宝くじ
「買わなきゃ当たらないってよく言われますけど、買っても当たりませんよね」
同僚の溝口くんは外れたばかりのスクラッチ宝くじを机にいくつも並べていた。
「なら買わなきゃいいでしょ」
ぶっきらぼうに私は返す。
「いやいや、一発当ててこんな仕事辞めて趣味に生きたいですから」
「……知ってる? 高額当選した人ってだいたいは不幸になってるってこと?」
人生計画をミスってしまったり、欲が出てしまったりで不幸になるらしい。また、どこから聞きつけたのか募金の徴収に慈善団体が現れるらしい。
「でも一時でも幸運になるのならそれはそれでいいと思うのですよ」
「当たったらの話だけどね。当たらなきゃ追加税金払ってるようなものだし」
「税金といえば、消費税上がりましたね」
「上がったわね」
「買いだめしました?」
「してないわ」
「どうしてです?」
「そんな急いで買う必要のあるものはなかったから」
「偉いですね。僕なんか生活必需品ばかり買いだめしましたよ。おかげで向こう数ヶ月は買わなくていいですよ」
「そんなに買って、今月の家賃とか厳しくないの? 先月も税金上がるからって時計買ってなかった?」
「税金とかガス代とかは大丈夫ですけど、年金が厳しいですね」
「きちんと払わなきゃ駄目よ。建前上はご老人のために払ってるようなものなのだから」
「本音は?」
「身内以外は、はよ死ね」
「辛辣ですね」
「当たり前よ。宝くじは当たるも八卦当たらぬも八卦だけど、年金は遠回しに貰えないって言われてるもんじゃない」
「宝くじ当たればいいですねぇ」
「億とまでは言わないけど、せめて生活が楽になるレベルで当たって欲しいわね」
私の机の上には総額数百円になってしまったサマージャンボ宝くじが山を作っていた。
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