第6話 隘路

 暫くゾンビに遭うこともなく進んだ。まぁ左右が農地だったからな。今はちょっと長めの上り坂に到達したので自転車を押して進んでいる。この辺りは丘を切り通して作った道のようで、左右は切り立った……はさすがに言いすぎだが、なんとか徒歩で上がれるかどうかってくらいの斜面になっている。車線も片側一車線で、所謂隘路というやつだ。

 これが三国志だったらジャーンジャーンとか銅鑼が鳴って左右の高いところから弓矢を装備した兵たちが出てくるところなんだろうが、そんなハプニングは起きない。ただ、ここもまた事故車両で道が塞がっているのが問題といえば問題だ。大型のトラックが横転していて、自転車の通れそうな隙間もない。徒歩なら左右のきつめの傾斜を少し登ればなんとか通れそうだが。


「参ったな。国道じゃなくて側道を通ってくるべきだったか」


 戻れば農地を海側に進んでこの隘路を迂回できる側道があるが、結構遠回りになる。自転車をここに乗り捨てて、先に進むという手もある。少し歩けば小さな小学校と住宅、コンビニのある集落のような場所に辿り着くから、そこで改めて自転車を調達すればいい。

 別に急ぐ旅でもないし、もしそこで自転車を調達できなかったら戻ってきて迂回してもいい。別にそれなら戻って迂回しても同じか。そんなに変わらないなぁ。

 向こうで自転車を調達できれば若干ここで乗り捨てた方が早い、くらいか。よし、自転車を乗り捨てて徒歩でここを越えよう。

 その前に耳を済ませてゾンビの気配が無いか確認する。多分だけど、すぐ近くには居ない。ゾンビの呻き声もノタノタ歩く音も聞こえない。よし、行くぞ。

 四つん這いで傾斜を登り、道を塞いでいる大型トラックの上から先を見る。ふぁっきん。先にゾンビが二体いる。男のゾンビが二体だ。ああー、どうするかなー。これは戻って迂回した方がいいか?

 でもなー、海側の側道はちょっとした住宅街みたくなってる上に道が狭いから向こうも安全とは限らないんだよなー。一体一体の距離は離れてるし、転けさせて逃げるか。そうしよう、うん。

 できるだけ音を立てないように斜面を降りたが、手前の方の男ゾンビが気づいてこちらにヨタヨタと歩いてきた。俺は棒先輩を構えて慎重に間合いを図り、一歩踏み込んで全力で男ゾンビの上半身を突く。俺の渾身の突きを受けた男ゾンビが仰向けに倒れこんだ。その物音で奥のゾンビもこちらに向かってくる。こちらも同じように強烈な突きをお見舞いして仰向けに倒す。

 運動機能が低下しているせいか、ゾンビは一度転けると立ち上がるのに時間がかかる。よし、予定変更。始末していこう。見通しがいいから結構追跡されそうだし、その先で別のゾンビに捕捉されたら厄介だ。

 仰向けに倒した場合は少し慎重にやらなきゃならない。うつ伏せに倒した時と違って激しく腕を振り回して抵抗してくるので危ないのだ。棒先輩が槍先輩なら頭を突いて安全に倒せるのかもしれないけどな。


「がぅrrrrr」

「るおぉぉぉぉぉぉ」


 仰向けに倒れながらも二体のゾンビの視線は完全に俺にロックされている。のたのたと立ち上がった所で背中を蹴り倒し、うつ伏せに転けさせる。別にわざわざ危険な仰向けに倒れている状態で倒す必要もない。もっと切羽詰まった状況ならやるけど。

 うつ伏せに倒して背中を踏みつけるといくらゾンビの膂力が強くてもそう簡単には起き上がれないものだ。斧さんで順番に頭部を叩き割って終了。二体くらいまでならそんなにゾンビは怖くないんだよな。不意の遭遇戦は別だけど。

 四体、五体が同時に襲い掛かってくるような状況だと逃げの一手しかない。武道の達人とかなら次々と頭を叩き割ったりできるのかもしれないが、俺だと一体を始末しようとしている所で他のゾンビに捕まるか、全部倒す前に疲れきって捕まるかのどっちかだろうな。

 この男ゾンビは横転しているトラックの運転手だったのかね。トラックの二台の中身に興味が沸かないでも無いが、どうせ持っていく手段も無い。ここは無視して先に進むべきだろう。

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