詫び石文化
「弟よ、私は思うのだが詫び石はもっと配るべきだと思うのだ」
いきなり部屋に来てシャキーンという決めポーズのあと、姉はそう言った。
「姉よ、ついに頭が暑さでやられたか」
「近年、地球温暖化が著しいため違うとは言い難いが、あえて言おう。違う」
「ならいきなりなんの用だ」
「要件ならば部屋に到着してすぐに伝えただろう」
「詫び石を配るべきというやつか」
「その通りだ。これについて我が聡明な弟はどう考えるのかを知りたい」
しばし、考えた後、切り出した。
「まず配布される石には二種類ある。なんのことか分かるか?」
姉は両手と片足を挙げたまるで威嚇するようなポーズで答える。
「ゲームをプレイしたら貰える石と開発がやらかした時に貰える石のことかな」
「ああ、その通りだ。前者は最初から勘定に入ってる石であり、損はしてもいいといえる石だ。言い換えるなら広い意味で円滑にゲームを遊んでもらうための石と言える。後者は勘定に入っていない石だ。これを配るということは確実に損になる」
「しかし、弟よ。データであり実在しないものであるならば大きな損はでないのではないだろうか」
「ふむ、サーバー運営や人件費などはかかるだろうがあえてそこは一旦置いておこう。そのデータを最速最短で手に入れなければならない時、姉ならばどうする?」
「必ず手に入れると決めていたキャラのガチャが出た時に爆死した時かな。……私ならば課金をするな。こう見えても稼いでいるのでな」
稼いでいるのでな、というところでブラックカードを見せつけてくる姉。
「そう、その通り。課金をするんだ。詫び石を配るということは機会損失に当たる。本来ならば購入されていたものが購入されなくなるんだ」
「ふむふむ、そういう理由ならば今配られている詫び石の量で我慢するか」
納得した様子の姉は、ふと何か思い出したらしく「そういえば」と続ける。
「我が弟は、前に詫び石が大量に配られて喜んでいなかったか?」
「姉よ、何を当たり前なことをいう。大量に石が配られれば嬉しいに決まっているではないか。ガチャが引けるのだぞ」
「いや、しかし、それでは開発会社が損をする、しいては赤字になってしまうのではないか。それは今さっき口にしたことではないか」
わざとらしく大きなため息をつく。
「姉よ、開発会社の損得勘定などいちプレイヤーが知ったことではないのだ」
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