ん?綾菱の声だ。モードを起動していても会話ができるのか。


「お上手ですね」


お茶のお点前じゃあるまいし。まあ、そう言われて悪い気はしないが。


ただ、トレーニングと言われるとどうも胸騒ぎがしてしまう。パイロットの主人公なんてのはだいたい、予期せぬトラブルで、いきなり戦うことになるもんだ。あれはきっとさっさとロボットを出して視聴率を稼ぎ、おもちゃメーカーの顔を立てるためのシナリオなんだろうと思っている。だから、そう、だいたいSF作品やロボット系アニメだとこの辺で・・・。


"ヴー!ヴー!ヴー!"


おいおいおい、ほんとかよ。


"エネミー来襲!エネミー来襲!システムマップ、ポイントE17!システムマップ、ポイントE17!"

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