二段ジャンプ
二段ジャンプという概念がある。
ゲームの中でキャラクターが一度ジャンプして、空中でもう一度ジャンプするというものだ。
必殺技などと違いいろんなゲーム中に極々当たり前に搭載されており、これを売り文句もない。ただ普通にゲーム中にある遊びの幅を広げるために開発者が入れた機能である。
私はこれに憧れた。やってみたいと思った。切望した。渇望した。
かめはめ波とかそういうビーム系の技よりもそういう地味な技が好みというだけの話だった。
私は考えた。
どうすれば二段ジャンプができるようになるのかと。
トランポリンや下から強風を送るなど二段ジャンプの美学に沿わないものは排除し続け、理想を追い求めた。小学生の時に持った夢は、中学、高校、大学、修士、博士課程に進んでも理想を叶えられるときはなかった。
ある時、私は空気に粘度があることを知った。
そして、閃いたのだ。
空気を固めて、そこでもう一度ジャンプすればいいのだと。
空気自体を固めるにしても、ジャンプする硬度は最低必要。加えて私は凝り性であり、どこまで固められるのか試してみたかった。
この発想は世界を変えることとなった。
空気の質量しか持たず、高硬度をもつことになったそれは質量がものをいう飛行機やモータースポーツに流用されたり、防弾ジャケットなどにも使われる技術となった。
日常とは離れたところ、日常を支える技術として世界に広まった。
これによって私はひどく忙しくなった。様々な科学賞の受賞式、各種論文の発表、講演など多岐に渡る。
二段ジャンプを試すという暇さえなくなったのだ。
数年間、忙しさに浸っていたら、ある日を境に風呂の栓が抜けたかのように仕事がなくなった。
世界で感染症が広がり、海外に渡れなくなり、密とかなんとかで講演会もすべてなくなったのだ。唯一、ある用事といえば、大学の講義とゼミ生の世話ぐらいのものだった。
ならばこのタイミングで二段ジャンプを私自らやるしかないと思い立った。
思い立ったが吉日、院生という名の助手たちを集めて二段ジャンプ検証会を行った。
普通にジャンプし、元から固めてあった空気を足場にもう一度ジャンプした。
この時はこれで夢を叶えた、そう思っていた。
撮った動画を見て、落胆した。
「これではただ障害物を乗ってもう一度ジャンプしただけにしか見えないではないか!」
そうである。
私が夢見た二段ジャンプとは一段目で高く飛び上がり、二段目で何もないところから再度高く飛び上がることなのだ。決して「えい」「やあ」とメタボ腹が無理して登っていくことではない。
こうして私はスタートラインまで舞い戻ることになった。
しかし、私はワクワクしている。
今度はどういう風にやろうかなと想像が止まらないのである。
しかも、今回は特許料が使いきれないぐらいに入ってきているため、やれないことはないのだ。
ただ、一つだけ懸念があるとするならば。
格好よくジャンプするためにパルクールを習い始めたが、あまりにも万年運動不足だった私には厳しすぎて、いつまで続ける気力が持つかということだ。
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