雄弁な死体

「大高さん、これどう思います?」

 鑑識官の吉村はそう口にし、包丁が胸に突き刺さったままの遺体を指さす。

仰向けの遺体は両手両足で輪を作り、8のポーズを取っていた。胸には「犯人は八代!」と書かれたプレートが乗せられていた。その脇には襲われた瞬間を捉えた写真が、わざわざスマートフォンをパソコン接続し印刷して添えられてあった。

また、これから八代がいなくなるのを予想してか起動しっぱなしのパソコンの画面には、メモ帳に八代が逃げそうな場所を箇条書きにしてまとめられていた。リクライニングチェアには被害者の血がべっとりこびりついていた。

「吉村、お前はどう思う?」

「いくらなんでもこれはないです」

「だよなぁ」

 死体は雄弁だと何かの海外ドラマの宣伝で何度も読み上げられていた。事実ではあり得ないシチュエーションのそれでも、この死体はいささか雄弁すぎやしないだろうか。あの世に死に方グランプリがあるとするならば、間違いなく殿堂入りだ。何人も遺体を見ている俺が言うのだから間違いない。

 とにかくアテもないため八代という男を洗うように部下に指示を出す。ついでにメモ帳にあった場所を優先的洗うように指示をした。

「こんなんで捕まったら苦労しないよな」

「ですねぇ」

 二人して笑った。

その日のうちに八代は捕まった。

すぐに殺人を自供し、一件落着した。

八代にアリバイもなく、衝動的な殺人ということで片がついた。

後日、押収したパソコンから被害者の娘が監禁されている内容メールが確認された。どういうわけかそれはマスコミへと流出した。八代と被害者は何度も警察に助けを求めていたが相手にされていなかったことが暴露された。マスコミの警察バッシングが始まり、警察は総力を挙げて被害者娘を救出した。

これは八代と被害者が共謀していた計画殺人であった。

八代は被害者を殺した。

それは間違いないため、情状酌量はされるだろうが実刑は免れないだろう。

ただ、この計画には一つ穴がある。

情報を漏洩させる者が欠けている。

「大高さぁん」

 あの時の鑑識官が俺の名を間延びした声で呼ぶ。

「あの事件にあんな裏があるとは驚きましたね」

 きっと調べれば繋がりが出てくるだろう。

「ああ、本当に驚きだ」

 だが、素知らぬふりをしよう。

雄弁は銀、沈黙は金と言うのだから。

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