第2話 勇者のカコバナもしくはプロローグ 2
ではこれからどうすべきか、具体案を考えてみよう。
死んだことにして行方をくらましても、あいつらは捜索するかも知れない。この姿のままではいずれ顔バレしてしまい元の木阿弥になってしまう。
ならば姿を変えて、別の人物に変われば見つけることも難しくなるだろう。何になるかだけど、同世代の人間ではどこから気付かれるかも知れないし、田舎に引きこもる理由も考えるのも面倒だ。
んー。そうだ!年を経た人間にしよう。そうすれば周りの人間にも怪しまれることもなく暮らしていくことが出来るのではないだろうか。
勇者は小さい頃に拾われた老人を思い浮かべる。
幼心にも物心ついた頃からおじんちゃもおばんちゃも凄い人だと心の奥底で認識していた。しなやかで強く何事にも挫けず折れず、勇者を包み込み守ってくれていた。勇者にとっては理想とすべき人間だった。
ならば俺もそんな人間になってみよう。
と思い魔法を使おうと思ったのだが、反転魔法により勇者の力は失われいまは搾り粕が残るのみであった。
ダメじゃん。
ガクリと手を付き項垂れる勇者に地面から浮かび上がってきた白く輝く魔法陣に取り込まれ光に覆い隠される。
「しまっ………!」
まさかまだ勇者を襲う何かがあったとは思わず油断したことに焦りを覚える。
しかしその光と魔法陣は邪悪なものではなく超越神の魂の残滓が勇者の想いへと反応しそれを為す。
幼い頃の記憶が呼び起こされる。勇者が子供の時に拾われ育ててくれた老夫婦。強くて、逞しく、そして優しい。そんなかっこ良かったおじんちゃ。あこがれと羨望を胸に思い描いた自分の理想の姿。こんな風に人生を過ごしてみたいと思っていたかっこいいその背中。でも、勇者を庇って殺されてしまった………。もっともっと一緒に泣いて喚いて笑っていたかった。今は1人になってしまったけど、これからそんな自分が思い描く人生を生きていくのも悪くないじゃないか。そう自分にいい聞かせて言い効かせる。
『勇なる者に祝福を――――』
光が収まるとそこには勇者ではなく、年を経た老人の姿があった。
『ッ!』『ッ!』『ッ!』
3体の精霊獣がその姿に目を見張り驚き声を上げずに老人を見ていた。
「?なに?おおおっ!!なんじゃこりゃああああ――――――っ!!!』
己の手を見て勇者もびっくり。手は日に焼けて節くれだち年を経た老人の手に。剣に映る姿を見て2度びっくり。黒髪がくすんだ金髪へと変化し年輪を刻んだかのようなシワが顔を覆う。それは今勇者が思っていたおじんちゃの姿そのものだった。
しばらく驚き動揺した後、超越神の置土産と理解しへたり込む。正直驚かさないで欲しいと勇者は思った。
精霊獣も驚くもその雰囲気と魂を見て勇者と認識し安堵する。
ようやく落ち着いた勇者。だが、姿が変わったことを好都合と思い直し、心の中でありがとうと告げ今自分がこれからやるべきことを順序立てて整理してみる。
・魔王の討伐連合国に魔王と勇者が共倒れになったことを伝える。
・都合の良い場所を探して、そこに居を構える。
・………そのうち考える。
と、こんなとこか。他に必要な事があればおいおい決めていけばいいだろう。頭の中を整理した後、3体の精霊獣に聞いて見る事にする。
「なぁ、みんな俺ぁこれから自分が死んだことにして、この姿でどこか静かな所で暮らしたいと思っている。みんなはそれでも俺ぁに着いて来てくれるのか?」
そう、勇者でなくなった俺に無理に付き従うこともないのだ。勇者につき従うのが使命であった彼等であればそうで無くなった人間などは、もはや必要ないものであるはずなのだ。
『ウワンッ』『キーッ』『ケルル』
間髪を入れずすぐさま返事を返す精霊獣たち。それは何当たり前のこと言ってんの?当たり前じゃんとその表情が物語っていた。
「ふっ。もの好きなことだな」
ため息混じりの呆れた声を上げて3体を見る。ならばやるべき事をやるだけだ。
「おし!まずは伝言鳥を作るか」
勇者は目を凝らして
数羽の白い鳥の様なものを勇者の前に整列させると、その伝言鳥に行使力を込めて伝えるべき言葉を告げる。
『“魔王は消え去った。勇者もその力を果たし消え去った”』
何故ここで悪逆神を魔王と呼ぶのかは、そもそもが勇者を送り出した理由が魔王を討伐せよとの命であったからだ。よもやそれが人の負の意識を吸い込んだ神の仕業だとは国々の誰もが知らないことだったのだ。
よもや己等の所業がこのような事態を招いたなどと思うべくもない。
結局勇者にとってはどうでもいい話なのだが、話をややこしくするよりはまだましと言うそんな程度のものだった。(面倒臭くなったとも言う)
そして勇者はその伝言と共に世界に住む人々は祝福と平穏の祈りを込め、伝言鳥にそれぞれの場所へ向かうことを命令する。
「行け!」
数多の伝言鳥が目的地を目指し、バサバサっと翼を広げて飛び立つ。
そのあと勇者は鷹の精霊獣に向かい腰の剣を手渡し伝言を頼む。
「ファルカ。オーフェング国王に同じ事を伝えてくれるか?会議中にこいつを持って」
勇者の頼みを断る事のない精霊獣は嬉しそうに鳴きながら剣を脚で掴み本来の姿に戻り飛び立っていった。
「さて、腹が減ったから飯でも食おうか」
頼まれなかった2体が少しだけ膨れっ面をしていたが勇者のひと言に機嫌を直す。
どこまでもマイペースな勇者であった。
これが勇者の終わり――――――そして新たな始まりだった。
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