第十五章-初デート-
第84話「行き先相談(惟月編)」
夜分、蓮乗院邸にて。
(う~ん。どうしようかな……?)
優月は自室のベッドの上でゴロゴロしながら悩んでいた。
戦争の後処理が一通り片付き、念願だった龍次とのデートが控えているのだが、問題は行き先だった。
(こっちの世界に何があるのか、よく知らないし……。デートなんて初めてだから、どんなことすればいいのか分からないし……)
楽しみではある反面、ここで龍次を失望させてしまわないかという恐怖がある。
元々龍次は優月のことを過大評価している面があるように思える。それが、実際に付き合ってみて覆ることになるかもしれない。
優月としては、『お付き合いさせていただいている』という認識なので、自分が龍次を最大限楽しませなければならないという考えになっていた。
(惟月さんに相談してみようかな?)
惟月なら羅仙界のことについては熟知しているだろうし、男性でもあるから龍次がどんなことで喜んでくれそうかもある程度分かるかもしれない。
何かあったら気軽に訪ねていいと言われていたので、さっそく惟月の部屋に向かうことに。
惟月の部屋の扉をノックしてみる。
「あの、優月です。今いいでしょうか……?」
「はい、どうぞ」
部屋に入ってみると、惟月は机に向かって読書をしているところだったようだ。
風呂に入った後のようで、ここ最近は大抵三つ編みにしていた髪をほどいており、ほのかにシャンプーの香りを漂わせていた。
龍次とのデートのことを相談しにきたにも関わらず、惟月の普段と違う姿にもドキドキしてしまう優月。
「どうされましたか? 何かお悩みのようですが」
惟月は
なんとなく心のうちを見透かされている気分だ。
「は、はい。今度龍次さんと、その……、デ、デートをさせていただけることになったのですが、こういうことに不慣れなもので……、どんなところにお連れしたらいいか迷ってしまって……」
『デート』という言葉を口にするのが妙に気恥ずかしく、いつも以上にしどろもどろなしゃべり方になってしまった。
惟月は、こちらの緊張までほぐしてくれそうな微笑みを浮かべながら答えてくれた。
「優月さんと一緒ならどこへ行っても楽しそうですが、そうですね……、この羅仙界で遊びにいくとしたら、如月グループが運営しているテーマパークなどはいかがでしょう?」
優月に対する過大評価については惟月も龍次に負けていない。しかし、『どこに行っても楽しそう』と言われるのはこそばゆいがうれしかった。
「如月というと……、沙菜さんの関係ですか?」
「はい。如月グループを主に取り仕切っているのは沙菜さんのお父上ですが、霊京内にあるテーマパークで沙菜さんが色々と関わってアニメやゲームとのコラボレーションを実現しているところがあるんです」
思い出してみれば、沙菜も優月と同じでアニメやゲームといった人間界のサブカルチャーに精通しているのだった。
人間界に比べると羅仙界は、技術こそ進んでいるものの娯楽については充実しているとはいいがたい。そんな羅仙界を変えようとしているのが如月グループだ。
龍次はおそらくアニメやゲームに詳しくないが、かといって嫌っている訳でもないようだった。それなら、自分にとっての得意分野で勝負した方がうまくいくのではないだろうか。
「それって沙菜さんが人間界から持ち帰ってきた作品とかですか?」
「はい。まあ、向こうでの許可は取っていないと思いますが」
そう言って、惟月は微苦笑を浮かべる。
人間界の作品なら自分の知っているものがいくつかあるだろう。話し下手な優月でも話題に困らずに済みそうだ。
「優月さんは龍次さんに楽しんでもらいたいんですね」
「はい。せっかく告白を受け入れていただいたのに、普段のわたしのままでは幻滅させてしまいそうで……」
「普段の優月さんも魅力的だと思いますが、そうして悩んでしまうのもあなたらしさかもしれませんね。私はそういうところも含めて好きですよ」
「えっ……」
『好き』という単語に反応してしまった。恋愛感情ではないと分かっていても、魅力的な美少年からそう言われると妙に意識してしまう。
「えっと……、じゃあ明日、沙菜さんのところに行って詳しい話を聞いてみます」
「はい。おやすみなさい、優月さん」
優月はいつも通りの深いお辞儀をして惟月の部屋を後にした。
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