未来から来たと信じてもらうには

「先輩、未来から来た時に見せる証拠って何がいいのですかね」

 二人きりの部室で、後輩はそんなことを不意に話題にあげた。

「そんなもの万馬券だったり宝くじの当たり番号を教えればいいだろう」

「でも今ここで信じてもらいたいって時は、発表するまでそんな悠長に待てないじゃないですか」

「だったら当たり券発表する直前に姿を現せばいいだろう」

 そういうと後輩はため息をつき「いいですか」と人差し指を立てる。

「リアル系SFで見られるタイムトラベルはドラえもんと違い自由な時間移動ができないのです。これは主にエネルギー問題や技術的な問題など、様々です。これによって主人公の前に現れたタイムトラベラーはどうにかしてすぐにでも自身が未来から来たと信じてもらわなければならないのです。あたしの言うことわかりますか」

「ああ、わかった。そういう前提条件あるのなら先に教えろ。ほかには何かないのか」

「ええとそうですね、季節は夏。天気は晴れ。時刻は夕方。タイムトラベラーは女で、教える相手は男です」

「ふむ、その日どこかでゲリラ豪雨、夕立レベルでもいい。そうなるなどはないのだな」

「はい、ありません」

 そうなると難しい。未来の情報となると未来でしか検証できないことばかりだ。未来から現れた人物の、さらに同一人物が現れれば話は別だろうが前提条件でそれは叶えられない。

「俺ならば証拠を出すことは諦めるな」

「ほう、しかし先輩、ではどうするおつもりで」

「一旦の信用を勝ち取ることだ」

「一旦の信用とは」

「簡単にいうとその気にさせることだ。こいつの話を聞けば何かしらのメリットがある。もしくは即物的に何か渡したりするのも効果的だ」

「ふむふむ、なるほど。しかし、それでは未来から来たと信じてもらえないのでは」

「それは最終目標だ。最初の信用を勝ち取ってさえしまえば、あとは少しずつ信用を積み重ねていくだけでいい。時間はかかるからすぐに信じてもらうわけではないだろうが、最初からすべてを信じてもらうより交渉の余地がある。なにより協力者を募るということは一人では無理なことをやろうとしているのだろう、そのタイムトラベラーは?」

「さすが先輩、その通りです」

「ならば先に手を動かしてもらえばいい。未来を知っているのだから報酬などは後からなんとでもなるのだから」

「なるほど、ためになります。……ちなみに即物的に渡せるものもない、未来の情報も大したことを知らない、偶発的にタイムトラベルした場合は何をして信用を勝ち取ればいいと思いますか」

「そういうものは先に言っておいて欲しかったのだが……まあいい。女の君にこういうことを言うとセクハラになると思うかもしれない発言をするがいいかね?」

「どんとこいです」

「野郎の大半はスケベ野郎だ。残る少数はムッツリ野郎だ。身一つで来てしまったのなら胸の一つでも見せれば簡単に男は信用する。続きをやりたいとせがむ野郎もいるだろうが、それは報酬として取っておくこととする」

「男って馬鹿なんですね」

「馬鹿じゃない男などこの世にいないよ」

「先輩はどっちなんですか?」

「どすけべ野郎だ」

「なるほど知りたくなかった事実です。でもよかったです」

 そういうと後輩は部室のカギを締める。

「先輩……あたし、一週間後の未来から来たって言ってら信じませんよね?」





 こうして俺はとある事案が発生したのち、俺自身の命を救うべく数々の事故から回避したり、時間を操る悪の組織と切った張ったの立ち回りをしたり、この後輩とラブロマンスを繰り広げることになった。

 ちなみに後輩は着痩せするタイプであったことだけ伝えておきたい。

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