決意 1−1
…………。
気がつくと、俺は真っ暗な空間の中に一人でいた。
…………。
辺りを見渡すも、光が全く届くことのない空間。
自分が立っているか座っているのかも分からない。もしかしたら浮いている可能性も、宙吊りになっている可能性だってある。
今の俺には方向感覚というものが一切失われていたのだ。
「おい、誰かいないのか?」
声を出すも、勿論返事はない。
それどころか自分の発した声が全く聞こえない。聴覚も失われている状態だった。
もしかしたら真っ暗に見えているのも視覚が失われているからではないだろうかと思ってしまう。
最初、この状況に陥った時は酷く混乱したが、何度も続けば流石になれる。
これで何度目だよ……。
そう、俺はこの状態を知っている。何度も経験している。
——これは夢。妙にリアルでタチの悪い夢だ。
夢と分かれば尚のこと取り乱す必要はない。時間が経てば自然と夢から覚めるだろう。
さて、今日は何をするか……。
いつも悩まされるのだが、今の俺はあらゆる感覚を失っている。そのため、結局どうすることも出来ず、夢から覚める。
同じ夢を見なといけないなら、楽しい内容にしてほしいもんだ。
そんな注文をつけても決して夢の内容は変わることはない。
これからも見続けるんだろうな……。
この夢を見るようになったのは今から三年ほど前。それまでは、どんな夢を見ていたのかと聞かれたら答えに詰まる。
ある日、突然この夢を見るようになったのだ。
初めてこの夢を見た一週間後に同じものを。またその一週間後、翌月と同じ夢を定期的に見るようになった。
今では普通の夢より多く見ている気がする。だから感覚がなくなろうと全く気にしない。
最初は、同じ夢を見ることになにか意味があるのではと思ったが、三年経っても変化はないのでその考えはだいぶ前に捨てた。捨てたが何度も懲りずに見てしまう。
だから俺はこの夢に名前をつけた。
————『カラの夢』と。
内容もなく、意味もない。ただ真っ暗な空間で時がくるのを待つ。
どうして俺はこんな夢を見るようになったのだろうか……。
「一ノ瀬君、起きなさい。一ノ瀬君」
いきなり視界が真っ白い光に包まれ、俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
そろそろ夢から覚める時間がきた。
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