第7話 おじんちゃ、教導す

「それじゃ、今から3時………2刻、だっけか。その間にどれだけ妖獣を狩れるか競争しようじゃねぇか」


 ようやく酔いが醒め、今の状況を理解した武生者達がごくりと喉を鳴らす。


「そんで、バラバラになって狩るか、それともあんた等と交代で狩るかどっちにする?俺ぁどっちでも構わねぇけどな」


 バルはバラバラにやるのも時間が掛かってしょうがないと思い直し、改めて戦う方法を提案してみる。ようはどっちでも同じかとバルは面倒だなと今さら頭をかく。

 しかし男達はバラバラに討伐を行ったとしても、バルが庫封鞄を持ってるので果たしてそれが“今”狩られた妖獣かは判別つかないと想い出し、交代でかることを選択する。


「ああ、交代で狩ることにする。お前等もいいな」

「へい」

「がってんでさ」


 のっぽとちび男が頷き返事を返す。


「おうっ!そんじゃそっちからやってくれぃ」


 バルの言葉を受けて3人が懐から何かを取り出し、手前に差し出し声を上げる。


「武具装填“猿”」

「武具装填“犬”」

「武具装填”猪”」


 3人がそれぞれ動物を象った木型を前に出し言葉を発する。

 すると、木型が光を出して3人を包み込む。そしてすぐにパパっと光が弾ける。

 そこには瞬の間に身に付けた兜、胴鎧、具足と得物を携えた3人の姿があった。


「ほう!」


 バルはその姿に思わず感心してしまう。どうやら武具に限定した収納術具のようだった。

 戦う時にすぐに身に纏える。これは武生者にうってつけの物のようだ。

 

 得物はリーダーが剣。のっぽが弓でちびが小剣を腰に佩いている。

 バルが目をひいたのは彼等が腰に佩いている剣だった。

 それ程太い造りではないが、片側に少しばかり反ったような形になっている。

 どのような造りになってるのかと、興味津々にそれ等を見つめてる。


「ウキキキ――――ッ」


 サルカが声を上げ向こうからやって来る。バルが魔物をおびき寄せるように頼んだのだ。


「ほら、来たぞっ!!」


 バルが声を掛けると、3人は慌てて得物を構えて対峙する。

 バルの視線の先には妖獣が3体列を成してやってきていた。


「いくぞ!」

「へいっ!」

「がってん」


 リーダーとちび男が左右に散開し、のっぽが正面の妖獣へ向けて弓を番え放つ。番え放つ。番え放つ。

 その素早い3連射にほぅと感嘆の声をバルが漏らす。


 その妖獣―――茶発条乱兎の身体に矢がそれぞれ命中するが、そこは相手も妖と名乗る獣故か致命傷には至らず、なおもこちらに向かって突き進んでくる。

 

 リーダーが左から1番後ろの妖獣に向かって剣を振り下ろす。


「ギャパッ!」

「だりゃあっっ」

 

 ちび男の突きが2番目の妖獣の腹を突く。

 のっぽが先頭へさらに矢の3連射を見舞う。

 その後2撃程を、それぞれが加え妖獣を討ち果たす。


 バルは感心しつつも首を傾げる。

 はて?なんでこいつ等は精霊の力を纏わぬのかと。

 3人はやり切った顔でバルに目を向けると余裕混じりに言い放つ。


「次はじじぃの番だ!」

「おうさ!」


 サルカが引き連れてきた黄跳牙狐3体がバルへと襲い掛かる。

 バルは剣をを一閃して黄跳牙狐を無力化する。


「なっ!」「はぁあ?」「っ!!」


 その一瞬の早業に目を剝く3人。その時になって己の見識、いや人を見る目の無さに気付かされたのだったが、時すでに遅く今は目の前の勝負に専念する外無かった。

 

 幾度かの戦闘の後、勝敗が決していることを3人は実感―――いや理解して、せざるを得なかった。

 己達の己自身の、人のいや、全ての事象を見る術の何と拙かった事か。

 力を失い酒に溺れる事しか無かった己の何と矮小なことか。

 力不足と恐怖と畏怖で己の限界を悟り、酒と賭け事に3人で逃げた結果が寄合所であぶれくだを巻くの体たらくなのであった。

 

 そのくだを巻いた相手がこんな爺さんだとは思っても見なかったのだ。

 己の浅はかさに悔やむにも今さらなのである。

 そう、全部が全部己に因ってもたらされたモノだ。


 力不足、胆力不足、鍛錬不足。それらを棚に上げ、自らの高見へ至ろうとしなかったツケが今回って来たのだと思い知らされている。

 ただ己等は只人であるのだからと、高見そこまで行く事も無いのだから等という言い訳めいた考えは、この老人を目の前にしてしまうと何とも恥ずかしい考えだと頭を過ぎり離れなくなってしまう。

 

「はぁっ、はぁ、はっは。お、俺達の負けだっ!」

 

 十数度の戦いを終えた後、3人は四つん這いになりながらそうバルへと告げる。

 もう無理だ、力が出ない。膝と腕をガクガク震わせながら、そう言葉を漏らす。 

 

 一方3人が疲労困憊で項垂れてるのに対し、バルは疲れた様子もなく軽く周囲を警戒しながら3人を眺めていた。

 そして気になった事を3人に聞いてみる。


「ちょい聞きてぇんだが、何でおめぇ等は精霊の力を使わねぇんだ?」

「……はぁ?なんだそりゃ」


 力尽きたように寝転がっていたちび男が首を傾げて?といった風な顔で聞き返してくる。

 どうやら精霊の存在を知らない様だと悟ったバルは、適当な言葉を思い浮かべながら説明する。


「そうだなぁ……。大地の力を、いや自然の力を借り受けて力を成すもんなんだが………」

「そいつは神木霊かみこだまじゃねぇすかね……」


 リーダーの男がバルの言葉に思い出してそれを口にする。


「神木霊?」

「ああ、樹々や大地、水なんかに神が宿るってのがあるんだが、それ等を見る事が出来る武生者や巫女、神官なんかが神木霊さまといって敬ってるって聞いたことがある」

「まぁ我等には見る事も聞くことも適わねぇしろもんじゃからな………」

 

 リーダーとのっぽが項垂れながらそう答えるのを見て、バルは顎を擦りながら首を傾げる。

 いや、お前等3人精霊にかまわれてんぞと。バルは3人の周りできゃわきゃわ騒いでる精霊やつらを見て思う。


 リーダーには火、のっぽには風、ちび男には土の精霊が集ってうろちょろしてるのが見えるのだ。

 何でこいつ等気が付かねぇんだと疑問に思う、が少しばかり教えてやりゃ分かりもするかと考えを改め3人の前に立ち声を掛ける。

 

「なら勝負は俺ぁの勝ちってことで、ちょいと勝者の権利ってのを使わして貰おうか」

 

 バルのその言葉に3人がギョっと目を剥く。

 

「な、何をさせようってんだ?あんた」

 

 及び腰になりつつリーダーがそうバルへ問い掛ける。

 バルはそれには答えずに3人座るように指示する。

 そしてイヌカ、サルカ、ファルカに妖獣がしばらく来れないように頼む。

 

「ワフッ」「ケルッ」「キッキキ」


 バルの頼みに鳴いて応え、それぞれ別の方向へと散っていく。

 

「俺達を一体どうするっていうんで?」

 

 少しだけ震えながらそう問う3人をバルはニヤリと口角を上げて説明を始める。

 

「な〜に、俺ぁがお前ぇ等にちょい足りねぇもんをやろうってだけだよ。ちょい待ってな」

 

 と言いつつバルが地面に何やら文字を書いて―――描いていく。

 蒼い光臨を纏った文字列が地面に染み渡り消えていく。

 

「ほれ、ここに胡座をかいて座りな」

「わ、わかった」

 

 3人が恐る恐るバルが言葉に従い1列になって胡座をかいて座る。

 すると地面が淡く光り3人がその光に包まれる。

 

「っ!」

「わっ!」

「なんぢゃ!?」

 

 リーダーには赤、のっぽには緑、ちびには黄色の小さな光が彼等の身体に纏わり付き回り出す。その動きは勝手気ままでバラバラだ。

 

「こ、これは神木霊っ!?」

 

 リーダーの呟きを無視してバルは彼等の正面に立ち両手を翳して精霊句を朗々と紡ぎ述べる。

 

「ウィーカース、ウィーカース、セレヴトル、アルベトル、エレメイタル、ウォルマーセント、フィカシメルト。汝との契約望むのも有り成るか如何や」

 

 バルの紡ぎが終わると、パァアンと白の光が弾け3人が光に包まれる。

 

「うわっ!」「まぶっ!」「げはっ、目がっ!」

 

 光が収まるとそこには1列に綺麗に並び輪を描いた光の玉達がゆっくりと動いていた。

 

「おう!みんなありがとなっ」

 

 バルが礼の言葉を掛けると光の玉達は弾け散り消えていった。

 いや、ひとつ2つが3人の周りを思い思いの動きをしながら漂っている。

 

「こ、これは………」

「いったい………」

「何なんですかい?………」

 

 ちび、のっぽ、リーダーが光の玉を見ながらそんな言葉を口々に漏らす。妙に息が合ったことだ。


「お前ぇらに力を貸してくれる精………神木霊?ってヤツだ」

 

 その言葉を聞いて3人は訝しげに眉を顰める。

 

「はぁ?」「いやぁ……?」「ま、まさか……」

「まぁ、試しに戦ってみりゃ、分かるさぁ、ほれ」

 

 立ち上がった3人にバルは右手を伸ばし右側を指し示す。

 

「ケルルゥッ!」

 

 ファルカが戻って来てモンスターの襲来を知らてくる。

 そしてはるか後方には、片目をギラギラ紅く光らせた灰かぶりの巨熊が物凄い勢いでこちらに向かって来るのが見えた。

 

「ひへあっ!?」

「あ、……あいつはっっ!!」

「片目の蛇突鬼ジャック!!ひぃぃいいっ!!」

 

 3人がその姿を見てあからさまに狼狽える。さっきまでの態度が嘘のようだ。


『グガァララァァアアア――――――ッッ!!!』


 新たな獲物を見つけた妖獣が、手前で止まりガバリと立ち上がり咆哮をあげる。

 

「ひぃああっ!!」「うひらっ!」「ひぃへへぇぇっ!」

 

 3人が怯え慌てふためき尻もちをつき後退る。

 その慌てふためき様に不思議に思い、バルは3人に問い掛ける。

 

「どうしたい?そんなに驚き怖じけて」

「爺さんっ!ありゃダメあっっ!あいつだけにはっ俺達には倒せねぇっ!!」

 

 リーダーが目尻に涙を浮かべながらそう叫ぶ。

 

 

 そう3人がこの様な体たらくで自堕落な生活を送るようになったその元凶が、目の前に現れたのだ。

 元々彼等は5人で武生者として活動しており、数多の妖獣を狩りこの辺りの民人にも名が知れ格も上がり、次の生業を終えた後は中央へ向かう算段となっていた。

 

 この地最後の仕事ということで引き受けた討伐依頼で予想外の妖獣と出会でくわしてしまった。

 その灰牙爪熊は潰された右目を誇示しつつ、左目はギララと彼等5人をその視線で恐怖に陥れていた。

 

“片目の蛇突鬼ジャック


 数多の討伐からの危難を排し、生きながらえる強者もしくは狂者。

 その強力つよさは黄金級の武生者数人に及ぶとも言われていた。当時でさえ。

 鋭く切り裂くかの如くの咆哮に斥候担当のゼイが動きを止めさせられ、次の瞬間に鋼の爪がゼイを一掃に伏す。

 

「ぎゃああぁぁぁっっ!!」

 

 その断末魔に我へとかえった4人ははからずも同じ行動を取る。

 即ち逃げ出したのだ。

 恥も外聞も己の挟持もなく戦うことも挑むことも無く、その恐怖からただただ逃れようと走りだす。

 そして次に盾役を担う伊久イグが叫び声を上げ姿が見えなくなる。

 装備の重い彼は他の3人に遅れて後方を逃げていた為だ。

 

 山の中を背後の恐怖に慄きながら走り走り走り続けようやく里道へと出ることが出来た。

 それでも立ち止まることをせず後ろを振り向くと、そこに何の気配も姿も無くなったのを見て、力尽き倒れてしまう。

 その後近くの民人に助けられ、ほうほうの態で寄合所で事の顛末を話し山狩りを行うも、2人の身体の一部たべのこしの他には片目の蛇突鬼の痕跡を見つけることは無かった。

 

 彼等3人はこの事で魔獣そのものに恐怖を抱くようになり、しばらくは何も手につかず酒に溺れる日々が続いた。

 蓄えが尽きそうになると近場の小魔獣を狩り小銭を手に入れ、あるいは新参者に集って日々を過ごしていた。


 たまたま現れた新参者に集り勝負に応じた末に、こんな運命がよもや待ち受けていようとは神ならぬ3人には思ってもみなかった。

 恐怖の為、身体が動くことを拒絶した様に動かず、3人は己の生を諦めようと力を抜こうとした時、腹の底までビリリと響く声が轟く。

 

「シャンとしやがれっっ!それでも武を生業にする者かっっ!!」

 

 臓腑に響き聞こえるその声に、声の主へと視線を移すと、片目の蛇突鬼の猛爪を剣で無造作に跳ね返すバルの姿があった。

 

「お前ぇ等は何者だ?武に生きるもんだろうがっっ!過去の恐怖に心を囚われてんじゃねぇっっ!!その武を感じろっ!そしてこいねがえっっ!!」

 

 鋭利な爪をぶおんと振るいバルに襲い掛かるも、バルは剣をなぎ払いつつその場を動くことなく爪を弾き逸らす。

 

 希う?何に⁉どうやってっ!!武?………そうだ。俺達は武を以って災いを為すものを屠る存在。だった。

 恐怖にに侵され畏怖を纏わされ、堕落してしまった己等にかつてあったもの。

 バルの声は失い消えてしまったはずの彼等の矜持を呼び起こした。

 

「「「お、俺等は………武生者っ!」」」

 

 3人は同じ言葉を辛そうに同時に放つ。目に涙を溜めながら、それでも言い放つ。

 すると周囲に漂っていた光の玉がすいと、3人の身体へ入り込むとした腹に思いかけない程の熱さを感じ始める。

 そして頭に浮かぶその言葉を朗々と3人は唱え始めた。


「「「我、其に希う。其の力、其の意、其の志。我に授け希う」」」

 

 静かに途切れること無く、しかしはっきり一言一句を歌うように唱えると、すぐに変化が訪れる。

 

 精霊句の精霊言。


 バルが勇者だった頃には大陸でよく使っていたものだった。

 ただし精霊という存在ものは気まぐれなもので必ずしも誓約に応じることはなかったのだが、3人に集る精霊やつらを見ていたので、上手く行くとは分かっていたがこれは想像以上であった。

 

 精霊箔と呼ばれる薄い膜のようなものが3人の身体を覆い、時折炎の方に吹き上がる。

 

「おおおっ!?こ、これはっ!」

「力が………力がみなぎってっ……」

「うおおおっっ」


 リーダーが赤。すなわち火。

 のっぽが緑。すなわち風。

 ちび男が黄。すなわち土。

 

 バルは固めの蛇突鬼ジャックを軽く往なしながら、横目で3人を見てニヤリと笑う。


「上出来じゃねぇか」


 小さな人如きに後れをとっていた片目の蛇突鬼が苛立ちを隠すこと無くバルへ飛び上がり襲い掛かってくる。

 片目の蛇突鬼の使う大技のひとつが飛び上がり双腕を振り下ろして相手てきを裂き潰す。それがバル目掛けて繰り出された。

 しかしバルはこれをひょいとしゃがみ歩き避け躱し、振り降りてくるその腹部へ蹴りをどがんと喰らわせる。

 

『グゲェギャァアアァァッッ!!』


 その衝撃と痛みにくの字に身体を折り曲げて、片目の蛇突鬼が叫びドズズンと後ろへ倒れ込む。


 そのバルの膂力と胆力に呆然としていた3人へ、バルが檄を飛ばす。

 

「古傷を後生大事にしとくものお終ぇにしねぇか?ちょうど目の前に格好の獲物がいるんだ。いっちょう漢を見せてみやがれぇっ!!」

 

 バルのその声に呆けていた3人は我を取り戻し獲物を構え片目の蛇突鬼ジャックと対峙する。

 何故か先ほど迄の怖れや畏れは消え去り、戦うことへの気力がただただ漲っていた。

 よろよろと立ち上がった片目の蛇突鬼ジャックへ3人が攻撃を仕掛ける。


 そして勝負は一瞬で決着がついてしまった。

 

 のっぽが放った矢が連続して頭部を穿ち、だらりと垂れ下がった腕をちび男が小剣で一刀のもと断ち斬り、最後にリーダーが胴体を横薙ぎすると上下に両断され声を上げる間もなく片目の蛇突鬼ジャックは絶命した。

 

「「「へっ?」」」

「「「へええぇぇっっ!?」」」

 

 自身らがやったことに驚き、その驚きにさらに驚く3人は力が抜けた様に膝をつく。

 

「あ、あれ?」

「ち、力が………」

「こりゃ……?」

 

 3人の前には、ばっはは〜いと手を振りながら消えていく精霊達の姿が目に映っていた。

 その後片目の蛇突鬼を解体した後、3人はバルの前で土下座して謝っていた。

 

「申し訳ありませんでしたっ!酔っていたとは言え、見ず知らずの人に集りせがむ真似なんぞをして………どうか償いをさせて下だせぇっっ!!」

 

 土下座しながらまっすぐ見上げるその瞳には、嘘偽りのない眼差しをバルへと向けている。

 バルはハテと少しばかり考えてから、言葉を口にした。

 

「俺ぁには今謝って貰ったからそれでいい。ただ、俺ぁの前に迷惑を掛けた人達にも謝罪と詫びをしてくれ。そうさなぁ、あとは新参者ってぇのが来たら優しくしてやってくれればいい。お前ぇ等だって始めはそうだったろ?」

 

 バルは諭すかの如く3人ヘそう告げる。

 結局この行為こともバルの気まぐれでやったことなのだ。

 逆に考えれば、少しだけ彼等とバルに“えにし”が繋がっただけということなのだ。

 

 そして精霊達の姿が3人の周りに見えた事は―――きっと3人はそう悪い人間ではなかったという事なのだろう。

 バルは口元を軽く笑うように動かし、話を締めくくる。

 

「それじゃ、戻ろうか。面白かったぜぇ」 

 

 バルはニカッと彼等に笑いかけそう告げる。

 3人はバルのその言葉を受けて、気持ちを切り替え立ち上がり答える。

 

「「「分かりやしたっ!先生っ!!」」」


 何故か変な呼び方になってるが、まぁと苦笑しながら森を抜け一路寄合所へと向かうことにする。

 その後寄合所で片目の蛇突鬼を倒した事でひと騒動があるのだが、バルには関係のないことで3人は名を馳せることになるのだが、その心のうちはただただ恐縮するばかりだった。

  それなりに名前が売れ有名になっても、彼等3人は驕ることも増長することもなく、武生者としての力を振るって行った。

 

 

 

 

 

 そしてしばらく経ったある日のこと。

 辺境の寄合所でも、それなりの討伐依頼や様々な仕事がある。

 そんな依頼書が貼られている掲示板を伺い見ながら3人の成り立て武生者達が話をしていた。

 

「これなら倒せんでねぇが?」

「んだども、おっがなぐねぇが?やっぱ」

「ほんでもやっぱいっぺんは戦わねぇど分がんねべ?」

 

 そんな様子の3人は入口からやって来た武生者が声を掛けてきた。

 

「お前さん方見ない顔だが、なんか依頼事かい?」


 優しげな眼差しを3人に向け話しかける。

 

「おら達は依頼者ぢゃね。武生者だで」


 かなりの訛りに少しだけ目を丸くした後、その武生者はニカリと笑う。

 

「そうか。そりゃ悪かったな。それじゃ詫びにお前さん方がやれそうなやつを見繕ってやろうと思うが、どうだい?」

 

 武生者の問い掛けに3人が話をして首肯する。その素直さは辺境であるここをしても、あまり見ない田舎者であると見て取れた。

 

 しかし、【彼女】達は運が良かった。

 性質たちの悪い武生者に出くわす前に彼等にまみえたのだから。

 その武生者と仲間である2人の男達が、彼女達に懇切丁寧に武生者としての仕事や心構えなどを指導していった。

 

 その甲斐も有りしばらくすると、3人はとりあえず被っていた殻をとる程度には武生者として勤められることとなった。

 彼女達はその時になるまで彼等3人の名前を聞いていなかった。

 

 おずおずと彼女達が彼等の名前を尋ねると、思い出したようにニカリと笑い答える。

 

「俺は嘉門」

「おいは伐治ばっち

「俺は更衣だ」

 

 そんな感じで若き武生者を教え導いているうちに、3人は武雄者ぶゆうものと渾名されることになる。その後も才のある者には神木霊との付き合い方を教え、ないものへも分け隔てなく教え導いたと言う。

 

 そんな中、時たまやって来る老人に彼等は敬うかのように頭を垂れ挨拶をする。

 それを指導を受けていた武生者が問うと、彼らはその眼差しに尊敬と友愛を込め「俺等の恩人さ」と口々に語ったと言う。

 

 

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