序章   事の始まりは幽かに



         散る 桜の花びらと共に

          

       悲しみも憎しみもすべて・・・


           消えていけ





         そう、この木のように









「・・・・・・・今年も、咲いたのね・・・」

 誰もいないはずの、夜の丘。

 その丘の桜の木の下で、ゆらりと白い影が、陽炎かげろうのようにゆれた。

 風がざわざわと音をたてる。

 空には丸々と満ちた、金色こんじきに輝く月が浮かんでいた。

 影は愛しむように、目を細めた。

 咲いた花を見つめながら。

 口元には、微かなほほえみを浮かべていた。




  ――強い突風がふいた。

    その突風が通りすぎたころ。

    もう、そこに影はいなかった。



          

             




 

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