(5)

 先輩と出会ったのは、俺が高校二年のころ。小遣い稼ぎがしたくて、適当に決めたファストフード店へ面接に行ったときのことだ。

 店長っぽい社員のおっさんに促され、店の事務所まで案内された。そのままスムーズに面接が始まるのかと思いきや、おっさんは「ちょっと待っててね」とだけ言ってどこかへ行ってしまった。事務所は隣接するスタッフルームと壁一枚で区切られていて、事務所のドアを開けばスタッフルームに入ることができる作りだ。だから、事務所にひとり放置された俺にも、スタッフルームのワイワイ騒ぐ声は何となく聞こえた。

 バイト先は楽しい場所に越したことはないし、この雰囲気はアリかな。それにしても、おっさん、遅ぇよ。上着のポケットからスマホを取り出し、SNSを開いて眺める。そこには地元の友達や高校のクラスメイト達の日常がある。愚痴ってるやつもいるし、自分では正論だとでも思っているらしいことをほざくやつもいる。ひたすら友達と遊んだことしかアップしないやつもいるし、「彼女がかわいい」みたいなことしか言わないやつもいる。

 リアルで会う友達と繋がってるアカウントで愚痴らねぇやつにだって、誰にも知られないように、一日の毒を吐き出す場所は作っている。どこでどんなにイイ人みたいな姿をしてたって、みんなどこかしらにはイライラのはけ口を作っていて、その場所こそがご自身の一番「素」になる場所なのだ。そして、「素」になってしまえば大概のやつらが同じぐらい自己中だ。違うのは、考え方くらい。

 スクロールにスクロールを繰り返していると、ノックもなくドアが開いたから結構ビビった。

「あ、店長、いない?」

顔をのぞかせたのは、俺とそんなに歳が変わらなさそうな女の人だった。

「は......はい」

でも、少なくとも俺より年上そう。

「そっか、ごめんね」

そういって彼女はにっこりと笑った。

「いえ」

ぽかん、と口を開けっ放しにしている俺を見て、彼女はなぜかクスクスする。

「じゃあね」

と言って彼女はドアを閉めた。

 おっさん、もとい、店長がようやく事務所に戻ってきたのはそれから五分後のことだった。

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