決意 1−2
「一ノ瀬君!」
「……ごめんなさい。寝ていました」
担任である立川先生に起こされ俺は目を覚ます。
「授業中は寝ないように」
「すみません……」
起こし終えた立川先生は、教科書片手に教壇へと戻っていく。
立川緑。俺達五年三組の担任。初めて担任を持つことになったらしく、四月当初はかなり緊張していたようだが、今ではその面影を微塵も感じさせられない。
性格的には今時の先生にしては珍しく積極的で、休み時間などはよく生徒達と教室で話したり、外で遊んだりしている。
そのため、生徒や親からも人気が高い。
「はい、それでは次の問題に入りますよ」
教壇に戻った立川先生は、再び問題を黒板に書き始める。
「一ノ瀬君っていつも寝てるよね」
隣に座っていた大月という女の子がこっそり声をかけてきた。
「毎日夜遅くまで起きてるの?」
「いや、そんなことはないけど」
基本的には夜の十一時頃には眠りについているので遅くはないだろう。とくに秘密にしておく意味もなかったので、大体の時間を大月に教えた。
「ならどうしていつも寝てるの?」
「授業を聞いてると眠たくならない?」
「ならないよ。ノートを取ったりしないといけなもん」
小声で話しながら、今も黒板に問題を書き続けている立川先生に視線を向ける。
周りの奴らも真剣に黒板の問題をノートに書き写し、授業中に寝ているのは俺くらいだった。
「一ノ瀬君もノート写さないと」
要は、最初からノートを取った方がいいと言いたかったらしい。
それだけ伝えると、大月も黒板の問題を写し始めた。
「一ノ瀬君、私語は禁止ですよ」
「いや、俺は……」
大月が話しかけてきたらと答えようとしたが、ノートを取るようにと注意を受ける。
どうやら大月の声は、立川先生には聞こえていなかったようだ。
なんで俺だけ……。
「分かりましたか?」
「ごめんなさい……」
一先ず立川先生に謝り、俺は渋々ノートを開いた。
勉強か……。
言われた通り、ノートを開いて鉛筆を手に取るも、どうもやる気が起きない。
俺は早急にノートを移すことを止め、頬杖をつきながら窓の外を眺める。
因みに、俺の席は窓際一番後ろと誰もが羨む場所。
そんな特等席から窓の外を眺め、ふと思ってしまう。
————本当に、勉強などする意味があるのかと。
曇りがかった空の下、眺める先にはいくつもの倒壊した建物。
前は大きなスーパーがあった場所も、今では更地となっている。
車、人通りが少ない道路。そもそもここを学校と呼んでいいのかすら怪しい。
机や黒板は確かにあるのだが、ロッカーや隅に置いてありそうな大きめなストーブといった学校らしいものはなに一つ置いていない。何故ならここは、大きなビルを使用している一時的な仮の教室、一時的な仮の学校だった。
そのため、建物全体に学校らしい要素は一つもない。
こんなところで勉強と言われても……。
周りの奴らが平然と、あたかもここが昔から通っていた学校のように生活しているが不思議で仕方がなかった。
「いいですか、ここはちゃんと覚えて下さいね」
このまま奴らにやられっぱなしなのだろうか……。
もう一度窓の外を眺め、三年前の惨劇を思い出す。
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