その勇者はおじんちゃになって田舎暮らしを始めました
パッペッポ13世(ぷっぷくぷー5064)
第1話 勇者のカコバナもしくはプロローグ 1
世界と空間とを閉ざされた異空間の大地で悪虐神と呼ばれるその存在と勇者は対峙していた。
悪虐神のその10数メータルを超えるその姿は闇く瘴気を撒き散らし、次々と眷属を産み出し大地を侵食していく。その表情は憤怒と加虐と蔑みが混じり、瞳は爛々と紅く朱く光瞬いていた。
何がそうさせるのか、駆り立てるのか、澱み蠢き喰い荒らす。
まるで神などではなく。人間の様に。
人間のあるべき姿はこれなのだと現すように―――――――
『グゥワヮォオオオオオオオオオオォオォォオォオ――――――――ッ!!!!!』
悪虐神は吠える。叫ぶ。激昂する。
お前など要らぬ!!邪魔だ!!退けろ!!消えろ!!失せろ!!
我が仔らよ!!全てを喰らえ!!屠れ!!蹂躙せよ!!
全てを!!総てを!!統べてを!!滅びを――――――!!!
衝撃波とともに浴びせられる怨嗟はビリビリと勇者に物理的に精神的に襲い掛かって剃り掛かる。
ガシンッッと足を踏みしめて剣を正眼に構えてただ、ただ悪虐神を睨みつけている。
勇者が勇者である前は捨てられた子であった。
とある大陸の大国の外れで老夫婦に拾われて10年。初めての力の覚醒。老夫婦のしにより目覚めた勇者の力の片鱗。老夫婦が殺された怒りに我を忘れ火精霊、風聖霊の力を喚び起こし盗賊を焼き殺した。
その時、己に精霊の加護があることを知る。
その地の村長に騙され領主の下で魔物討伐を命じられ悪虐神の使役魔を倒すことになる。
その時から勇者と呼ばれ、やがて人間の欲望と嫉妬と羨望の卑しい、醜いまでの姿を目の当たりにして絶望―――いや、諦念しかける。
それでも人の位置に立っていたのは、3匹の精霊獣と、勇者を助け救ってくれた人々の存在があったからだ。
打算も計算も無い素の触れ合いが冷えた身体と
だから今、自分はここにいる。人が産み出した人に仇為す神を前に刃を構える。
犬の精霊獣が咆哮を発すると、悪虐神の眷属が瞬く間にその衝撃波に消え去る。猿の精霊獣が杖を振り回し魔物を屠る。鷹の精霊獣が翼を翻し魔物を滅する。
そして勇者の元へと3体が集う。
精霊獣は勇者を守るように庇うように勇者に侍る。その表情は闘う者の雄なる者の顔だ。
『ガウガウガ――――ッ!!』
『キッキッキキワゥ――――ッ!!』
『ケルクククククゥ――――ッ!!』
「わ――――っってるよ。殺すわけにはいかねぇーんだ。後ちびっと頼むわ」
『ガウッ』
『キッキ』
『ケル―ッ』
悪虐神がまた瘴気を発生させ眷属を産み出し始める。魔物が地面から続々と這い上がっていく。きりがない。生きて戦いが終われるのか、いままでの戦いがまるで遊戯の様に。子供のままごと遊びのように――――力も精神も尽きる寸前のようなそんな戦い。
勇者が剣を横に振りかぶり一閃――――。
刃の届かぬ空間に爆発が起きて轟音と共に魔物は飛び散り飛び消え飛び払われる。
虚空の一点を見つめていた勇者はニヤリと笑い精霊獣に叫ぶ。
「
『キワ――――ッ!』
『クルルル―――ッ!』
『ガウガウル―――ッ!』
3体の精霊獣が悪虐神を囲むように散らばる。三角の形作った瞬間勇者が叫ぶ。
「一の陣!イヌマル!!」
『ガう―――――ッ!!』
白い光の封印陣が地面から浮かび上がる。
悪虐神が苦しみ悶える。
『ヤメロォォォ―――――ッ!!何故ワレヲ滅スルゥ―――――ッ!!』
「二の陣!サルカ――――ッ!!」
『ウッキャッ―――――ッ!!』
黄色い光の粒子が空間にいくつもいくつも現れて三角柱を作りながら悪虐神を覆いだす。悪虐神は動きを封じられてさらに叫びを上げる。
『ヒトガナニヲナス!ヒトハナニヲケガス!ヒトハナニモミタセヌ!ヒトハヒトニクルシミシカミイダセヌッ―――ッ!!』
その声は怒りも恨みも含みながら悲しみと哀れみと掴めぬ何かに叫んでいた。
「三の陣!ファルナ!!」
『ケルクルクルクル――――ッ!!』
青く光り輝く数多の円柱が上空から降り注ぎ白の封印陣に突き刺さり空へと伸び広がっていく。
『グガガガガアアアアアアアアアアアアア―――――――ッ!!!!!!』
光の渦の中で悪虐神の剣が鎧が肉体が焼かれ飛び散る。
勇者だってそんなことは分かってる。知っている。理解し過ぎるほど刻まれ過ぎてる。それでも、それでもだ。
そんな愚かで、どうしようもなく醜いモノだとしても。そう、それでもなのだ。守りたいと思うことがあったのだ。
少しの間、ちょっとの期間、誰かの心安らぐ時を与えるるぐらいは、それが俺にでも出来るならやれるのなら、精一杯戦おう。
いや、戦う!
虚空を見やり舌打ちをする。足りねぇ。あと少しだけ。
このままでは殺すしか、滅するしかなくなる。どうすればどうしたらいい。足りないなら足せばいい。足りないなら補えばいい。
力の器から勇者の力を勇者の総てを失っても――――――。
選択。選べ!人の力を超えたそれを!!
全て――――――。
構えた剣が光を吸い込み輝きを増す。光が剣身を呑み込み螺旋を描き伸びていく。
キ―――――ンと耳をつんざく響音が周囲を包み覆い広がっていく。
悪虐神をはるかに越える大きさの光の剣を上に掲げ勇者はそれを振り下ろす。
「聖魔反転!!!!!!!」
振り下ろされた光の剣は悪虐神を頭から足元を一直線に真っ二つにする。両断する。
『ギィィィイヤァアアアアアァアアァアアッ!!!!!!』
悪虐神が叫び悶え苦悶の声を裂き上げる。
3つの封印陣が光を増しながら輝き弾ける。光は周囲に撒き散らされキラキラと輝き散っていった。
勇者が光を失った剣を大地に刺し跪く。精も根も尽き果てながら辛うじて前を見る。
そこには結跏趺坐した超越神が
『ご苦労でした勇なる者よ。人の澱みは祓われました。いましばらくは安寧の時を過ごせることでしょう』
「それはどれ程の時でしょうか?「」
『………先を越え万に足らず………』
その言葉に安堵の溜め息を少しだけ漏らす勇者。
『では、いずれ
そう言って超越神は光の粒となり溶けるように消えて行った。
と同時に勇者はバタリと前のめりに倒れる。
「おわったぁ―――――っ!!」
勇者は疲れたように息を漏らす。その表情は何かをやり遂げた人間の顔だ。満足そうに身体を仰向けに空を見上げる。
元の大きさに戻った3体の精霊獣が勇者の周りにやって来た心配そうに鳴き始める。
「大丈夫。全部おわった。俺の役目もみんな………」
夜よりも昏がりの中で勇者は仰向けに寝転がる身体で空を見上げる。
黒の空はやがて溶け燃え広がる淡い蛍火のように青空へと移り変わっていく。
閉鎖空間の結界が解かれていく。先程迄の大地が空が煌めきを増していく。鳥の囀りが聞こえる。木々の囁き、川のせせらぎ、人と共にある大切なもの。
そよ風に髪を梳かれながら、勇者は深く深く安堵の息をはぁ〜〜っと吐く。やっと本当に終わった。勇者は起き上がりあぐらをかいて3体を見つめる。
「お前らもご苦労だったな。ありがとな」
『ウガンッ』『キィーッ』『ケルル―ッ』
三角耳をピンとさせた犬の精霊獣は尻尾をブンブン振って喜びを表し、小猿の姿の精霊獣はピョンピョンとその場で飛び上がり宙返りを繰り返す。鷹の精霊獣は翼をバッサバッサと広げてクルクル回り小躍りする。
本当にこいつ等がいなかったら、神など封ずる事も、いやこんな魔の
そんな想いを胸に勇者は彼等に帰還を促す。
「これでお前らの使命も終わった。皆、仲間の元へ帰るといいぜ」
その言葉に3体は驚くように動きを止めたあと、怒ったように勇者を叩く。
『ウガっ!』『キキーッキッ!』『ケルーケルッ!』
犬はあぐらをかいた勇者の足を悔しそうに前足でパシパシ叩き、小猿は足に乗っかり腹をポカポカ。鷹は地面についてる腕をカカカと嘴で突付く。
「ンだよぉ。うちに帰んなくてもいーのか?仲間達もみんな帰りを待ってると思うぞ?」
『ウガン!』『キキッ!』『ケルゥー!』
何言ってんの?と言うように首を傾げて一緒にいることを鳴いて伝える精霊獣達。その親愛の情に胸にこみ上げる思いを抑えるように3体をギュッと抱きしめる。
「このぅうい奴め!」
『ガガッ!?』『キゥー』『ケルルッ』
ひとしきり3体とじゃれ合った後(モフモフしたりスリスリしたりナデナデしたり)勇者はどうするなぁーと考える。
このまま僧兵団と合流して勇者を送り出した国へと戻っても、結局はまた利用されるか始末されるかの2つに1つだ。
上の地位に行けば行く程、人間というのは己以外に力を持つ者は畏怖と脅威の対象となる。用無しの道具は使い潰すか、廃棄するかのどちらかなのだ。
20年に満たない生の勇者にとってそのことは嫌というほど味わってきたものだった。
人の負が神をまた染めつくすのに1000年は掛かるのだ。勇者の役目なぞ人の争いの中には無用のもの。ましてや力を失くした勇者など。ぶっちゃけ面倒くさい。
大切と思える友人という者もいたが状況が変われば人も変わる。何度も何度も苦い思いをしてきた。何て苦くて辛い人生だ。もう少しのんびりまったり過ごす事は出来なかったのだろうかと自問自答する。無理だな………。
勇者はう〜〜んと唸りながら考えた末結論を出す。
よし!死んじゃったことにしよう。
そう。
悲しむものも………いない。いたらいーなぁとは思うが。
どこか小さな国の外れで田舎暮らしをしてみよう。
よし!そうしよう。そうするべし!!
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