第85話「行き先相談(沙菜編)」
惟月からの提案を受けて沙菜のもとへ向かおうと、一人蓮乗院家の門をくぐる優月。
と、そこで桃色の着物に身を包んだ少女の姿が目に入った。
「あ、穂高さん」
「あっ、優月ちゃん。ほわ~」
穂高は、独特のあいさつをしながら駆け寄ってくる。
「今日は沙菜さんのところじゃないんですね」
「うん。今日は惟月さまに遊んでもらうの」
惟月と穂高が一緒に遊ぶところはいまひとつ想像できない。
「どんなことするんですか?」
「沙菜ちゃんからもらったゲームするんだよ」
「惟月さんもゲームやったりするんですね」
少々意外ではあったが、かといって誘われて断るとも考えにくい。
如月邸にいた頃、普段ゲームをしない龍次もパーティゲームの類いには参加してくれた。
「おっきいおサルさんとか、ちっちゃいカニさんとか倒すの」
「ひょっとして『モンスターバスター』ですか?」
「うん、それー」
人間界で一時期ブームとなった作品だ。今でも一定の人気を保ち続けている。
ゲーム機の通信機能をいかして、数人で協力してモンスターを倒す。優月も涼太と一緒にやったことがあった。
穂高が敵と戦うゲームで遊ぶというのもイメージしづらいが、よく考えたら彼女も腰に刀を差している。
「話は変わるんですけど、穂高さんも魂装霊俱持ってますよね。どんな能力があるんですか?」
優月が興味本位の質問をするのは珍しい。
それだけ、この穂高という天然少女が場をなごませているのだろう。
「火が出るよ。……でも、それしかできないの」
後半、少ししょんぼりした様子になってしまった穂高。
余計なことを聞いてしまったのだろうか。
「わ、わたしも雪か氷を出すぐらいしかできないですよ」
優月も、沙菜の『
「でも、優月ちゃんは強いよね……」
「それは……その……」
いつもなら優月の方が自分を卑下して相手から心配されてしまうのだが、今は逆である。
優月が困っているのを察してか、穂高は明るい表情に戻って尋ねてきた。
「あのね、わたしの刀は
「あ、わたしのは雪華さんっていいます。響きが似てますね」
「えへへー。優月ちゃんとおそろい~」
落ち込み気味だったのは少しの間で、また朗らかな笑顔を見せてくれた。
この明るさは、優月も見習うべきところだろう。
「じゃあ、またね。優月ちゃん」
「はい」
穂高と別れ、如月家に向かう。
如月邸・沙菜の私室。
「なるほど。デートの行き先としてキサラギランドを選びましたか。なかなか目のつけどころがいいですね」
「それで、龍次さんに楽しんでもらうためにも万全の準備をしたいんです。どんなアトラクションがあるかとか教えてもらえますか?」
優月が尋ねると、沙菜は一冊のパンフレットを取り出した。
そこに描かれた地図を参考にして各種アトラクションの位置を把握していく。
優月の場合、方向音痴なので、よほどしっかり見ておかないと当日迷うことになるだろう。
アトラクションの中には、やはり優月が知っている作品をモチーフにしたものがあった。
そこを優先したい気持ちもあるが、今回は龍次に楽しんでもらうことが第一。沙菜と話し合って具体的なデートコースを決めていくことに。
いつも散々世話になり、迷惑もかけているのだから、デートの時ぐらいは龍次をエスコートしたいところだ。
「龍次さんは絶叫系はいけるんですか?」
「えっと……、知らないですね……」
二年間龍次に片想いをし続けてきたが、自分は彼の好みについてよく知らない。
食べ物の好みも分からないので、食事はなるべく色々なものが選べるところにする。
「私のおすすめは『モンスターシューター』ですね。『モンバス』に登場するモンスターを撃って撃って撃ちまくるゲームです」
如月グループが独自に開発した映像技術でモンスターがリアルに再現されているらしい。
自動走行する乗り物の上から、備え付けられているライフルで撃ち続ければいいとのこと。
「これは人間の龍次さんがやっても危険はないでしょう」
「あ……」
よく考えたら、このテーマパークは羅刹が利用することを前提にしている。
少し霊力が目覚めているだけの龍次にとっては一部危険なものもあるかもしれない。
「いざという時のために羅刹同伴なら大丈夫なものもありますよ。こういうのも自然と距離が近くなっていいんじゃないですか」
「そ、そうですね。距離は近い方が……」
優月も羅刹化すれば流身が使える。危ない状況になっても龍次を連れて脱出することができるだろう。
その後も、沙菜から色々とレクチャーを受けて、具体的なデートプランを立てられた。
(今さらだけど、相談する相手沙菜さんで良かったのかな……?)
意外と真面目に相談に乗ってくれたので問題なさそうだが、龍次と同じ男子の涼太に相談した方が良かったのではないかとも思う。
もっとも、沙菜が深く関わっているテーマパークなので、これで良かったのだと考えることにした。
「ちなみにチケットについてですが、当日券を買ってもいいでしょうが、私が格安で売ってあげてもいいですよ」
「タダではくれないんですね」
「タダで龍次さんとデートするのがお望みですか?」
そう言われるとお金を出さざるをえない。
龍次とデートができるというだけでも夢のようなのに、それがタダとなっては、かえって申し訳ない気持ちになってしまう。
優月からお金を受け取った沙菜は、もう一つ意外な提案をしてきた。
「優月さんのことだから相当緊張しているでしょう? 緊張をほぐすいい薬があるんですが使いますか?」
そう言って赤色の液体が入った小瓶を取り出す。
「緊張って薬でなんとかなるんですか?」
「ある程度は影響しますよ。気休めに飲んでおけば、プラシーボ効果を得られるんじゃないですか」
「じゃあ、それもいただきます」
こちらはタダでくれるようだ。
優月は、チケットと一緒に薬の入った小瓶も受け取る。
「ではまあ、当日はがんばってください。面白い土産話を待ってますよ」
沙菜は、いつも通りのつかみどころのない笑顔で応援してくれた。
あまり面白い話になっても困るのだが。
「ありがとうございます。精一杯がんばります」
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