第5話 決闘 『魔法』の闘い

「よく来たなァ……だが状況は、何も変わらないぜ?」

「変わるよ? 貴方たちが勝手に経験値稼いじゃいけないの、私知ってるもん」

 ディアはずんずん近づいてくる。確かに男たちは、ディアに対して攻撃できず、遠巻きに取り囲むことしかできないようだった。

「ははは! 俺の『魔法』ならやりようはあるんだよ!」

リーダー格の男はファイティングポーズを構えると、名乗りを上げた。


「我こそは≪落涙海域セントエルモス・ティアー≫! 殴涕の魔法使い、雨科あましな嵐海らんかい!」

「ディア・アスメラルタ。不死の魔法使い、かな」


応じるディア。やり取りを終え、雨科は一気に距離を詰める。


「不死の魔法使い……ふざけた名乗りしやがって!」

「事実ですっ。貴方こそわかりやすくネタバレしてくれる称号でありがたいな。聞いたことあるもん。『涙崩拳ナダレフィスト』でしょ?」

「俺も有名になったもんだ……な!!」

鋭い音。ディアが頬を張られ涙目になる。たまらず刀を抜くが――刃はあらぬ方向に振り下ろされ、すっぽ抜けてしまった。


「俺に殴られたら一般人なんて終わりよォ! 前も見えなきゃ呼吸も辛いさ!」

「安い……ぐしゅ……『魔法』だねっ……ぐすっ」

拷問を思い出す。あの異常な涙は『魔法』によるものだったのか!


「ほらよ、いっちょ上がり!」

僕の目の前であっという間に組み敷かれるディア。いつの間にか部下たちが麻縄を用意していて、彼女は捕縛されてしまった。

「お前の負けだァ! やっぱり何も変わらなかったな」


「んーん。ぐすっ……違うよ」

「あ?」

「うん、違うね」

僕は雨科の首に刀を突きつけながら言った。



 結局彼らは、僕の力を甘く見ていたのだろう。レベルアップした人間に接触したことがなかったのかもしれない。渾身の力を込めると、麻縄は簡単にちぎることができた。問題は、筋骨隆々の彼ら自身にはさすがに勝てそうになかったことだ。なにより逃げるすきを窺おうにも、拷問が辛すぎてほとんど思考能力が奪われていた。視界は涙で不明瞭、息も絶え絶えではどのみち逃げきれなかっただろう。

 ところがディアが男たちの目を引き付けてくれ、一対一仕様だったのだろう『魔法』も解除され、そのうえ刀まで投げてよこしてくれたことで、僕はチャンスを手に入れた。近くにいた何人かを振り払いながら刀を拾えば、あとは雨科の首筋につきつけるだけの簡単なお仕事だった。

「てめェ……脅そうったってそうはいかねえぞ! この女はともかく、ただの人間を殺せるわけがねえ!」

「うん……だからとりあえず、ディアを解放してもらえます?」

「だからなぁ! 放すわけ……」

「そうしないと、僕はさらにレベルアップしますよ?」

 そのとき初めて、雨科は刀の切っ先が自分ではなく、延長線上のディアに向いていることに気が付いたようだった。苦渋の表情を浮かべ、雨科はディアを放す。僕は刀を突きつける相手を変えると苦笑した。味方を人質にするなんて。

「上に報告するってのを勘弁してもらうのは……」

「しょうがないな。お前に暴れられても困る」

 やれやれ、これで無事に帰れるようだ。僕は出口に向かって歩きながら、


 後ろから放たれた拳を避けた。

「ごめん、ディア」

「……うん」

【ぺーぺぺぺーれれれってって〜♪】

 

「我こそは≪落涙海域セントエルモス・ティアー≫! 殴涕の魔法使い、雨科あましな嵐海らんかい!」

「それ必ずやる決まりなの?」

 あきれ半分、僕は彼ら全員を蹂躙したのだった。もちろん、素手そうびなしで。

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