第7話 生き残るためには仕方がない

「はぁ、見えてきた」


 二体の男ゾンビを始末した俺は小学校のある集落へと到達した。この小学校は災害時の避難場所の筈だが……人影は見当たらない。ゾンビはいるようだ。グラウンドの奥に見える体育館の辺りに数体のゾンビが徘徊しているのが見える。大きな音を立てない限り脅威は無いだろうが、見つからないに越したことは無い。

 路上には事故った車が点在している。小学校から脱出しようとして事故ったらしい車も見えるので、多分避難所でゾンビが発生したんだろう。スマホで収集した情報によれば、ゾンビに噛まれると数時間から一日程で噛まれた人間はゾンビ化するらしい。噛まれていない人が発熱の末に突然ゾンビ化することもあるらしく、噛まれる以外にも感染経路があると考えられるが……わからないな。考えられるのは潜伏期間中の感染者による飛沫感染だろうか。

 とにかく小学校には近寄らないことにしよう。小学校を横目に進むと、小さな川を挟んでコンビニがあり、その裏手にアパートや神社がある。子供の頃に親に連れられて何度かこの神社のお祭りに来た覚えがあるな。

 コンビニには……ゾンビはいなさそうだ。商品も残ってそうだな。

 もうそろそろ昼か。コンビニで昼飯と晩飯を調達してからどこかその辺のアパートに入り込んで一夜を過ごしてから出発するかね。今から藍堂市に向かっても到着は夕方だ。視界の悪い中、ゾンビを避けながら安全な寝床を確保するのは危ない。

 というわけで100%オフセール中のコンビニにお邪魔する。おにぎりや弁当コーナーには期待が持てないが、レトルトやカップ麺、缶詰にスナック菓子の類は問題無い。飲料の類も大丈夫だろう。見た感じゾンビはいそうに無いが、潜んでいる可能性もあるので慎重に探索する。


 結果としては何の問題もなかった。


 首尾よくレトルトカレーやご飯のパック、缶詰に珍味に飲料水と十分な量を確保することができた。暇つぶし用の小説も何冊か調達した。

 籠いっぱいの物資を手にコンビニの裏手にあるアパートに近づく。周囲をぐるりと回ってみたが、ゾンビはいないようだ。車が何台か残っているので、もしかしたら生存者かゾンビがいるかもしれない。より慎重を期して探索する。

 二階建てて合計八部屋あるようだが、二階には上がらない。一階なら玄関から押し入られても窓から脱出できるが、二階だとその手を使った場合怪我の可能性が高まる。足なんて怪我したら死が一気に近づくから、できれば一階に入りたい。

 これが四階以上の高さがある建物なら話は別なんだけどな。四階以上の高さがあればそうそう地上を歩くゾンビに感知されることも無いだろうから、ある程度気を抜いて過ごせる。らしい。

 これもスマホ情報だから実際に検証したわけじゃないのだ。

 しかし残念ながら一階の部屋はどこも施錠されていた。俺は普通の人なので鍵のかかったドアを解錠することはできない。斧さんでぶっ壊して入ることはできるだろうが、それで大きな音を出すとゾンビに気付かれる恐れが高い。

 なので俺は荷物を降ろして身軽になり、ガスバーナーとペットボトルの水を持って裏手のベランダに回る。ベランダにはよじ登らないといけないくらいの高さがあり、これが俺が今回この建物を今夜の宿に選んだ理由である。この段差によってゾンビはベランダから侵入できず、入り口が玄関だけに限定される。でも俺はここから出入りできる。退路が確保できるのが良いのだ。

 さて、ではお宅訪問。バーナーと水を使って窓を破る。このやり方が短時間で、かつ騒音が少ないらしい。実際にやってみると簡単だ。空き巣の手口でもこの方法が一番多いらしい。今はあれだ、緊急避難なんだ。生き残るために必要なことなので許してほしい。

 鍵周辺を破って外側から手を突っ込んでロックを解除して内部に侵入する。

 汚部屋とまでは言わないが、ゴミが随分と散乱している部屋だった。スナック菓子や、インスタント食品のゴミがメインだ。ゾンビの気配はないが……ソファの上に子供の死体がある。女の子のようだが、一体どうしてこんなところに一人で死んでいるのだろうか?

 死体のフリをしたゾンビかもしれないので、棒先輩でツンツンと突つく。死後硬直はしていないようで、柔らかい感触だ。匂いからして腐敗とかはしてないと思うんだが……参ったな、流石に子供の死体と一緒に寝るのはごめんだ。

 仕方ない、隣の部屋にするか。


「……けて」

「ッ!?」


 振り向くと、死体だと思っていた女の子がうっすらと目を開けて掠れた声で助けを求めていた。なんてこった。生存者だった。

 しかしどうしたものか。この状況下で生存者、しかも小さな女の子とか面倒見切れんぞ。この先小さい女の子を連れて生き残れるか? 無理だろう。絶対に足手まといだ。


「……すまんな」


 俺はそう言って踵を返し、部屋から立ち去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る