第4話 おじんちゃ家を建てる


 鷹の精霊獣ファルカが戻ってきたので少しの休憩の後、勇者は身支度を整えて島を出ることにする。

 今いる場所は、魔の島の中心部の辺り、勇者たちの周辺を除けば、見渡す限り砂原となっている。

 島の海岸付近は木々で覆われていたが5日もするとこのような有り様だ。

 しかし瘴気が消え去った今、じわじわとこの場所を中心に草が生い繁始めている。やがてこの島も緑に包まれ変わっていくのだろう。

 魔導鞄に身に着けていた鎧や剣をしまい、ファルカに大きくなるように頼むとファルカは嬉しそうに「ケルル」と鳴いて5ルメル程の大きさに変化する。

 勇者の身長の3人分ほどの高さだ。ファルカが屈んで勇者が乗り易くするのに対し、勇者はぴょんと跳び上がりファルカの首元に跨る。イヌマルとサルカもそれに続く。

 そしてファルカが翼をバサリと広げると、フワリと浮かび上がり上へ上へと上がっていく。


「ファルカ、南へ向かってくれ」

『ケェ―――ルゥ――ゥ』


 勇者の言葉に翼を翻し、南へ進路を取る。


 勇者たちが生きている円環大陸は◎の形になっており、北にイダカクアン帝国、西にエットラヌ王国、東にサーダナルマン法院国があり、その間にいくつかの小国が点在している。

 そして大陸の中心部に勇者が今までいた魔の島がある訳だ。

 さらに南へと進むと、そこには弓状列島の島国がある。

 円環大陸との交流が殆ど無いため、独自の文化、政治形体を築いていた。

 それがヒノヤグラ国である。その大きさは魔の島の5倍ほど、位置的に見るとこんな感じであろうか。


【円環大陸】→  ◎  ↑

           北

【ヒノヤグラ国】→ )


 船でなら数ヶ月から1年位掛かる程の距離を、わずか数時間で到着してしまう。

 島の上空を眺め見下ろしながら、人里を離れた場所を探し北端より少し南へ行った山の麓を目指してファルカに指示する。


『ケルーッ』


 バサバサっと翼を羽ばたかせて森の中へと着地する。勇者が地面に降り立つとファルかはすぐに小さくなり勇者の肩へと止まる。


「ありがとな、ファルカ」

『ケルルゥ!』


 ファルカの首の下辺りを撫でながら礼を言うと、ファルカも嬉しそうに喉を鳴らす。

 勇者は木々に覆われた深い森の中を見回して気合いを入れると、まずは木を倒して土を均して拠点作りを始めることにする。

 そうと決まればまずは木を伐ることから始める。魔導鞄から剣を取り出して手近にある木を伐ろうとすると、精霊獣達が泣いてそれを引き止める。


『ガウッ』『ウキュ』『ケルルッ』

「ん?オメェ達がやってくれるってか?」

『ガウン』『ウキッキ』『ケルゥ』


 行き当りばったりで決めたことなので、ろくな道具も何もない。

 しかも今の勇者は以前の力を失い、国の騎士に毛が少し生えた程度の力しか持っていない。拠点作りとは言え、これだけの木々を前にして土を均すのもひと苦労に違いない。

 やってくれるというのなら頼むのも吝かではない。ありがたいことだ。

 勇者は申し訳ないなと思いながら精霊獣へと指示を出していく。


「それじゃあ、ファルかはこの辺の木を根元から切り倒してくれ。サルカは切った木を1ヶ所にまとめてくれ、イヌマルは……切り株の周りを掘って抜きやすくしてくれるか?」

『ガウ!』『ウキキっ!』『ケルゥッ!』


 勇者の言葉に応じるようにひと鳴きして、各々が行動を開始する。


『ケッルルルルゥ――――ッ!!』


 ファルカが翼をバサバサっと羽ばたかせる度に風の精霊術で近くにある木々をスパスパと伐っていく。

 斜めに傾き倒れる前に大きくなったサルカがヒョイヒョウイと担ぎ上げ開いた所へ次々に横にして下ろしていく。

 勇者はその木々の枝を剣でササッと払い落とて行き1本の丸太へと仕上げていく。


 スパスパ!

 ヒョイヒョウイ!

 サササッ!


 木を伐り木を担ぎ下ろし枝を切り落とす。


 スパスパ!

 ヒョイヒョウイ!


 サササッ!


 そして丸太の山が5つ程と払い落とされた枝の山と切り株の広場が出来上がる。


『ガウッ!』


 イヌマルが自分の出番というように前足を切り株にかけるとクリッと足を捻る。するとズゴッと根ごと切り株えぐりを引き抜いていく。


 クイッ、ズゴッ!クイッ、ズゴッ!クイッ、ズゴッッ!


 こうして家を建てるにはあまりにも充分すぎる広さの土地を確保した。だがえぐり掘り返された地面はボコボコでこのままでは如何ともし難い。


『キッキィ――――――ッ!!』


 大きなったままのサルカがドドンと胸を叩いた後、地面を踏み固めるかのように叩き始める。


 ドンドンドンドンドドドド!


『キ―――――――ッウキィ――――――ッ!!』


 ドンドンドンドンドドドドドド!!


『キィ――――――ッキキッキ!』


 軽やかに拍子を取って合いの手を入れリズミカルに舞うように地面を叩き響かせる。

 すると波打つように地面がサルカを中心庭を描くように隆起と沈降を繰り返し、土の中から土の精霊達がわーせわーせの掛け声が聞こえてくる。

 ドンドンドンドドドド!

 わーせ!わーせ!わーせ!わーせ!

 ドンドンドンドンドドドドドド!

 わーせ!わーせ!わーせ!わーせ!わーせ!わーせ!


『ウッキッキィ――――――ッ!』


 ドドンッ!!

 わっせっせっせっせっ!!


 最後のひと声とばかりにサルカが声を上げると、精霊達もタイミングを合わせて声を上げ掛け声を止めた。

 すると空気がピシリとなると地面もピタリと鳴り響き、デコボコだった地面が整地され平らに堅く広がっていた。

 どう見ても家1軒分にしては広すぎると思うが、まぁいいかと勇者は次の作業へと移る。

 山と積まれた丸太を前に剣を持って切り出しを行う。


「生木だけど仕方ないよな」


 と勇者が呟くと、イヌマルがやって来たひとつ吠え、丸太の前に行き前足でてんてんと叩くと丸太の中からわきゃわきゃという声がして水の精霊達が出て来てすぐ消えて行った。


『ガウッ』


 丸太をよく見てみると瑞々しかった年輪部分が乾いて締まっていた。きっちり乾燥されている。


「………ありがとな2人とも助かるよ」


 イヌマルとサルカの2人をぎゅっとしてやると、2人はドヤ顔で勇者へと顔を見せる。

 さてとと勇者が再度剣を握って切り出しを行おうとすると、今度はファルカが鳴いて自分がやると主張してくる。

 どうやら2人が褒められたので自分もぎゅっとして貰おうと思っているらしい。

 いや、木を伐ってくれただけで充分なのだが、やってくれるのなら頼むことにするかと勇者はファルカの首を指で掻き撫でながら頼むことにする。


「俺ぁ、柱と梁を切りだすから、ファルカはこっちの大きい丸太をこのくらいの厚さで板を切り出して貰えるか?」


 親指の幅ほどの厚さを示してファルカへと頼む。ファルカは嬉しそうにそれを聞いて作業を始める。イヌマルとサルカも何か手伝いたくて後ろで待ち構えている。


「イヌマルとサルカは切り出したヤツを同じもの同士分けて運んで貰えるか?」

『ウキッ!』『ガウッ!』


 勇者が四角柱を剣で切り出し柱と梁を数本作り上げ、ファルカが大木の丸太を勇者の注文通りの厚さで板にしていき、イヌマルとサルカがそれを分けて運んでいく。

 そして材料が揃うと勇者は中央より少し北側に立って虚空を見つめて何かを始める。


「ちぃっとばかり力が足りねぇな」


 そう呟き眉間にシワを寄せる。行使力イグニットが使えないとなると自力で組み上げをしなければならなくなる。

 勇者は溜め息を吐きねぇもんはしょうがねぇと諦めかけた時、それを察した3人が、ファルカが頭に、サルカが左腕に絡まり、イヌマルが右脚に寄り添う。

 彼等の思いを慮り、申し訳無さそうに勇者が眉尻を下げる。


「悪ぃな、みんな。もちっと力を貸してくれ」

『ガウ!』『キキッ!』『ケルゥ!!』


 3体から力を譲り受けて、勇者は行使力イグニットを発動させる。


「「其の精霊―素の精霊―我の力を糧に其の素の術力を行使せん」」


 勇者と3体の身体が青白く光り輝き切り出された板や柱へ注がれると、それぞれがひとりでに宙に浮いて動き出す。

 柱や梁が己の場所を理解するかの様にそれぞれの位置に移動して組み上がり、板や柱同士が力の行使で繋ががっていく。

 柱が10本2ドルメ×2ドルメの幅で平行に5本づつが立ち並び、その上に梁が5本載りさらにその上に梁が10本測ったように載って行く。

 次に板が次々と浮かび上がり屋根や壁へと組み上がっていく。

 1ヶ所を除き全ての側面に板が貼られてとりあえず外側の完成とする。

 どう見ても窓のないただの倉庫にしか見えないけど。窓は後で適当なところをくり抜けばいいだろう。

 次に勇者は内装に取り掛かることにする。土足ではなく板張りにしてくつろげるようにする為だ。

 勇者を拾い育ててくれた老夫婦は、村の他の家々が土足で過ごしていたのに彼等の家は板張りの家だったのだ。

 勇者もその家で楽しく過ごしていた事を思い出し、自分もそんな家にしようと決めたのである。

 と言っても角材に板を貼り付けるだけなので、勇者と3人がかりであっという間に出来てしまう。

 もちろん全部に敷き詰めるのではなく、玄関とかまどを設置する所はむき出しの地面のままにしておく。

 こうして1日掛けて拠点となる家を造り上げたのだった。

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