第2章 9
わたしは未だに恥ずかしさを堪えられないながらも、彼の愛撫を素直に受け入れる。恥部を彼に向けながら、自分の顔が熱くなるのを感じる。ふと彼のほうを向くと、わたしのそこに顔をうずめているのが見えて、もっと恥ずかしくなる。でも、それと同時に、からだの力がふっと抜けていって、下腹部が湿っていく感覚を覚える。身も心も骨抜きにされるっていうのはこういうことなのかな、と思いながらわたしは身を彼に委ねる。
別に悪いことをしているわけではない。それは分かっている。そういうわけではないのだが、しかしそれでも、中学生であるわたしが、大学生である彼とこういう行為に及んでいるのは、どうも罪悪感とか背徳感というのがつきまとう。しかしその気持ちすら、いまのわたしにとってはSEXのスパイスでしかないのかもしれない。ほかの同級生がしていないこと、ほかの同級生のカップルよりも進んでいることを自分がしているんだと思うと、その背徳感はわたしを酔わせる。そうしてその気持ちは、ほかの同級生に対しての優越感として、わたしに再びの陶酔を与える。
わたしたちはプラネタリウムを見終えてから、ソラマチとはおさらばをして彼の家に行った。わたしの初めてを彼にあげてからは、デートの締めくくりは彼の家に行くのがわたしたちのデフォルト。もちろん、彼も誘ってくるのだが、わたしも喜んでそれに従う。
普通の恋愛なんてものはわからないし、そもそも普通の恋愛なんてものがこの世にあるかどうかは分からないけれど、わたしたち二人にとっては、これが普通だった。普通になってしまった。
彼が顔を上げたので、わたしも起き上がる。そうしてわたしはうつ伏せになり、今度は仕返しとばかりに彼のペニスを咥える。あるいは恥ずかしさをどこかへ追いやるように。
あっ、と彼が一瞬だけビックリした声を上げる。でも、わたしはそれに構わず舌で愛撫を続ける。彼はしばらくすると、そのままゴロンと体を横にした。わたしは、そろそろ顎が疲れてきたなと思いつつ、それでも彼のものを咥えたまま頭を上下に動かす。ゆっくりと、湿っぽく、休むことなく。
わたしは、いわゆるフェラとかいう行為をしているつもりは全くなくて、ただ彼に喜んで欲しいとか、ただ彼を気持ちよくさせたいとか、そういう気持ちでしている。アダルトビデオなんかでやっているような、ああいういやらしく、いやしくむさぼり合っているわけではない。こんなふうに思っているのは、わたしが当事者だからっていうだけかもしれないけれど、あくまで綺麗な気持ちで、純粋な気持ちで、彼とSEXしている。
わたしは、彼のペニスを舌で弄びながら、なんとなく、ぐうっと奥の喉もと近くまで咥えこむ。彼が声を上げつつ吐息を漏らしたので、わたしは面白くなったけれど、そのすぐあとに、口の中で震えるような感覚があって、温かいものが出てきた。咄嗟のことだったので、驚いて飲み込んでしまったけれど、その瞬間は喉にひっかかるようなそんな感覚だった。
全部飲み干してから、彼がわたしの口の中で果てたのだということがわかった。彼は吐く息も荒くボーっとしていたけれど、ハッとしたようにわたしを見据えて、
「え、ごめん、もしかして全部飲んじゃったの?」
と言った。
「うん。飲んじゃった」
「いや飲んじゃったって、そんなあっけらかんと言われても……。えと、大丈夫? なんか、気分とか悪くない?」
「ううん、大丈夫だよ。咄嗟のことで飲み込んじゃったから、わたしもよくわからないままだったの。でも、いまはちょっと嬉しいかも。なんか、自分の中に恋人の一部がある感覚、みたいな感じ。逆に、飲まれるのは嫌だった?」
「ううん。そんなことないよ。飲んでもらえるのは、こんなものまで受け入れてくれるってことだから、嬉しいよ。でも、なんだか申し訳なくて……」
「まったく、わたしがいいよって言ってるんだからいいのに」
「うーん……。そっか、ありがとうね」
彼の家のシャワーを借りながら、わたしはただ立ち尽くす。いまこの感覚が、疲れなのか充実感なのかはわからないけれど、わたしはとにかくシャワーを浴びながら、それに身を任せるだけ。
あのあと、わたしと彼は少し休んでから二回戦に突入した。今回も正常位に挑戦していたが、例によって例のごとくだった。果たして、いつの日か性交を成功できる日は来るのかしらん、なんてくだらないことを考えながら、わたしの心は穏やかだった。今までと同じ、幸せなままでこれからも、ずっと彼と何不自由なく楽しく過ごせると思って、そこはかとなく心がワクワクしていた。
ふと足元を見ると二、三本ほどわたしの長い髪の毛が落ちていて、それを汚いなとか考えたわたし自身に少し驚く。自分の頭から生えているものであり、自分の頭から抜け落ちたものなのに、それが自分のものでなくなって髪の毛単体になった時には、汚いって感じる。生えているときは枝毛をいじったり手櫛で整えたり、ペタペタ触っているのに、そうでなくなった時には汚いモノ扱い。人間って薄情なのかな、なんて思ったりして、感慨深かった。
そんな小さなことでいろいろ考えることができるって平和な人生なんだなと感じて、少しだけ笑ってお風呂場を出た。
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