第3話 入学式
『――――新入生、入場―――』
学院の中でも一番大きい体育館で待っていた俺たち在校生は、次々と入ってくる新入生に向けて大きな
『ただいまより、第五回エリシオン学院入学式を始めます。一同、起立…………礼』
まぁ、とりあえず。ようこそ一年生。在校生は皆を歓迎しますよっと。
※ ※
入学式は新入生からすれば確かに大事な行事だ。しかし、三年生ともなると特に大きな出番も無く緊張しまくるわけでもないので、必然的に暇になる。事実、ここまでのPTA会長の挨拶やら国からの祝電やらの内容はもう既に覚えていない。が、こと次の『生徒会長挨拶』という項目の内容は、過去二回分どちらも俺の記憶に深々と刻み込まれている。いや、おそらく在校生全員の記憶に焼き付いているだろう。
今年は、どんな
そんな僅かな期待をあざ笑うように突如館内全ての照明が落ち、あらゆる窓にシャッターが下ろされる。玄関は全て特殊材質のためか外部からの光を全て遮断するので、辺り一帯は午前中なのに完全に真っ暗だ。
式場内は混乱でざわつき始めるが、しばらくして『皆様、静粛にお願いいたします』と綺麗な声が響きわたる。あぁ、やっぱり仕様か…。
『富・名声・力、美少年、美少女、この世の大体を手に入れたい女、会長・姫乃みゆり』
いきなりワン〇ースの初期導入みたいな入り方してんじゃねぇよ。あと手に入れたんじゃなくて願望かよ。
それからも間髪入れずに台詞は続く。
『私のこれから放つ一言は人々を希望溢れる海へと駆り立てる。……………予定、です』
最後だけ自信なくしてんじゃねぇよ。ここまで来たら堂々としてろ。
『………えーと、次のセリフ何でしたっけ……長いから忘れちゃった……えー………以下略!』
結局ぐだぐだじゃねぇか! 無理してパクろうとした結果がこれだよ!
バッ!っとステージの明かりがついた瞬間、そこには豪華絢爛な装飾が付いた衣装、いや巨大舞台装置ようなものを纏った同世代の女性がいた。昔流行った紅白のラスボスと同じオーラを放たれた俺たちは、ただ口を開いたまま唖然とすることしか出来なかった。
その後もラスボス風なその女性は満足そうに微笑みながら続ける。
「初めまして新入生の皆様。そして今年はポロリなくてすみません在校生の皆様。私がこの学院の生徒会長、姫乃みゆりです。これからよろしくお願いいたしますね」
非常に高い位置から頭を下げた会長に合わせるように慌てて一年生も頭を下げる。やっとまともな挨拶が始ま……いや、よく考えたらこの会長がまともに挨拶始めたことも終わらせたこと無かったわ…
良くも悪くも期待を裏切らないことで生徒内に有名なうちの生徒会長は、本日もきっと入学式早々一年生に『ヤバい奴』認識されるに違いない。
「それではもっとフレンドリーになるために……パージ!!」
みゆり会長がそう叫ぶとステージ一杯を埋め尽くしていた
「安心してください。下着は付けてないので」
にこりと微笑むみゆりの姿は、どう見てもバスタオル一枚だけだった。新入生の誰かが甲高い悲鳴を上げ、男子に関してはその類まれなる美貌から目を離せていないようだ。対する在校生からすればあの肌色を見ることに慣れている為か、重いため息が漏れる。肌色はたまに見せられてこそ際立つものなのだと改めて実感した。
色々なざわめきが飛び交っている式場内に明かりが戻るのと同時に「ハーイ! 皆様お静かにー!」と明るく手を上げたみゆりは、やっとまともな衣類であろう和服を一瞬で纏った。コイツ……転送能力で遊びすぎだろ……
「ではまず、生徒会長である私から、新入生の皆様にささやかながら祝いの品を贈りたいと思います」
パンッと
その後はみゆりが教卓を壇上に出現させることでやっとまともなスピーチが始まり、 今までの暴挙が無かったかのように場の雰囲気を本来あるべき入学式の姿へと変貌させていった。
「それでは、皆様に楽しく充実した学院生活が訪れることを、心から願っています」
みゆりが一歩下がり、無駄のない洗練された動作で一礼すると、式場内は皆が空気を読んだおかげもあって大きな
閉式の言葉がアナウンスで促され、教員が前に出て式を締めくく――
「あーーー!! 最後に一つだけ言い忘れていたことがありましたー!」
――ろうとしたところに、再び綺麗に
「毎年我が学院は
しかもその一年生の相手は……なんとなんと! 前大会の我が学院の代表にして世界大会出場者の片割れ、植野銘人さんなのですよー!! 」
……………は?
「うふふ! しかもその一年生、とびっきりの美少女なんですよ!頑張ってくださいね!期待の一年生、空霧優衣さん」
みゆりはそう言いながら隣にいきなり銀髪の美少女を転移させると、驚いた様子のその少女をぎゅっと抱きしめた。
直後に式場が一気に騒がしくなる。あっさりとんでもねぇ暴露しやがったよあの
そのざわめきが収まらぬままに、入学式は終幕を迎えたのだった。
※ ※
「いきなり全校生徒の前でバラすとかどういう
「あ!! 今馬鹿会長って書いてみゆりってルビ振りましたね!? 馬鹿は認めるのでせめてみゆりんって呼んでください!」
「ぜってぇ呼ばねぇよ!」
入学式の後、俺とはみゆりと生徒会長室にてぎゃーぎゃーと喚き合いながら、ペア予定相手を待っていた。ちなみにみゆりは何故かメイド服である。
会長は「まぁまぁ」と俺をなだめるような手振りをしながら席に着くと、テーブルにコーヒーメーカーとカップを二つ出現させて一つ一つに丁寧に注ぎながら微笑む。
「まぁ何故バラしたかというと、結論から言えば『物語をより面白くするため』ですねー」
……全くわけが分からない。が、いつも通りイカれたコイツの考えなど分かるはずもないという結論に達したので、大きくため息をはきながら差し出されたカップを受け取る。苦みと甘さの加減が完全に俺の好みなのが腹立たしい。
「一年一組、
「は~い、どうぞ~」
軽いノックのあと、凛とした声が響く。対するここの主は極めてふわふわとした返事で応対する。
入ってきた瞬間、俺はその少女から目を離すことができなくなってしまった。
光が反射してきらめく銀髪。触れれば消えてしまいそうなほどに華奢な体。それに見合わぬ確かな強い意志を宿す漆黒の瞳。途方もなくその子は美しかった。
促されるままに優衣は刀を足に凭れさせ、俺の席に着くと、みゆりから受け取ったコーヒーにほんのり紅い唇をつける。その動作だけで横目でみていた俺は体が少し熱くなるのを感じた。
「では早速ですが、ペアになるにあたって、お互いを知るためにもまずは自己紹介ですね。お二人ともよろしいですか?」
俺と優衣は互いをチラリと見てから同時にうなずくと、立ち上がって向かい合った。まぁ、普通は俺からだよな。
「三年二組所属。
軽く頭を下げると、向こうも綺麗にお辞儀を返してきた。あちらも続くようにこちらを見据えながら口を開く。
「一年一組所属。
俺は頭を下げながら、優衣の腰に吊るしてある刀を改めて見やる。鞘の先端から柄 《つか》まで漆黒のそれは、少女には似ても似つかないほどの重い存在感を放っていた。
俺が頭を上げると、みゆりの「さて」という明るい声が耳に届く。
「自己紹介直後のいきなりで申し訳ないのですが、そろそろ相性診断に入りたいと思います。お二人とも、準備はよろしいですか?」
なるほど、ただ闘ってみたいっていう俺の自己願望を、相性診断って名目にするとは。いつもながら手回しだけは早いこった。だが、それなら相手も従うしかないのも確かなのだろう。優衣は迷うことなく頷いていた。
俺も会長に大きくうなずき返すと、みゆりも楽しそうに頷いた。
「それでは、会場である第三訓練場にお二人を転送します。貸し切りなので誰かが来る心配は必要ありません。ごゆっくり自身のペアの実力を見極めてくださいね! いってらっしゃ~い! 」
みゆりが手を振った瞬間、ふっと空気が変化する。高い透明な天井に、周りを囲う鉄の壁。敷き詰められた人工芝。さっきまでコーヒーのいい匂いがした空気は、今はどこに存在しない。
入学の手引きにうちの会長は『私は一度でも見たことのあるものを、見たことのある場所に転移させられます』と公言しているが、まだ二度しか強制転移を受けていない優衣は、やはり驚きながら辺りを何度か見渡していた。
やがて、深呼吸を何度かするとこちらに凛とした表情を向けてきた。
「先輩、私は本気で大会に優勝したい。優勝して願いを叶えなければいけないんです。よろしくお願いします」
「……あぁ、せいぜい本気で行かせてもらうよ」
さて、俺のペアにする条件に本当にあてはまるのか。試させてもらおうか。 可愛い新入生さん?
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