そしてオレは鳥になった

ジェネシス

そしてオレは鳥になった

「ったく……アイツがあんな奴だったとは知らなかった。」


 時刻は22時、オレはベッドの上で怒っていた。

 親友とケンカした。ただそれだけのことだ。

 しかし、オレには『それだけのこと』とはできなかった。


「なんであそこでミスるんだよ!しかもそれを指摘したら逆ギレしやがって!なーにが『たかがゲームでそんなキレんなよ。ププッ』だよ!こっちは(そこそこ)真剣にやってるんだよ!」


 しかも、俺はそのケンカに負けている。

 その現実からは目を逸らそうとしていた。


「バカにしたような言い方じゃなくたって……いいだろうが……。」


 そう呟き、寝返りを打つ。

 目の前にちょうど窓が見える。


 窓の外を見ながら、オレは昼間のことを思い出していた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 オレとアイツはいつものように放課後の教室でゲームをしていた。

 今日は、特に負けられない戦いだった。


 あと一歩、ここでいつものように技を出していれば勝てていた勝負。そこでアイツはミスを犯した。

 選択する技を間違えたのだ。

 当然それが原因で負けてしまい、ゲームオーバー。


 原因であるミスについて問い詰めたら、


「悪かったよ。」


 の一言だけだった。ただの上辺だけの言葉のようで、オレはイラッとしてしまい、更に問い詰めた。するとアイツは


「ていうかさ、たかがゲームでそんなキレんなよ。」


 と言ってきた。しかも嘲笑のおまけ付で。

 反省のハの字もねえな! とか、いろいろ言ったのだが、あちらは地頭がとても良い。口ゲンカで勝てるはずもなく、お互いに謝りもせずに、オレは教室を飛び出した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 そこまで思い出したところで、回想をやめた。

 また腹が立ってきたからだ。

 アイツが謝るまで絶対に謝らないと心に決めた。



 今日は土曜日。明日は日曜日だ。

 つまり、明日は学校が無い。

 親は二人共、今日は帰ってこない。

 いつもならアイツが明日俺んちにやって来るだろうが、今日の事があったうえでだと、おそらく来ないだろう。



 いつもなら夜更かしをして遊んでいる。しかし、今日は、理由は分からないがその気になれずにそのままベッドに横になったのだ。



 窓の外は暗くなっている。空もこころなしか曇っているようだ


 窓辺に鳥が一羽とまっている。

 こちらをじーっと見つめている。

 見つめ合うオレと鳥。


 そして、オレはふと、考えたことをそのまま口にした。

 今考えると、これがこの話の始まりだったのかもしれない。


「いいよな、鳥は。自我なんて無いからケンカなんかしないもんな。」


 そんな事を呟きながら、オレは眠りに落ちた。

 そんなオレを、その鳥はただただ、じっと見つめていた。


 











 翌日。目が覚めると、視界には見慣れたベッドと、その上に横たわるオレが見えた。


 ……。


 もう一度確認する。視界には見慣れたベッドと、その上に横たわるオレが見えた。



 いや、おかしいだろ!!



 オレはそう叫ぼうとした、がしかし、その言葉が紡がれることは無かった。ただ一つ、


「クルゥ」


 と、鳥の鳴き声が聞こえただけだった。


 そして、オレの意志とは関係なく、オレ《鳥》は飛び立っていく。

 あっという間にオレの住む街が隅々まで見渡せる高さに来た。



(うわー、高い高い高い怖い怖い怖い!)



 そのままオレ、いやもうその鳥でいいや。そのオレが進み始める。



 バサッバサッ……。



 規則正しい、羽ばたく音が耳に心地良い。

 そして……。



(うわぁ、すげえ!)



 見える景色もまた、凄かった。

 その鳥の速度ははじめは遅く、ゆっくりと自分の住む街を見渡すことができた。


 隣町に差し掛かると、そのオレは速度を上げた。あっという間に隣町を出て、そして海が見えた。


 とても広い。果てしなく広い。それはもう、なにもかもが小さく見えるくらいに。



(なんか、この景色を見てると、ゲームのミスとか友達の態度とか、どうでも良くなっちゃうよなぁ……。)



 こんな事まで小さく見えるほどに、その海は広かった。



 そのまましばらく飛んでいると、急にその鳥が急降下を始める。



(え? なんだ?)



 そんな俺の疑問を無視するかのように、オレは急降下を続ける。



(え? ちょっ、まって……。)



 まあ、その鳥の意志がオレに伝わるはずも無く。


 ただただ、その鳥は海に向かって突き進んでいく。

 目の前には広大な海が。次第により細かいことが見えてくるようになった。海上にはたくさんの船が。

 そしてその海の中には……。



(魚?)



 魚がたくさん泳いでいた。どうやら魚を獲ろうとしているようだ。


 と、その鳥は急にその降下を止め、前を向く。

 目の前には同じ様な、しかし一回り大きい鳥が。


 どうやらエサの取り合いを睨み合いで解決させようとしているみたいだ。



(おお! ガンバレオレ! ……って伝わらないんだっけか。)



 続く睨み合い。その様子に、オレは次第に既視感を覚えるようになってた。


 既視感を何故覚えるのかはわからない。ただ二羽の鳥が、さながらケンカの様に睨み合いを──……。



(ああ、そうか。コイツらオレらみたいにケンカしてるんだ。)



 だから見覚えがあるんだ。


 結局、こちらが負けた。


 何故こんなにもたくさんの魚がいるのに一匹のために睨み合いをしなくてはならないのだろう。オレは、そう、ふと考えていた。

 何故、たかだか一匹のために、ケンカをしているのだろうか、と。



(……あれ?)



 そこでふと何かを疑問に思った。


 オレとアイツとのケンカは、小さくないのか。という事を。


(いや、そんなはずが……。)


 だがオレは、そんな考えを無理矢理頭の中から消し去った。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 しばらく飛んでいると、急に空から水が垂れてくる。

 どうやら、雨が降ってきたみたいだ。



 あれからオレは、その大きい鳥とは離れて行動していた。

 魚は、すぐに捕れた。

 食べるために岸へと向かう。




──パァン……




 鳴り響く銃声。しかし、その音は叩きつけるような雨の音に掻き消された。


 当然、その音に気づかない俺。


 そして、捕らえた魚を銜えたオレは岸に戻る。



 そこで目にした光景に、俺は絶句した。


 先程の大きい鳥が倒れていた。

 近づいていくオレ


 見ると、身体に穴が開いていた。


 流れる血は、雨で流される。


 先程まで睨み合っていたヤツと、いきなりの、それも永遠の別れ。


 その鳥に感情はないのだろう。

 狩人に撃たれる。それはよくある事だ。

 それでも……。



(最後のやり取りが睨み合いってのは、無いんじゃねえか……!)



 そう考えずにいられなかった。

 せめて、最後のやり取りくらい……。そこまで考えて、ふと、小さい方の鳥と自分を重ね合わせた。合わせて、しまった。


 俺とアイツが急に会えなくなる事があり得ることが、理解できてしまった。


 たかぶる感情。



(そんなの……そんなの……!)



 そして……。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「そんなの嫌に決まってるだろうが!」


 気がつけば自分の部屋にいた。


「……あ。」


 夢なのだろうか。いや、それにしては妙に現実的だった。

 そこで、ふと窓辺を見る。



 窓辺には、一枚の羽があった。



 たまたま羽が落ちていただけかもしれない。けれど、オレはそう考えることは、何故かできなかった。


 そのまま、窓から外を見る。

 アイツが家の前でウロウロしていた。


「全く……チャイム鳴らすなら鳴らせよな。」


 そう呟きながらベッドから降り、外に出れるような格好をする。


 天気は快晴だ。

 夜のうちに晴れたのだろうか。


 オレは着替えてすぐに、玄関の扉を開け、明るい外へと出ていった。


 さっき出来たばかりの目的を果たすために。


 アイツも俺に気がついたようで、こちらに走ってくる。



──バサッバサッ……。



 頭上で、妙に聞き慣れた羽音がした。

 空を見上げると一匹の鳥が空へと飛び立っていった。



(ありがとな。)



 心の中でその鳥に礼を言って、また、前方のアイツへと走っていった。


 そして、お互いに近くまで来るなり、アイツが口を開いた。


「僕、実は明日──。」




〜fin〜

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