第90話「優月の行方」

 蓮乗院邸。

 龍次は惟月の部屋に向かっていた。

 逃げた優月の行方を追ってもらうためだ。

(優月さん……。急にどうしちゃったんだろう……?)

 今日はずっと優月に引っ張られていた感じだったので、最後ぐらいは自分からキスをしようと思ったのだが、なぜこんなことになったのか。

 廊下を歩いていると、涼太に会った。

「あ、日向先輩。どうでしたか、今日のデートは? 優月の奴は大丈夫でしたか?」

「あ、うん。それがちょっとややこしいことになってて……」

 龍次は蓮乗院家に帰ってきてからのことを簡単に説明した。

「あいつは、また面倒なことを……」

「それで、惟月の能力で優月さんを探してもらおうと思って」

「そうした方が良さそうですね」

 二人揃って惟月の部屋へ。


「なるほど。そんなことが……。でも、デートの前には私や沙菜さんのところに相談にきていたぐらいですから、彼女なりに真剣に行動した結果なのだと思います」

「それはもちろん分かってるよ。別に俺は怒ってる訳じゃないから」

 あの時の優月は、どうしようもなくいたたまれないという表情をしていた。

 こちらは驚いただけだったというのに、ひどく傷ついてしまったようだった。

 早く会って、話し合いたい。

「おれはちょっとお灸をすえてもいいと思うけどな」

 涼太は、他の二人に比べると少々手厳しい。

「つーか、如月に相談したから変なこと吹き込まれたんじゃないのか?」

「う~ん。その可能性はあるか……」

 だとすれば、お灸をすえなければならないのは沙菜だということになる。

「ひとまず優月さんの居場所を探してみますね」

 惟月は目を閉じて、魄気を霊京中に駆け巡らせる。

 優月を見つけ出すのに時間はかからなかった。

「五番街から六番街へ通じる街道付近ですね」

「じゃあ急いで行ってみよう」

 龍次たちは蓮乗院家を出て街道に向かった。


 惟月の後について、優月のもとへ向かう龍次と涼太だったが、その途中で別の人影に出会った。

「如月……」

 龍次は沙菜の顔を見るなり嫌な気分になる。

 人羅戦争では優月と共闘して人間を守った彼女だが、優月に対して期待しているものが自分とは違う気がしてならない。

 『私のようになってはいけませんよ』という言葉とは裏腹に、優月を悪の道に引きずり込もうとしているのではないか。

「如月、てめえ、先に優月に会ったな」

「はい。ずいぶん落ち込んでいるようだったので、そんな必要はないと励ましてあげたんです」

 涼太の鋭い視線を受けてもあっけらかんとしている沙菜。

「励ましたんなら、なんで優月さんは帰ってこないままなんだ」

「私の言葉だけでは足りなかったんじゃないですか? みなさんからも言ってやってくださいよ」

 そう言って沙菜は肩をすくめる。

「とにかく、この先に優月さんがいるんだな」

 龍次は沙菜を押しのけるようにして先に進んだ。

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